もう1つの『黄金』
おまたせしました
家も改築して生活も一変するかと思いきや、正直なところあまり変わらなかった。毎朝4時に起きて運動着に着替えた後に1時間走り、1時間筋トレ。シャワー浴びたら私服に着替えてちゃっちゃと朝食と美奈の昼食を作る。そして朝食が冷めぬうちにグダグダと眠り続ける彼女を起こす。
「んん〜…あともうちょっとぉ〜…」
「…」
ばふぉあっ!
「ひぁあんっ!!」
「起きて顔洗って来なさい。お汁が冷めるだろ」
目覚めの悪い大蛇にはかけ布団を勢いよく取っ払うのが1番だ。とはいえ勢いが強過ぎると大きくビリッといってしまっう可能性もあるので、そこはほどほどな加減で。美奈は大欠伸をしながら寝癖と顔を洗い、眠気がまだ残りふらふらと左右に揺れる頭を支えながら席につく。
「いただきまぁ…ふぁあ〜す」
「はい、召し上がれ。いただきます」
俺らは必ずいただきますを言ってから朝食を食べる。メニューは米とパンを大体交互に主食とし、それに合ったオカズを作る。たまには美奈が作っても良さそうだが、果たして彼女に6時前に起きるなどという芸当が出来るのだろうか。前に聞いてみたが、絶対無理だと強く押し返されたのを覚えている。
そして7時半になる前には、俺は仕事に行く。玄関で靴を履きながら、昼食はどーだこーだ、買い物があればあーだこーだと彼女に言ってから俺は玄関のドアを開ける。
何らいつもと変わらない、今日も多分変わらないだろう。
「そんじゃ今日もやるか。トレーニング」
「前回は23分19秒、最高記録は49分13秒だ。記録更新がんばー」
「っし、はぁああああ…っ!!」
ボワァッ…ボシュウッ!!
唯一変わったことがあるとするならば、仕事の休憩時間にロボと『黄金の戦士』のコントロールをすることぐらいだろうか。あれからコツを掴んだのか、はたまた自分の『神気』のコントロールが上手く出来るようになったのか、着々と変身時間を伸ばしていた。
調子の良し悪しにもよるが平均して30分超えは当たり前になって来た。力の入れ方というより、いかに無駄な力を使わないかに重点を置いた結果、今まで過剰に放出していた『神気』は5割ほど放出を抑えるのに成功している。
問題ならば、変身の度に地獄が揺れてしまうのは少しアレだが、今のところ変身による実害が出たって話は聞かないし、俺が地獄全土にやばいやつがいるってのを知らしめることで亡者の反発を抑えることにもなっているようだ。実際上の役職のやつら何人かに力のことを話した結果、おかげで亡者達がびびって反抗意識を無くすから助かるとの声もある。
ボシュウッ
「時間は?」
「65分41秒、大幅更新だな」
「シィッ!」
今日は調子が良かったのか持続時間を更新した。実際に戦えば60分も経たずに『神気』が無くなるだろうが、それでも時間制限無しの力はありがたかった。これだけ力を持続させることが出来れば、『究極生命体の力』が必要になる相手でも時間を気にせず戦っていけるだろう。
「だんだん力の扱いにも慣れて来たな。戦闘中、突然活動限界が来ることも無さそうだ」
「でも実際に戦ったらどうなるか分からんな。別に戦闘意識が掻き立てられるわけでも無いんだろ?」
「たしかにな…『金の瞳の戦士』の時はすぐにでも誰かと戦いたかったのに、なんでだろ?」
俺達はしばらくこの力がもたらす性格の豹変について悩んだ。
覚醒前は『金の瞳の戦士』以上に暴走したり制御不能になったり、もしくは常に誰かを殴らなきゃ気が済まなくなるような形態だと思っていたのだ。だからそうならぬよう、まずは『金の瞳の戦士』の荒々しさを徹底的に抑える修行をしていたのだ。しかし今の心持ち的にどうも修行の成果が実ったとは思えなかった。別に修行の時のように力を強引に抑えずとも、すんっとすぐに落ち着けてしまうのだ。
「ん〜…恐らくだけど力を向ける相手が違うんじゃないか?」
「力を向ける相手? どういうこった」
互いの悩み声を打ち破るかのようにロボはそう言った。力を向ける相手が違うとはどういう意味だと尋ねると、ロボはふぅむとなお考えながら自分の考えを説明した。
「これはあくまで予想だが、『金の瞳の戦士』は下向き、『黄金の戦士』は上を向いてんじゃないかな?」
「…どういう意味?」
「目線の話だよ。『金の瞳の戦士』は自分より弱いやつを求めてはひたすら殴り付けるだろ? まぁ、『魔神の力』の持ち主は大体そうだけど」
それを聞いて俺は心の中でたしかにと頷いた。思い返せば『金の瞳の戦士』の時の自分は誰かに挑むよりも、弱いやつを狙って片っ端から殴っていたような気がする。言うなれば『自分より弱いやつ専用の力』という感じだろう。
「でもさ、『黄金の戦士』になったら今度はさらに強いやつを求めて上へ上へと向かっていくんじゃねぇかなって。だって『金の瞳の戦士』とか、お前だったら『究極生命体の力』さえ持ってるのに新たな力を求めたじゃん。その貪欲さっつぅか、力への果てなき飢えっつぅか、まぁ、そんな風に馬鹿みたいに強い力を手に入れようとするから、弱いやつらには目もくれないってとこじゃね? 実際、力だけなら地獄じゃお前が1番だろうし」
「なるほどな…つまり地獄には俺並の力を持ったやつがいないから、強いやつと戦いたいっていう意欲が湧かないわけか」
「俺が話したのはあくまで仮説の1つに過ぎないし、もしかしたら戦った瞬間に暴走ってのもありえる。とにかく今は戦わなければ何もないってことしか分からんな」
「ふぅむ、でも誰かにぶつけたいって気にもならんしなぁ。央力ならって思ったけど、アイツ最近見ねぇしなぁ」
もしも力を試す相手なら俺は央力かなって思った瞬間、そういやここんとこアイツが脱獄したって話を聞かないことを思い出す。最後に脱獄したって話を聞いたのは、俺らが『黄金の戦士』がどれだけ持続出来るかっていう実験を始めて間もない時だった。
今まで脱獄するや真っ先に挑んで来たアイツだが、今回は何故か真逆の方向の等活地獄に現れたとのことだ。しかもその暴れっぷりは今までとは違い、挑んで来た相手のみを片っ端から倒していくといったものだった。俺はその時修行の途中だったからロボが1人で行って来てくれたのだが、なんとロボが現場に急行する前に他の処刑執行人の手によって鎮められたとのこと言うのだ。
話を聞くにある程度倒したところでがっくりと地面に膝をつき、無抵抗のまま牢に連れられたとのことだ。
それからというもの、アイツは今も牢獄にこもったままらしいのだ。
「央力の奴…どうしてんだろな。なんであんな急に人が変わっちまったんだろ」
「んなこと知るか。アイツの執念はお前も知ってんだろ、死んでもなおお前を殺したがってたんだ。それを放棄しちまうほどのショックな出来事がアイツにあったんだろうよ」
「『黄金の戦士』だよな、多分原因はさ。でもアイツならそれでも向かって来そうだがなぁ」
「分からんぜ? 実力差が離れちまったからショックで寝込んでるとか。意外と傷つきやすいやつだったりするのかもよ」
俺らは今一度央力のことを思い出し、
「…」
「…」
「「まっさかぁ〜」」
そんなことあるわけがないと互いに言った。あの央力が傷つきやすいなどと、絶対あるわけがないと、お互い笑いながら。
――
「…」
だが、彼らの慢心とは裏腹に、着々と闇の芽は育っていった。暗い暗い牢獄で鎖に巻かれ、ただ1人孤独を感じながら力を求める者がいた。ある男を殺すことだけを生き甲斐にし、死してなおその怨みを絶やすことなく燃えたぎらせる者は、その夢を完膚無きまで打ち砕かれたのだ。
殺すはずの相手が、自分がこの手で殺すはずの憎い仇が、今自分には到底追いつけぬ世界へと行った。ついさっきまで互角だった相手が、ぬけぬけと大きく先を行った。それに追い付くため、男は血の滲む鍛錬を積んだ。針山を砕き、毒蟲を喰み、業火に座り、極寒を走った。全ては憎い仇を殺すために。
しかし、しかしどれほど鍛錬を積もうと決してあの『金色の光』には追い付けぬことを悟った。自分の限界を知り、無限に望んでいた夢幻を、粉微塵にされた。
「これじゃ…ダメだっ…アイツを超えられないっ…っ!!」
その者は鎖に体を抑えつけられながら、唯一動く顎と指を、潰さんとまでに強く握った。
キュインキュインッ…キィイイイイイイイイッ!!
超えられない、これでは無理だ、アイツを殺せない。こんな…
ボワッ…
こんなっ…
ボウォッ…ゴウォッ…
こんな力ではッ!!
ズゴゴゴゴゴゴッ…
俺はっ!! アイツをっ!! 超えられないっ!!
ゴォッ!! ボシュウッ!!
その瞬間、男の中の秘めたる力が、激しい嫉妬と自分への怒りを糧に、闇をまとって解き放たれた。
次回の投稿もお楽しみに




