4人目
おまたせしました
翌日、俺ら3人は紹介された場所を訪れた。そこは家では無くアパートで、紹介された人以外にも何人か住人がいるようだ。言い出しっぺの法則として、俺がその人の場所を調べ、先頭を行くことになった。
「およ、新しい入居者さん?」
「あっ、いえ、違います」
ここの入居者だろうか、途中水色の髪を束ねた女性に話しかけられる。俺はすかさず違います、と答えそそくさにその場から離れる。そもそも入居する気なんて無いのだから、ここの住人と長く話す必要は無い。
その人がいる204号室を早足で目指し、扉のインターホンを押す。
ポーン
「はーい」
扉の奥から若い声で返事が聞こえ、加えてどちら様ですかと尋ねて来る。俺は、美月さんからの紹介だと答えると、しばらく相手は黙ってしまった。
しかし数分秒ほど経ってから、何の前触れ無く、
ガチッ…
と鍵の音がしてドアが開いた。そしてそこから、ひょこんと住人が顔を覗かせた。
「どうぞ」
そこにいたのは、一頭身。俺らと同じような体型をした生物がそこにいた。
「あっ、お邪魔します」
「お邪魔しまーす」
「お、お邪魔します」
俺らは住人に頭を下げながら部屋の中に入って行く。見ると部屋の中は散らかっていて、布団などがごちゃごちゃとしている感じだった。
他人の部屋にお邪魔して、しかも出会って間も無い相手にこんなことを思うのは失礼だが、お世辞にも綺麗な部屋とは思えなかった。
「ごめんね、ちょっと散らかってるから、適当に足場とか作っちゃっていいよ」
「ありがとうございます」
部屋の住人がそう言うと、律斗は気にも留めていないのか、いつも通りの笑顔を浮かべて適当に足場を作り始める。
そんな彼の姿に俺と満筑義は口を開けながら、同じように足場を作る。すると部屋の住人は台所の方から、
「何飲みますかー? お茶とか牛乳とか、あとりんごジュースとかもありますけどー?」
との声が聞こえて来た。しかしこちらは彼の力を借りたいわけだから、変な気を使わせるわけにはいかない。
「あっ、いえ。お構い無くー!」
ひとまずここは断ろうと考えていると、満筑義から先にそう言ってしまった。
すると部屋の奥から、わかりましたーっという声が聞こえ、トコトコと住人が戻って来た。
「そういえば自己紹介したっけ……?」
「まだですね」
住人は俺らと同じようにもみあげで頭をかきつつ、俺らにそう尋ねて来る。律斗がそう答えると、住人はふぅっと一呼吸置いた後に、
「初めまして、俺の名前は『刻月 武陽』、君らのことは一応美月さんから聞いてるよ。というか、教えられたというか…」
と口を歪めながら答えた。やはり武陽も俺らと同じように、美月さんらに警戒心を持っているようだ。
「じゃあ、こちらも自己紹介しなきゃだね。俺は、『此泉 律斗』、年齢は17です」
武陽さんの自己紹介が終わると同時に、律斗も自己紹介を始めた。そんな彼につられて、俺と満筑義も自己紹介をする。
「あっ…と、俺は『永木 光野』、歳は18です」
「俺は『丹波 満筑義、年齢は光野と同じで18です。どうぞよろしく」
俺らも自己紹介を終えると、武陽さんの顔つきが少し明るくなったように見えた。すると彼は、
「へぇ〜、2人とも俺と年齢同じなんですね〜。なんとなく年上っぽそうだったから、意外です」
とこちらをまじまじと見ながらそう言った。まさかの同い年に俺も満筑義も肩の力が抜けてしまう。
そんな中、律斗だけは、
「俺だけ年下……」
と小さくボヤきながら肩身を狭くしていた。
もちろんその言葉は俺らの耳に届いていたが、だからどうしたという意見しか出て来ない。そんな彼の言葉は聞かなかったことにして、俺はいよいよ本題を持ち込んだ。
「あの、武陽さん。俺らがここに来たのには理由があるんです」
「知ってるよ。俺にネットとか編集技術を教わりたいってんだろ」
その言葉に俺の思考は停止する。まだこの話題は一度も出していないはずだ。というかここに来たしたことと言えば、自分用の味足場を作ったのと自己紹介のみだ。
「な、何故それを…」
「美月さんがべらべら喋ってたから」
俺がそう問うと、ため息混じりに武陽さんはそう答えた。どうやら美月さんは先日俺らの家に押しかけた後、その足でここまで赴き、色々と喋っていったようだ。
しかしそれなら話は早い。俺らは彼に、要望を聞くのか否かを確認するだけでいい。
「じゃあ、俺ら……というか、そういうのを知りたいのは俺だけなんだけど、来てくれるの?」
俺がそう聞くと、武陽さんはむぅと少し悩つが、彼はキョロキョロと周りを見ながら答えを出した。
「んー、俺は別に行ってもいいかな。ただ……」
その答えに俺は一瞬喜んだ、がその後に続く言葉にピタッと喜びの流れは止まる。
「ただ?」
「周りを見ようか。このガラクタを」
「……」
武陽が両腕を広げるかの如く、もみあげで辺りの物を指しまくった。そこは先ほどから視界に嫌でも入る、ガラクタの床だった。
「そっちに行くには、まずはこれらを処理せにゃあかんからな」
「おぉぅ……」
ついこの間、手付かずの部屋を1つ掃除しただけで1日潰したというのに、まさかまた同じことをするとは思わなかった。
こうして、俺は2、3日の間このガラクタだらけの部屋にお邪魔し、ガラクタ共を片付ける羽目になったのだ。流石に人様の部屋までは自分らには関係ないと、満筑義と律斗は協力してくれ無かった……と思っていた。
だが意外にも昼頃にちょこちょこ顔を出してはゴミをまとめたり、細かいところの掃除までやってくれた。
軽く1週間はかかると見込まれた掃除がたった2、3日で終わったのは、言わずもがな2人が手伝ってくれたおかげだ。俺のやりたいことのためにわざわざここまでしてくれては、感謝の言葉をいくら述べても足りない。
こうして武陽はアパート暮らしから、俺らと屋根の下を共にするのだった。
結局彼がアパートから持って来た所持品は自分用のパソコンくらいで、それ以外の物は捨てるか売るかだった。
そして彼が来てから数日も経てば、俺も少しずつ編集技術を覚えていった。ただ……
「結構覚えてきたじゃん。ま、容量は…律斗の方が良さげだがな」
「あ、あはは……」
「ぐぬぬ…」
何故か律斗も編集技術に興味を持ち、俺と共に学び始めたのだ。しかも俺と比べてサクサクと物事を覚えていく。
負けじと俺もガチャガチャとキーボードを弾くが、思うように編集は捗らない。
「ま、ゆっくり覚えていけばいいさ。律斗だって覚えるスピードが速いだけで、まだまだ素人なんだからさ」
「えぇっ、まだ覚えることあるんですか!?」
「……マジかよ」
「とは言えど、俺もプロって呼べるほどじゃ無いからな。あまり多くは期待しないでくれな」
武陽はそう言うと、ゲームの配線や録画機の準備を進めた。
「光野、このソフトならギリ予算内だぞ。それとこのゲームデータは…」
満筑義は新しく買えそうなゲームのソフトや、眠っていたゲームデータを確かめてくれている。
律斗だってこうして技術を教わっているのは、俺の力になりたいがためにやってくれているのだろう。別に当人がそう言ったわけじゃ無いが、彼はそういう奴なのだと、しばらく付き合ううちに分かるようになったのだ。
「そんでさぁ、もし活動するってなったら、何て名乗るつもりだよ」
「んっ? えっ? あー、活動名かぁ…そういや考えて無いなぁ……」
武陽の問いに、俺はもみあげを止めふぅむと考えてしまった。たしかに自分の名前をそのまま活動名にするわけにはいかないから、何か名前を考えなくてはならない。
しかし、いざ唐突に言われてもこれといっていいのは思いつかない。
すると、横から
「じゃあさ、『ガオウ』ってのはどうだ?」
と満筑義が提案して来た。
「なんでガオウ?」
と俺が聞くと彼曰く、
「なんとなく好きな言葉だから」
とのことらしい。
『ガオウ』
たしかに、活動名としては悪くないかもしれない。
次回の投稿もお楽しみに