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アンバランス・ワールド  作者: がおー
第2章 〜うちの主人は死神様〜
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最悪の日

おまたせしました

 今日もいつもと変わらぬ日々。

 トレーニングをして、朝食を作って、美奈(みな)を起こして、朝食を済ませてから仕事に行く……そんな日になるはずだった。


 あれからコトリバコの件について色々調査した結果、とある廃村にそれらしきものを作ったとの情報が入った。到着するやいなや、そこには呪われて殺されたのか、数多(あまた)の霊が飛び交っていた。

 俺はまだ意識が残っているの霊は同僚に任せ、霊同士が集まり過ぎて自我を失ったものや、哀れにも呪いの矛先を向けられた動物達を相手に大鎌を振るった。幸い悪霊化しているものは少なく、対峙しても何の問題も無く倒せるものばかりだった。


 しかし肝心のコトリバコの調査は難航を示した。コトリバコの呪いは開けてこそ意味があるから、もし開けなければただの箱なのだ。だからそれっぽいものを見つけたとしても、それがコトリバコである確証は持てない。何しろ、()()()()()()()()()()()のだから。


 結局俺らは箱を見つけられないまま調査を打ち切った。どーせならそれらしきものを片っ端から対処していけばいいと思うのだが、残念ながらそれは出来ない。何故なら『死神の鉄則』……というのだろうか、そんな感じのものの一文にこんなのがある。


 『証拠無ければ、触れるべからず』


 どういうことかと言うと、それが呪いとか憑かれている原因だと、はっきり分からない場合は手を出さないということだ。なんでかって聞いたら、もし間違ってとある土地の守護神とか、古くからあるお守りの結晶体なんかを(はら)っちゃったら大惨事を引き起こし兼ねないからだそうだ。


 もちろんそんなことしたら『死神』という名前自体に大きな傷も付き、死神全員のイメージも悪くなる。そういうわけで、確証が得られるまで俺らはコトリバコらしきものを片っ端から(はら)うことが出来ないのだ。


 結局、その日俺らはコトリバコによって命を落としたであろう霊達を(はら)うことしか出来なかった。一応有名な心霊スポットと呼ばれていた場所らしいが、その元凶となった霊達は全部あの世に逝ってしまったから、そのうち訪れる者はいなくなるだろう。コトリバコも外の木々の部分が自然に朽ちて、崩れ去っていく分には問題無いと資料にあった。



 ここにはもう誰も訪れないだろう。そう思ってその場は解散してしまった。



 そして数日後、事件は起きた。俺はいつも通りの朝を済ませ、いつも通り獲物を探しながらフラフラと歩いて時のことだった。

 同僚から、コトリバコが開けられたかもしれないとの情報が飛び込んで来たのだ。俺は呼ばれた場所に急行すると、町中に嫌な雰囲気が(ただよ)っていた。


 その正体は異形の塊。人の形が(みにく)く崩壊したものが、町中をうろついているのだ。このまま放置していては、人々は次々に取り憑かれて呪い殺されるであろう。


 ブンッ!!


 俺は大鎌を振るって、呪いの塊を片っ端から(ほうむ)った。崩れた肉に刃を突き立て、ビィッと音と血しぶきを立ててひき千切る。何体も何匹も、どっから湧き出て来るのか不思議に思うくらい呪いは町中に蔓延(はびこ)った。

 もちろん俺と違って生きてる人間は災厄が起きているなどとつゆとも知らず、呑気に辺りを歩き回っている。こちとらお前らの真横で呪いの返り血を浴びまくっているというのに。


 ドシュッ!!


「あー、めんどくせマジで」


 呪いや呪怨をまとった霊を裂きながらふと思う。全くもって張り合いが無いのだ。これじゃ普段の悪霊討伐となんら変わらない。いや、こっちの方が抵抗して来ても力が無さすぎるからつまらない。悪霊の方がもっと強く、もっとめんどくさくて、もっと厄介なのに、この呪いの塊と来たら雑魚過ぎて話にならない。


 本来死神としてある姿なら、この緊急事態をなんとかしようと仲間と二人三脚でこの呪いの元を断とうとするのだ。しかし俺という戦闘狂からしたら、雑魚がわらわら集まっているだけで、大鎌をブンッと振ればそれだけで一網打尽(いちもうだじん)。本当につまらない。


 ドシャンッ!!


「……ったく、どっから湧いて来んだコイツら」


 呪いを断たねばと焦る気持ちより先に飽きが来た。そんな俺の前に公園で1人(うつむ)く少年と、それに襲いかかる呪怨の塊が現れる。呪怨の塊はトロトロとすっとろい動きで少年に近づくもんだから、俺は有無を言わせず大鎌をそいつの頭に振るい落とした。そいつはドシャッと潰れると煙を上げながら天に昇ってった。


 そしてなおベンチにいる少年は(うつむ)いたまま顔を上げない。彼ならきっと見えているはずなのに、何故以前のように逃げようとしなかったのか。不思議に思ったのといい加減呪いを相手にするのに飽きたのが重なって、俺はその子に話しかけた。


「どうした。そんなところで(うつむ)いて」


 俺がそういうとその子はしばらく黙った後、


「おーがさん……」


 と涙ぐみながらこちらに顔を見せた。その顔は涙でぐちゃぐちゃになり、不躾(ぶしつけ)ながら思わず笑みが口からこぼれてしまった。こんな時、何か彼の涙を消せるような冗談を考えるタイプの俺は、前に彼にキャベツをあげたことを思い出すと、


「どうした随分と浮かない顔して。買ったキャベツの葉に蝶の幼虫でもくっついてたか?」


 と言ってみた。


「……ははっ、たしかにそりゃ(へこ)みますね……」


 しかし俺の冗談は届かず、その子は愛想笑いを浮かべるだけだった。その愛想笑いも5秒も持たずに消えてしまい、ため息と共にその子はまた(うつむ)いてしまった。

 これはやっちまった、ちょっとふざけ過ぎたと思った俺は、少し真剣な顔で彼に尋ねた。


「……悩みがあるなら聞くぜ。もしかしたらその悩みのタネが俺らが今動いてる異変の影響って可能性もあるからな」


 もしかしたらコトリバコが開けられたことによって、その子の大事な人が犠牲になったのかもしれない。先ほどからかなりの数を切り裂いて来たが、そいつらがすでに人々に手を下していた可能性もゼロではないから。


「……!?」


 その子は目を丸くし、涙をジュルルッと引っ込ませながら振り向いた。その反応を見る限り、やはり何か嫌なことがあったようだ。


「そ、それって、どんな異変なんですか!?」


 さっきまでとは打って変わり、彼は真剣な眼差しでこちらに食いつく。興奮しているせいでその口はぐるぐる回って文章はめちゃめちゃだったが、聞き取れないほどではなかった。そんな彼を落ち着かせるように俺はゆっくりと、今自分達が動いている異変、そしてその元凶である『コトリバコ』の名前を出した。


 彼も落ち着けたのか、冷静な口調でいくつか質問をこちらに投げかけた。俺はその質問に答えると、彼の中で渦巻いていた不安の種の正体が分かったのか、


「心当たりは……あるんです」


 と声を絞るようにして言った。


「……マジか。ちょっと詳しく教えてくれ」


 こんな時だからこそ生の情報が欲しい。俺は彼との距離をグイッと縮めると、どんな些細なことでもいいから教えてくれと頼んだ。


 彼は焦りながらもゆっくりと、冷静ながら早口で、5の情報を出してはやはり違うかもと4ほど取り消し、9のことを言ってはそれに8を付け足した。


 どれもこれも異変の解決に役立つものばかりだった。最後に彼の友人が箱に手を付けたのがいつ頃かと尋ねると、どうやら1週間前には触れていたとのことだ。


 1週間、助かるか否かは五分五分のところだ。精神が弱ければもうすでに手遅れ状態かもしれない。そうなったら彼の友人ごと(はら)うこととなるだろう。しかし完全に助からないとも限らない。まだ取り込まれていなかったら救い出せる希望はある。本当に微妙なラインだ。


「大丈夫だ、君の友達は俺らで何とかする。だから安心して俺らに任せてくれないか、下手に首突っ込まれたら困るからさ」


 俺はこれ以上被害が広がらないのと、彼がこちら側に関わらないよう、釘を刺した。呪いの対処中に関係ない一般人が入り込んで、それまでやって来たことが台無しになるなどあるあるなのだ。彼だって人一倍そのようなことの重大さは分かるだろうから、きっと俺らの邪魔をするような真似はしないだろう。


 とりあえず同僚に呪いの元凶の居場所を伝えると、俺は切り裂くのに飽きた呪怨達をまたぶちのめしに行くのだった。

次回の投稿もお楽しみに

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