究極を我が身に
おまたせしました
ズギンッ!! ズギンッ!! ズギンッ!!
「ガァアアッ!! グゥゥゥゥウウウウォオオオオ!!」
絶え間なく押し寄せる激しい感覚の波は留まるところを知らず、耐えられない苦痛を味あわせる。
だが現実はそれだけで終わらない。この苦痛に耐え切れず、死ぬことさえ究極生命体の力は許さないのだ。自身の体が何としてでも生きるため、ショック死し、自壊していく細胞を容赦なく再生させてしまう。返ってそれが更なる苦痛を呼び、再び体を襲う。
まさに八方塞がりな状況に俺はただひたすら悶えながら耐えるしかなかった。何とか押さえつけようだなんて全く考えられぬ程に。
ズシャッ! グシッ! ギギッ…
苦痛を掻き消そうと、喉が裂けんばかりに叫び、声を荒らげ、体をうねらせた。破壊と創造が混沌とする状況を何としてでも打破せんと。
ドグンッ!! ドグンッ!! ドグンッ!!
意識せんともはっきり聞こえる鼓動の音は心臓が必要以上に肥大化したことを痛烈に伝え、もう体内は人間のものではないと理解させられる。いや、決して体内だけでない。腕も脚も腹も胸も頭も、何もかもがかつての俺ではなくなっている。
そうか。これが、これこそが『究極生命体』なのだ。制御出来ない愚者には徹底的な苦痛と絶望を味わせる。
だが使いこなした暁には必ず、絶大な力を授けてくれるのかもしれない。
ならば答えは1つ。必ず、絶対に使いこなしてみせる。
何て思えたその時、
グギュウウゥゥ……グギギギゴゴッ……
歪かつ、重たく鈍い音が体中から響いて来た。いったい何が起こっているのかと思ったのも束の間、みるみる体から苦痛が引いていく。絶え間なく押し寄せていた五感の大波も気がつけば小さな細波と化しているし、けたたましく鳴り響いていた心臓の音も小さくなっていく。
はてなと思いながらゆっくり立ち上がった時にはもう、体は元通りに戻っていた。
「あ……れ? 体…いったい……?」
舐め回すように体の至る所を見回すが、特に変わりようのない普通の体だった。先程までの苦痛が嘘のように感じられなくなり、せめて言うならびっしょりとかいた汗の気化熱による寒けがあるくらいだ。いたって健康体、何の支障も発生しない。
(無事か、貴様)
「あっ、魔神。うん、これといって問題なし。さっきはやばかったけど」
すると魔神が少し心配したような口調で話しかけて来た。それに俺は特に問題はないと返すと、魔神はため息混じりに呆れながら胸を撫で下ろした。ということはやはり、想像以上にヤバかったのだろう。死なせてもらえないってのはなかなかに耐え難い。
(まったく…無茶しやがるぜ。にしてもまただ…俺が抑え込もうと思わなくとも、勝手に力が収まりやがる)
「うーん、ひょっとして時間制限があるとか? それとも連続して使ったから体がもたなくなった? いや、でもそれじゃ乗っ取られるか…」
何故究極生命体の力が突然切れたのか、俺と魔神は考えた。しかし悩めど明確な答えは見つからず、ひとまず時間制限があるのかもしれないという結論に落ち着いた。もしこの仮説が当たっていたら、金の瞳より扱いづらいかもしれない。何せ金の瞳には時間制限など存在せず、自分の力が続く限り半永久的に変身が可能だからだ。しかし時間制限付きとなると、もしもの時に力が使えない、肝心なところで変身が解けてしまうなんてこともあり得る。
それらの疑問を払拭するためにも、俺は再び変身してみようと持ちかけた。魔神は怪訝な表情を浮かべるも、俺を止められないことを悟ったのか、はいはいと生返事をしながら承諾した。再びあの苦痛を味わうことになると思うと不安で仕方ないが、それでも俺は必ず力を使いこなすと胸に誓った。その誓い背もたれに、俺は苦痛に耐えれるよう目をつぶり、全身に力を入れた。
「ふんっ…」
しかし、
「……あれっ」
苦痛の津波はいつまで経っても押し寄せない。恐る恐る目を開けて状況を確認しても、特に何か変わった様子もない。
「魔神、ちゃんと離してんの?」
(やってるわ! だけどこの力、うんともすんとも言わねぇんだよ!)
そう聞いてもちゃんと押さえ込む力を抜いていると魔神に怒られてしまう。まさか力に見放されてしまった、もしくはもう使えなくなってしまったのか、という不安が湧き上がって来るが、決してそんなことは無いと願いたい。
(多分だけどよ、1回使ったらしばらく休ませなきゃならないんじゃないか? 一応力があるってのは感じるぜ。貴様だっていつまでも金の瞳じゃいられねぇんだしよ。いい機会だ、ちったぁ休んどけ)
「そう…かなぁ。まぁ、今はそうだと願うしかないか」
魔神曰く、力を使えばしばらく休ませる必要があるのではと言われた。俺はなるほどたしかにと思うと同時に、やはり使い辛い力だなぁと感じた。時間制限があり、使用後はしばらく使えない。なかなかにリスクのある力だと痛感しながら俺は、魔神の言われるがまま木の幹に寄りかかり、体を休めた。
いったいどれだけ休めりゃいいのか、どうすりゃあの力を制御出来るのか、時間制限がある場合それはどれだけなのか、などなど山ほどある問題の解き方を考えながら。
翌日、変身が可能になったので再び力を解放するも、またしても周囲を感じ過ぎる苦痛に苦しむ。俺にとっては永遠に等しき時間であったが、魔神曰くおよそ30分で強制解除された。変身が解けた後、また変身しようとするもやはり叶わず、修行は明日に持ち込む。
明後日、どうやら力を使い終えると、およそ1日使用不可能になるようだ。1日1回しか使えない力と考えると結構不便な力だ。相変わらず力は使いこなせず、30分の変身の間悶えていることしか出来なかった。余った時間は地元のボランティアに当て、お礼の食料を確保する。夜は山の近くの森の中で過ごすのだが、何故か動植物が集って来る気がする。
明々後日、使いこなせそうな目処はなかなか立たない。魔神の助言として、使いたくない力は使う必要ないんじゃないか、とのことだ。抑え込むのとは違う、使わないという選択肢だ。果たしてうまくいくのかと悩みつつ、明日が来るのを待つ。
明明明後日、昨日魔神に言われたことを試してみる。力を使わないなんて果たして出来るのかという不安が込み上げるが、とにかく今はやってみるしかない。
「スゥ〜…フゥ〜…」
呼吸を整え、精神を落ち着かせ、変身の準備をする。なかなか解決策が出ず、ただ苦痛を味わうだけの日々。これが解決策の糸口になると信じて、俺は究極生命体に変身した。
ドクンッ…ドクンッ! ドクンッ!!
ドクンッ!! ドクンッ!! ドクンッ!!
ビキビキビキッ…グガガガガガッ!!
「ゥゥ…ォオオオオ……ッ!!」
やはり苦痛の津波が押し寄せる。何日も何日も同じ苦痛を味わっているとはいえ、そう簡単には慣れそうにない。変な再生力で脳が壊れないせいで、今日もまた30分間の苦しみ。
しかし裏を返せば、自分はこの苦痛の中でも強制的に頭は動き続けてくれるのだ。ならば体に命令することは出来る筈。
(力を……使わないっ……)
俺は体に言い聞かせた。過剰な五感の能力を使わないと。
すると、
フッ……
「……っ」
先程までの苦痛がじわりじわりと引き始め、見え過ぎていて逆に見えなかった景色はだんだん見えるようになり、鼻を貫く匂いは消え去り、舌の上を踊っていた混沌した味も無くなっていく。
「……お、おお…」
まさか、まさか成功するなんて思わなかった。力を使わないことへの喜びより、それが実行出来た動揺の方が勝っている。俺は今一度目を動かし、体の状態をよく見ようとした。
瞬間、
ズギンッ!!
「ゔぁっ!! やっちゃった!! クソッ!!」
それが間違いであり、再び景色がぐわんと揺れて、再び五感を感じ過ぎる能力が発現してしまった。
次回の投稿もお楽しみに
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