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アンバランス・ワールド  作者: がおー
第1.9章 〜鬼の生き様〜
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魔神の力

おまたせしました

 魔神の言葉に彼は出す言葉を見失っていた。考えが(まと)まらず、何を言えばいうのが正解なのか、いやそもそも自身の出す答えがあるのかさえも分からなかった。

そんな彼に対し魔神は顔色1つと変えず、困惑する彼のことを見下ろしたままだ。


「やれやれ、これだから人間は嫌なんだ。力を好き放題乱用した挙句、その使用料を求めりゃ慌てふためくんだからな」


(そ、そんなこと言われても…)


 魔神にそう言われてしまった彼はうぅむと悩み込んでしまい、尚更言葉を失ってしまった。何でこんなことになっているのか、何故身に覚えの無い力の請求を見ず知らずの魔神に求められているのか。



 そもそも自分は何者なのか。



「まっ、おかげで俺は貴様の命を肉体ごと貰える権利を得たわけだ。そーゆーわけで、じゃな。貴様の命、貰うから」


(えっ、ちょっ、待っ、待って下さい! んないきなり…)



 しかし悩んでいるのも束の間、魔神はグッと彼に手を伸ばした。どうやるかは分からないが、その腕が宣言通り自分の命を取るのだと直感的に察した彼は、慌てて後ろに下がり命乞いをした。だがそれが逆に魔神の怒りを逆撫でしてしまい、伸ばした腕は乱暴に彼の体を片手で掴んだ。片手で握られただけで彼の体は脚と肩から上しか見えなくなってしまい、一切の抵抗も許されなかった。


 ギギギッ…


(ううっ…く、苦しい……)


「ハッ、ゴテゴテ暴れられるのも鬱陶(うっとう)しいんでね。使用料も払えねぇ屑はさっさと喰っちまうか」


 魔神は巨大な手の中から逃げられぬよう、少しだけ手に力を入れただけだった。しかし彼にとっては骨がギギギッと悲鳴を上げる程の苦痛であり、それに表情を歪めるしか出来なかった。

 そんな彼を魔神はグァーンッと口をかっ開き、ヌラヌラと濡れた牙で今にも彼の肉を喰い千切らんとしていた。


 だが、


(ま……ま…待ってくれ……し、使用料とかっ……て、こ、これ…からで……も……な、何とか……ならないの?)


 彼は喉奥から懸命に声を絞り出して魔神に尋ねた。それは単なる命乞いであったが、その問いかけを前に魔神はピタリと手を止めた。

 そして彼の瞳に目を向けるとそこには、まだ死にたくないと必死に生にしがみつく者が持つ炎があった。更に奥には、まだ諦めていないという強さと、何とかこの状況を打破せんと言わんばかりの意思の硬さがある。


 それを見抜いた魔神はふんっと口元を上げると、彼を下ろさないまま、



「それなら交渉だ。これから毎日、休みなく俺に()()を捧げてもらおうか。もし1日でも供物が無かったら、その時は真っ先に貴様の命を貰うぞ」



 と言った。出された交渉、そして供物とやらの意味が分からない彼は、握られながらもそれが何なんなのか尋ねた。すると魔神は更にニヤッと笑って、自らが求める供物について話し出した。



「簡単なものだ。これから貴様は毎日鍛錬を重ね、それにより(つちか)った肉を捧げてもらおう。つまり俺に殺されたくなければ、貴様は毎日休むことなく鍛錬に励めばよいのだ。簡単であろう?」


(そ、そんなんでいいのか?)



 その供物は、これから毎日彼がトレーニングをし、それにより付いた筋肉だった。魔神は命を取らない代わりにそれを供物としていただくと言うのだ。何処か拍子抜けな供物に彼は内心ずっこけるも、他者の命を何日までに何人だとか、自分の何かを代わりに失うとかでは無くて安心していた。思えば、先程も力の行使の代わりに自分の身長を取っていたと言うから、もしかしたらそこまで大きなものを捧げる必要は無いのかもしれない。


 そう思っていると、魔神はそっと彼を下ろし、


「おら、分かったらサッサと起きる。起きてサッサと鍛えやがれ、死にてぇのか」


 と言って早く起きるよう急かした。


(お、起きる…?)


「そうだよ、早くしろ」


(えっ…で、でも……俺はどうやって……あれ? …お、俺は…何が……俺は……俺って……?)


「あー、そっかめんどくせっ」


 だが目覚め方の分からない彼は…いやそんなの些細(ささい)な問題だ。


 自分自身が分からない彼は自分の頭を押さえながら混乱し、ふらふらとおぼつかない足取りで倒れそうになる。


 するとそんな彼を見かねたのか、魔神は彼に近づくと、



 ドンッ!!



(……えっ?)


「ったく、手のかかるやつだ」


 下で渦巻く濁流(だくりゅう)の中へと、勢いよく突き落とした。彼の体は真っ直ぐ落ちて行く、抗うことなど叶わない。



 そしてドボンッと頭から濁流(だくりゅう)に呑まれた瞬間、




「ハッ……?」




 彼の意識は戻って来た。


「……えっ? こ、ここは……」


 キョロキョロと辺りを見回すとそこには、木製の棚に広い窓が最初に飛び込んで来た。次に白い布団、白い服、広いベット、白く硬い手すり、などと少しずつ目から情報が入って来る。その情報をある程度整理し終え、落ち着きを取り戻した彼の頭が導いた答えは、ここが病院の中であるということだった。

 だが何故自分がここにいるのか、ここまでどうやって運ばれて来たのか、そこまではどうしても思い出せなかった。

するとそんな彼の元へ白衣を着た1人の女性がやって来た。


「あなたは…?」


「大丈夫ですよ、穏雅(おうが)さん。今はゆっくりしててください。すぐお母さんが迎えに来ますよ」


(おーが? おうが? 名前か…?)


 その女性は彼のことを優しい手つきでベットに寝かすが、彼の頭の中には呼ばれた名前が何者なの分からずにいた。自身がそう呼ばれたのだから、きっとそれが自分の名前なのだろう。しかしだからと言って、一重にその名前を飲み込むことは出来ない。


 自分は何者なのか、おーがという名前を持った者はどんな人間なのか、その答えは一向に出ない。


 するとガラリと扉が開く音が聞こえ、そこからもう1人の女性が入って来た。正確な容姿はカーテンに(さえぎ)られてよく分からないけど、映った影から女性ということだけは分かった。


 しかし知らない、というより分からない女性を前にしても、自分は混乱するだけだった。


「だ、誰ですか…?」


 俺はその女性にそう尋ねた。何故自分の前に突然姿を見せたのか、自分とどんな関係を持ってるのか、そんな(いささ)かな疑問を持って尋ねたのだ。



 しかしその女性は、すっとこちらから目をそらして、



「すみません、人違いだったみたいです。私の子じゃありません」



 とそそくさに言ってその場から立ち去った。まだロクに顔も合わせてないのに、でもそう言うならそうなのかもしれない。まさか母親が息子のことを間違えるなんてそう無いだろうし。


「あら、残念…。大丈夫よ、穏雅(おうが)君。すぐに親御さん見つかるから」


「あっ、はい…あの、もう大丈夫なんでベットから出ていいですか?」


「えぇ、1人で歩ける? よければ手伝おうか」

 

「いや、大丈夫だと思います…」


 そう言いながら俺はベットから降り、1歩1歩歩いてみた。最初こそふらついたものの、10歩も歩かないうちにもう俺は普通に歩けていた。

 そして病院の中を見渡しながら、1つ1つ分かることを確認していく。ボードに書かれている文字を目にすれば1文字1文字読めるかどうか確認し、食堂に行けばこの食品は何なのか確かめた。

 そうやってある程度周り終えると、尚更自分に対する疑問が深まった。何もかも分からなかったからじゃない。むしろ逆で、それらが全部分かるからこそ、自分に関して何も分からないのが不思議で仕方ないのだ。果たして自分は何者なのか、『おうが』って呼ばれる俺は何なのか。その答えはまだ出ない。



 すると、



(おう、元気そうじゃないか。供物、忘れんなよ?)



 と何処かで聞いたような声が何処からか聞こえて来た。俺は何処からか話しかけられてるのかと辺りを見回すが、そのような人物は何処にもいない。そもそも遠くから話しかけられてるのなら、音はもっと反響する筈だ。なのにあたかも間近で話しかけられた感じということは、



(ここだよ、ここ。貴様の腕ん中だ)



 体の中から直接言っているというわけか。俺はその場をそそくさに離れ、トイレの個室に駆け込むと声に言われるがまま自分の右腕を電話みたいに耳に付けた。


(おいおい、わざわざトイレで話すことなんかねぇだろぉい。まっ、いいか。まずはおめっとさん、無事意識を取り戻したみてぇだな)


「夢で会った魔神なのか…? 何の用だ」


 声の正体は予想通り、夢で出会った魔神だった。まさか現実世界でも話しかけて来るとは思ってなかったが、こうして話しかけられたのなら仕方ない。俺は電話するみたいに魔神に応じ、何の用だと尋ねた。


(あん? んなもん決まってんだろ。ちゃんと約束覚えてんのかってことだ。言っとくけど、供物を(みつ)ぐのは今日から始まってからな。それと…)



 スッ



(貴様の敵がわんさか来てるぞ)



 すると魔神は更にそう付け加えた。



「俺の敵? それってどういう…」



 俺は魔神にそう尋ねようとした瞬間、ゾッと何か嫌な気配の塊が病院の近くに来ているのを感じ取った。

次回の投稿もお楽しみに



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