彼女が歩んだ悪の道
おまたせしました
私は生まれ変わった。もう我慢なんかしなくていいんだって、そう思えば心に羽が生えたように軽くなった。すると体に巻き付いてた鎖が嘘みたいに無くなって、今まで出せなかったものがいくらでも出せるようになった。
私は、ひたすら悪の道を突き進んだ。
ひゃっほう、私は自由だ。自由になったんだ。
悪の道こそ、自由の道、私の正義だ。
その日から私は今までの自分を殺し、1人で自分の道を進んだ。私を虐めてたやつらはもちろん、見ているだけで助けようとしないやつらも、とうとう最後には全く関わったことないやつでもこじ付けの因縁をつけては胸ぐらを掴みにかかった。
泣いて謝ったってやめる気はない。
だって怒ってないし、特別な恨みを持ってるわけでもないから。
授業態度も今までとは一変、糞真面目に受けなくなった。机の上にどかっと脚を乗せ、偉そうに腕を組み、時々ガムをくちゃくちゃ言わせながら噛んでやった。注意されりゃわざと逆ギレ、そうでなくとも目が合っただけで因縁付けるみたく机を思い切り蹴りながらブチギレて全力で授業を妨害してやった。それで何度も授業が止まったり、別室に呼び出されたりしたけど、そんなの別に大した問題じゃない。
休み時間になれば誰ふり構わず近寄っては、
「お前、私のことやらしい目で見てただろ。キモいんだけど」
とか、
「お前さ、前からウザかったんだよね。ありもしない陰口とか散々言って来やがってよぉ」
そう言ってみたり、他にも、
「よくも私のこと滅茶苦茶にやってくれたな。そのお礼、たっぷり返してやるよ」
何て話しかけては、動かなくなるか、血まみれになるまで殴ってやった。親呼出とかある度に期待したけど、来ない度にまだまだなんだなって自分を励ました。もっともっと悪にならないとって、更に悪の道を進んだ。
殴る蹴るの他に、便器の中に顔突っ込ませたりとか、倒したやつの頭とか手のひらとかを追撃でグリグリッと踏みにじってやったりとか、後は理科室にあったアルカリ性の薬品が入った瓶の中に手を突っ込ませたりとか色々やった。他にもまだやってるんだけど、それらは公開○○○とか、歯へし折るとかいうくだらなくて、小ちゃいものとかだから、私の悪の道には全然ふさわしくない。
そうして1週間も経たないうちに、私は学校1の悪になった。
誰も彼もが私の思うがままに動き、誰1人と逆らわなかった。何か裏で色々動いてたりするみたいだけど、そんなのどうでもいい。私は頑張った、頑張って悪の道を歩んだんだ。
さぁ、いよいよ仕上げだ。後はこのことを聞き付けて、親が来てくれるのを待つだけ。そうすれば見てくれる、絶対に。
そしたら何て言ってやろうか。悪らしく、何だクソ野郎共って呼んでみようか。そしたらきっと泣きながら、この子は何て酷い子に育ってしまったんだって嘆くかな。それとも、あなたは何て悪い子なのって頬を引っ叩くかな。
どっちだっていいや、私を見てくれさえすれば。
その筈だったのに、
「おい…どういうことだよ…コレは……」
「渡辺美奈、君はその…今から少年院に行くんだ。はっきり言おう、君みたいな生徒はうちにとって害悪なんだ。だから君はもううちの生徒じゃない。明日君の家に役所の人達が来るからな」
「はぁ……? 何言ってんだ!! パパはっ!? ママはっ!? 普通親呼ぶのが先だろうがっ!!」
「今回の件は君の両親が決めたことだ。それに君とは離縁するとまで言って、書類まで送って来たぞ。まったく、手間かけさせやがって…この親不孝者が…」
最後まで私は親に見てもらえなかった。教頭曰く、私は少年院行きになり、しかも離縁まで知らず知らずのうちにさせられていた。
そしたらもう、私を見る必要はない。
私は、見てもらえないまま捨てられた。
見てもらおうとあんなに頑張ってたのに。
その後のことは今ひとつ思い出せないけど、雨が降って来たから橋の下で雨宿りしたとこは覚えている。気が付けば私の目からは涙が溢れ、止めようとしても止まらなかった。
今までの努力が全て否定され、生きがいさえ見失った私はただ途方に暮れるしか無かった。
私は誰なの? 何処で何をどうして間違えたの? 何をするのが正解だったの? 何をしたのが間違いだったの? 私は何を夢見ていたの?
私は…私は…私は……
「どうすればよかったのよぉっ!!」
答えなんて出なかった、出せなかった、出す気力も無かった。
ただ止まない雨を見つめるくらいか、出来るのは。止んだらいっそ死んでやろうか、いや、そんな勇気もない。
もう、何かもう、何かも全部どうでもいいや。
「アハッ…アハハッ!! アハハハハハハハハハハハッ!!」
それから立ち上がった私は培った喧嘩のスキルで生きて来た。弱そうなやつを狙い、金をふんだくり、その金で腹を満たした。そうなると悪名が広まって動けなくなるから、捕まる前に私はなけなしの金を全部使って脚の代わりとなるものと、それを扱うのに必要なものを片手に街を出た。
でも特に行く宛も無かった私は、風の吹くままにバイクを飛ばした。足がつかないよう、長くその場に留まることはせず、今日という日々をひたすら生きた。でもロクな知識の無い私がいつまでも生きてられるのは無理だった。こういうのを死期って言うんだって、そん時は本気で思った。
そして偶然なのか必然なのか、私はたまたま凄いヤンキーが近くにいるっていう噂を聞いた。ちょうどいい、最期くらい華々しくソイツに喧嘩ふっかけてやろう。そんで丁寧にボコられて、解体されればいいかな。いや、多分そう簡単には殺しちゃくれないだろうな。きっとソイツに私の○○を奪われて、その後もソイツのためだけに生かされるんだろうな。
最後まで自由なんて無い、きっとそうなる。
いいじゃん、もういい、私を見てくれるんなら、歪んだ愛でも何でもドンと来いだ。どうせ死ぬなら、誰かに尽くし、ソイツのために生きてやろうじゃないか。
の筈だったのに…
「あー、うん。いいんじゃない」
「美奈、ここら辺に宿とかある?」
「やれやれ、ちゃんと野菜も食べなさい。太るぞ」
「別にあん時のことは気にしてない。言いたくないなら言わなくていいだろ」
何でこの人は、この化物は、私のことを見てくれるの? 私のことを気にかけてくれるの?
何故こんなにカッコいいの? どうしてそんなに無情になれるの? 何でそんな無情になった顔がカッコいいの、イケてるの?
私の悪なんかより、もっと凄い悪なの? どんな手段を使えばそんな悪になれるの? どうして私はこんな暴力サイコゴミ糞馬鹿野郎に惹かれちゃうの? 惚れちゃったの? 何がこんなに私を惹きつけるの?
分かんない…分かんないのに、でも胸が熱くなる。私、彼にときめいてる。体が熱くなってる。
もしかしてコレが恋ってやつ? 惚れるってやつ? 運命の人ってやつ?
…何だよ、こんなヤツがいたのかよ。
――
暗闇の中、私は初めて他人に自分の過去を語った。そういや、思えば王牙以外、ロクに話したことあるやついないんだけど。でもここまで自分のことを話せたのは、自分でも驚きだ。
どうやら私は思ってる以上に彼のことを想ってるみたい。こんなに誰かのことを想ったのは親以外いないかも。いや親の時もここまで想ってたかな? もう思い出せないし、わざわざ思い出すまでもない。
彼は私の全て、ずっと側にいることが私の幸せだ。これからもずっと、絶対に離さないし、離れることなんて無い。
「いつまでも、いつまでもずっと一緒だよ」
それから王牙の過去を聞いた私はいっそう彼に尽くすようになった。私の力が少しでも彼の夢に役立てるなら存分に使ってもらって構わない。彼の敵となる者は、必要ないだろうけど私も一緒にやっつけてあげるから。絶対逆らわないよう、培った力できっとねじ伏せてみせるから。
だからずっと側にいてね。絶対に見捨てたりとかしないでね。
次回の投稿もお楽しみに
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