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アンバランス・ワールド  作者: がおー
第2章 〜うちの主人は死神様〜
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地に堕ちた光

おまたせしました

 シュウウウ……


「ふん、呆気なかったな」


 地獄の熱気を物ともせず、大きく抉られた大地に1人立つ男はそう言った。その先には何かを大きく引きずったかのような跡が地平線の先まで延びている。しかしそれも幾千もある傷跡の1つに過ぎず、他にも傷つき、破壊された地獄の大地は山ほどあった。

 一見すると強者同士の激しい激突が起こったのかと思わされるが、実際のところは違う。


 穏雅(おうが)央力(おうり)の決闘は…いや最早それを決闘と呼ぶにはふさわしく無いとその場に居合わせた者なら口を揃えて言うだろう。


 それはまさしく蹂躙(じゅうりん)、圧倒的強者による暴力だった。


 勝負など最初(はな)から付いていた。『黄金の戦士』となった央力(おうり)でさえまるで歯が立たなかった。その間、わずか5分も満たずに央力(おうり)は敗北した。


「さて、お前もやるか?」


「……」


 穏雅(おうが)は疲れた素振りなど爪のかけら1つ見せず、絶大な神気(じんぎ)を放ちながらロボに尋ねた。異変を聞きつけ、駆け付けたロボもその惨状の目撃者の1人だ。

 しかしロボが央力(おうり)に加勢する間もなく勝負は決した。そもそも処刑執行人が罪人と共に戦うのも変な話ではあるが。

 ロボは穏雅(おうが)の前に立つことしか出来なかった。『Code name "GOLD"』を使い、果敢に挑むことも。それをすれば自分も央力(おうり)の後を追うことになるのは火を見るより明らかである、とロボのコンピュータも心も理解しているのだろう。


「まっ、無理せんでもいいんだぜ? 『黄金の戦士』である央力(おうり)だって俺に勝つのは無理だったんだからさ」


 穏雅(おうが)はニタニタと不敵に笑いながら辺りの抉られた地面に目を落とす。言葉ではなく、現状を見せることでより強く実力の差を突きつけながら。そして穏雅(おうが)は円を描くようにフラフラと歩いていると、


 フッ…


「っ!」


 と突然『黄金の戦士』の変身を解いた。何をする気かとロボは一瞬驚くが、穏雅(おうが)の振る舞いを見るにロボとも戦う感じでは無かった。一見油断と慢心を露わにしているようだが、もちろんそうでは無くいつでも迎撃が出来る状態だとロボは分かっていた。だからロボはただ拳を固く握り、豹変(ひょうへん)したかつての仲間の言葉を待つしかなかった。

 そして唐突に穏雅(おうが)が口を開いたかと思うと、


「今此処でお前を潰してもいいけど…どうする?」


 とロボに尋ねた。


「…どうするって、何がだよ…主語がねぇんだよ」


 ロボは少し強めな口でそう尋ね返す。少しでもそういう態度を見せないと、このまま負けっ放しになってしまいそうだから。

 すると穏雅(おうが)はグッと口角を上げて、



「決まってんだろ、お前と戦うのを待ってやるってことだ」



 と言った。何故そんな発想に至ったのかとロボは思っていると、間髪入れず穏雅(おうが)はさらに付け足して言う。


「7日後だっ! 7日後にロボ、俺はお前を潰しに行くぜ」


「なっ! お、お前…それはっ!」


 その期日に思わずロボは前に出る。何せ穏雅(おうが)の言う7日後というのは…


「それは世継(よつぐ)の軌道実験前じゃねぇかっ!!」


「はははっ! そうだよ、お前が俺に負ければその時は、お前は息子に会えず終いだ! まっ、親がいなけりゃ存命なんて出来ねぇだろうし、すぐに後を追うかもな」


「てっ…テメェッ…!」


 ロボは思わず怒りに任せて殴りかかろうとしたが、そこは理性よりも強いコンピュータが体を静止してくれた。しかし心で燃え上がる怒りの炎は留まるところを知らず、ギリギリと固く握られた拳にその姿を現していた。


「それじゃ7日後にこっちから行ってやるよ。もちろん、気が向いたらそれより前に来てもいいんだぜ」


 そんなロボに穏雅(おうが)は笑いながら言い、1人地獄の奥、針山まで歩いていく。


「……クッソ!!」


 ゴォンッ!!


 その背中をただ見ていることしか出来なかったロボは、行き場を失った悔しさと怒りを拳に込めて地面に叩きつけた。今はたったそれしか出来なかったのだ。



 穏雅(おうが)豹変(ひょうへん)ぶりと地獄での暴虐は瞬く間にニュースになり、地獄中に知れ渡った。特にマスコミの注目が集まったのは妻である美奈(みな)と、かつて肩を並べていたロボだ。死神の仕事に嫌気がさしたとか、妻のワガママに耐えられ無くなったとか、最後には彼女とロボの不倫疑惑さえ話題に持ち上がった。もちろんその問いに対し2人は全面的に否定するものの、では何故穏雅(おうが)が突然狂ったのかは説明出来なかった。


 すると『説明出来ない=(イコール)2人の間にやましい関係がある』とマスコミは取り上げ、世論はそれを大きく取り上げた。ことの元凶である穏雅(おうが)にはあまり触れず、徹底的に世論は2人を叩くように仕向けたのだ。

 そんな中、2人は同じ屋根の下、逃げて来た美奈(みな)をロボが家に迎える形で過ごしていた。


「…もう…嫌よ……何で? 何で穏雅(おうが)があんなことに…」

「……」


 ロボの家、特に外からの防音機能がよく取れた部屋の中で美奈(みな)はとぐろを巻いて泣いていた。彼女の気持ちなど一切無視した世間の言葉、いわれのない暴言の数々など、新聞やテレビなどでは散々に言う。

 だが1番彼女の涙を誘ったのは、娘である(きよ)が強姦されて産まれたという疑いをかけられていること、そして何より愛人の唐突過ぎる変わり様だった。本来ならロボが彼女の家に出向く形で過ごそうとしていたのだが、彼女曰く、


穏雅(おうが)の思い出がいっぱい詰まった家にいるのが逆に辛い」


 とのことで、仕方なくロボの家で過ごすことにしたのだ。今の美奈(みな)には最早2人の愛の結晶を見ることすら辛いようで、部屋で1人うずくまりながら小さく泣いている。ロボは何とか彼女を励ましつつ、ワンワンと両親を求めて泣き続ける(きよ)をあやすのだった。

 しかし時間は刻一刻と迫って来る。あれからもう2日も経ってしまったから、あと5日後には穏雅(おうが)がロボを潰しにやって来る。当然時間も穏雅(おうが)も待ってくれはしない。だからこそロボには現状を打破するものが必要だった。


 1人で新兵器の開発に勤しむには。


 ロボは(きよ)を抱いたまま美奈(みな)のいる部屋に向かう。


美奈(みな)っ…」


 部屋の戸を開け、ロボがそう呼ぶと、


「おうっ!! っ……」


 美奈(みな)は一瞬喜んだ顔を浮かべたが、すぐに口を曲げて目から涙を溢れ出す。ロボのデザインは何もかも穏雅(おうが)をベースにしているから、声の感じも似ているのだろう。それが辛くも彼女の中にいる愛人の姿を思い起こさせたのだ。

 しかし目の前にいるのは愛人の姿をかたどった模造品、いわば同じ顔をした偽物だ。どれほど2人が性格も好みも何もかも違えど、その事実だけは変わらない。


美奈(みな)、この子を頼む。君の娘だろ」


 ロボはそう言って(きよ)を見せるが、美奈(みな)は頑なに顔を上げようとしない。彼女の心は愛する実の娘さえ手に取れないほど傷つき、病んでしまったのだ。

 だがこのままでは事態は解決しない、むしろ悪化するばかりだ。娘の(きよ)はワンワン泣きながら懸命に母親に小さな手を伸ばしている。ここで彼女が拒絶してしまったら、この赤ん坊には永遠に治らない傷を与えてしまう。


美奈(みな)っ!」


 少し強くロボは言って美奈(みな)(きよ)を渡そうと試みる。(きよ)も父親がいないのと母親が相手をしてくれないショックからか伸びる腕も少しずつ弱くなっている。それはつまり親に見捨てられたと心に刻むことに等しい。そんなことが起きたら一生物のトラウマなど生易しい、二度と親を始め何もかも信じられなくなるのだ。

 そんな残酷なことをするのかと訴えるようき、ロボは彼女に強く呼ぶ。



(お母さん…お父さん…何で私を見てくれないの? 算数のテストもこんなに頑張ったのに……体育だって私が1番足速いのに……何で、何で、私の何がいけないの……?)

「……っ!!」



 その瞬間、美奈(みな)の中に幼い日々の光景が映し出されたのか、親に見捨てられた自分の姿が思い起こされた。何をしても何も言われず、どんな時もいない者扱い。褒められも叱られもせず、ただ無関心に『そう』とだけ言われたあの頃。

 そんな自分と娘が重なったのか、あるいはあれほど嫌っていた両親と自分が重なったのか、美奈(みな)は蛇が飛びかかるかの如く跳ね起きると、


(きよ)っ!!」


 と叫びながら娘をその腕の中に娘を抱きしめた。瞳から大粒の涙を流しては、娘の髪の毛に(こぼ)れさせる。しかしそこにはたしかに娘を想う愛情があり、幼心にもそれが伝わったのか(きよ)ははっしと力強く彼女の腕を握るやワンワンと今まで1番大きな泣き声をあげた。泣くことしか感情を表せない赤子だからこそ、悲しい時も嬉しい時も同じように泣くのだろう。


 今は2人きりにした方がいいと思いながらロボはその場を去ると、そのままその足で研究室へと向かった。美奈(みな)(きよ)を見てもらうのはスタート位置に立つに過ぎない。問題はあと5日以内に穏雅(標的)を撃破する兵器を作らなくてはならないのだから。体全体のパワーアップをしている時間はもう無いだろう。せいぜいいじれて片腕のみか、あるいは部分的なものか。とにかくやれるだけやらないと、こうして悩む時間すら惜しいのだから。


 とロボは研究室で頭を抱えながら新兵器の開発に勤しんだ。



 そして時は少し(さかのぼ)り、地獄の入口をさらに超えたところ。いわば死者の魂が()()()に行くかを決めるところにて、満身創痍の1匹の鬼はある者と出会っていた。



「…なるほど、そこで俺つまりにアイツを止める力を身につけて来いってわけか」


「そうだ、少々不本意だがお前にしか頼めん。お前に地獄の未来を任せる」



 そのある者は、魂の行き場の最終決定を下す最高位に位置する者、またの名を閻魔大王(えんまだいおう)だ。地獄行きか天国行きかを決める大王は今、地獄で悪名を馳せる鬼に頭を下げて頼みごとをしているのだ。

 何故こんなところに央力(おうり)がいるのか、そしてこうして話し合っているのかというと、それはごく単純なもの。穏雅(おうが)に敗北した央力(おうり)はそのまま遥か彼方、地獄の果てへと殴り飛ばされ、落下した先がたまたま閻魔大王(えんまだいおう)がいる建物の近くだったのだ。

 もちろん地獄で今起きている異変の解決に頭を悩ませていた閻魔大王(えんまだいおう)は、これを好機と見たのか近衛(このえ)央力(おうり)の治療をさせたのだ。そして央力(おうり)が目覚めるや、こうして頭を下げて頼みごとをしているのだ。


「はっ、そんな大層なことしねぇよ。ただ、アイツに負けっぱなしは嫌なだけだ」


「それでは行って来い。手続きはもう済ませてある」


 閻魔大王(えんまだいおう)はそう言って部屋の奥にある階段を指差す。



「分かった分かった、()()だろ。行ってやるさ、穏雅(アイツ)を止めるためならなっ」

次回の投稿もお楽しみに

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