決闘再び
おまたせしました
「何かさ…日に日に笑顔が増してないか…アイツ…」
「そうですね、あんな笑顔のロボはそうお目にかかれるものでは無さそうです」
究極の闇の中、央力はベットに座りながら始まりを司る闇と共にロボの笑顔を眺めていた。本日も目を司る闇がロボの家に潜入しては、息子を愛でる様を撮っている。案の定ロボはアイルム・ピキュルに気づくことなく頭だけの世継と仲良く…一方的にお喋りだ。
「ほら世継、見えるかな? これがお前の心臓だよ。心臓は大切だからね、1番手をかけたって言っても過言じゃないんだ」
ロボは笑顔を絶やさず世継に世継自身の心臓を見せる。ケースに入れられ、粘度の高い培養液に浸された心臓はゆらゆらと静かに揺れながら、主人の体の中で動く時を待っているようだ。
その姿は当人の純粋な愛とは裏腹に、傍目から見ればケース内に入れられた生首に向かって心臓片手に延々と話し続ける様は狂気以外の何者でもない。もしかしたら最狂の鬼はロボなんじゃないかと、最狂の鬼と謳われた者が思うほどに。
「目を司る闇、もういいぞ。戻って来ーい」
ロボの狂気をみたいな笑顔を見てられくなった央力は帰って来るよう娘に言うと、はぁーっと深いため息を吐きながらベットの上に寝転がる。
「何か…見ちゃいけないものを見た感じだ…」
「そうですか、私としては中々楽しめましたよ。生首に心臓を見せる狂気っぷり。今後はどんな臓器を見せつけるのかと想いを馳せると面白いです」
「お、おう…それなら内臓を司る闇でも呼んで来ようか? あの娘なら楽しんで見るんじゃない?」
「いいですね、少し話し合ってみるのも面白そうです」
始まりを司る闇はそう言ってからスクッと立ち上がり、スタスタと行ってしまった。その背中を見送りつつ央力は先ほどのロボの笑顔を思い出す。今まで央力が見て来たのは敵意溢れる眼差しを持った顔と、揶揄うみたいに意地悪く口を歪める顔ぐらいだった。そんなやつがあんなに笑って子供を作ってる、そう考えるとどこか不思議で、しかし何となく納得出来ると央力は思った。
ただ殺すためだけの強さを求め、それ以外は何もいらない。ずっとそう考えていた自分にさえ家族が出来た、邪魔するやつは鬱陶しく蹴散らして来たのに、娘達に振り回されるのには何か許せてしまう。何でこんなんになっちまんだと思ってると、
「ご主人様…」
「優しさを司る闇か。どうした?」
央力のところに優しさを司る闇がやって来た。司る闇が闇ということもあって強い娘達の中に入るわけでも無ければ、何かに突出しているわけでもない。司る闇の通り、丸い性格している優しい娘だ。よく自分みたいなやつからこんなに優しい娘が生まれたと驚くほどに。
さすさす…
「何で来たんだ? 甘えたくなっただけならそれでいいけど」
そんな自分を変えたかもしれぬ優しさを司る闇の頭を撫でながら、央力はここに来た理由を尋ねた。
「…むぅん…ご主人様…それが…ノートゥリュアンが変な噂を耳にしたとのことで…」
「あの娘ならしょっちゅう変な噂集めてるだろ。今更だ」
央力の言う通り、噂を司る闇は色んな噂を集めてはそれをばら撒いている娘だ。それはどうでもいいものから人の胸を抉るえげつないものまで様々だ。今まで集めて来た噂も央力にとってはどれもこれも興味をそそられるものでは無かったから、今回もそうだと思ったのだろう。
「で、ですが…今回の噂は今までと違いまして…」
「何だ、重要なことならもったいぶらずに言ってくれ」
央力がそう詰め寄ると、優しさを司る闇は主人から目をそらしながら答える。
「ご主人様の敵、穏雅が…攻めて来たらしいんです。まるで力を見せつけるみたいに…」
優しさを司る闇がそう言いかけた瞬間、
「ご主人様っ」
闇の中から始まりを司る闇が真面目な顔をして現れた。その姿に何やら重大なことが起きたのだと央力は直感的に察し、顔から一切の緩さを消す。
「今日の食料を調達していたレグォーマが、穏雅の手によって痛めつけられ…」
「いい、みなまで言うな」
央力はそう言って始まりを司る闇の発言をピタリと止めると、その瞳に凄まじき殺意と憎悪を宿らせる。しかし何とか湧き上がる怒りを押し殺すと、
「救命を司る闇に脚を司る闇のことを頼んでおけ…そして、今外に出ている娘達を全員俺の影に戻すんだ。今すぐっ」
と始まりを司る闇に命令した。アダムは静かにかしこまりましたと了承し、他の娘達に戻って来るよう指示を出しに行く。
そして央力は誰もいなくなった部屋の中で静かに怒りの炎を燃え盛らせると、ギリギリと歯を嚙み潰し、拳を握りつぶしながら敵の元へと足を運んだ。
――
時は遡り、地獄の処刑執行人達はそろそろ昼休憩時間を迎える頃のこと。
ガチッ…
「えっ、穏雅? 帰って来んの早ない?」
「…」
そろそろ昼ご飯にしようと冷蔵庫の中に作り置きされていたご飯に手を伸ばした時、ガチリと鍵が開く音が聞こえて来た。何かしらと顔を出すと、そこには家の主人である穏雅がいた。普段ならここで夕飯の一言なのだが、今それを言うには早過ぎる。しかもただいまの言葉も無しに帰って来るのも不自然過ぎる。
「どうしたのよ、まさかクビ? んなわけ無いよね?」
「…」
美奈は首を傾げて尋ねるが、穏雅の表情が変わることはなかった。何で早く帰って来たのか理由も言わず、無表情という言葉がぴったり合うような顔でジッとこちらを見ている。その表情にどこか畏怖というか、今まで味わったことの無い夫の何かを彼女は感じ取った。
「な、何か言いなさいよ…クビならクビだってはっきり言ったらどうなのっ!?」
しかしその恐怖を押し切り、負けじと美奈は強めの口調でそう尋ねる。すると、穏雅は不敵に笑い、
「…まさか。帰って来たのは別の理由だよ」
と言った。その目にはまるで光が無く、いつもの穏やかな顔は完全に失せていた。最早そこにいるのは穏雅とは思えない、別の何かだった。
「じ、じゃあ何なのよ…」
「そうだねぇ…ちょっと無敵を目指してみようかなって思ったんだ」
「は、はぁ? 急に何言ってんのよ、わけ分かんない」
「いいんだよ、美奈は最後にしてやっから」
狂ったように話が全然噛み合わない穏雅に、美奈はどこか恐怖を覚えていた。普段ならすぐさま頰を引っ叩いているはずなのに、何故か今はその手が出なかった。もしも手を出せば、フルカウンターで返される。穏雅なら絶対にしないはずのことなのに、何故かその姿が彼女の頭に焼き付いてしまう。
「じゃ、手始めにあの2人から潰して来るよ」
そんな美奈を置いて穏雅は家を出て行ってしまった。その姿をしばらく見ていることしか出来なかった彼女だが、やがてヘナヘナと腰が砕けながらその場にヘタレこむ。はぁ〜っと忘れていた息を恐怖心と共に吐き出しながら。
そんな妻を置いて穏雅は地獄に足を踏み入れると、何か拳を振るえる対象を探し始める。強い神気を辿り、それを発しているやつの元へと。
「…」
そして見つけたのは、央力の娘にして究極の闇の1人、脚を司る闇だ。自分の手を前脚と言い切って4足歩行しながら今日の食料を調達するために地獄を歩き回っている。そんなレグォーマだが究極の闇の中では実力は中ぐらい、ちょっと強いかもってぐらいに入る娘だ。
「あっ、穏雅だ。邪魔ならしないでよね、あっしは今食料集めに忙しいんだから」
「…ふぅん」
脚を司る闇は穏雅に出会うや、そう言って距離を置いた。何故ならレグォーマは目の前の相手が自分のご主人様と肩を並べる実力者であることを知っているからだ。だから下手に戦えば血を見るのは明らか、食料を取って来ることも出来なくなる。
しかし、
ビュッ!!
「っ!!」
バゴッ!!
有無を言わさず先手必勝と言わんばかりに、穏雅の拳は脚を司る闇の顔を殴り飛ばした。レグォーマはゴロゴロッと大地を転がり、やがてピクピクと体を痙攣させながら立ち上がることなくその体を闇へと変えていく。まるで実態が保てず、元の力の概念だけに戻るかのように。
「雑魚だな、少しでも期待した俺が馬鹿だった」
穏雅はそう言い残すと、新たな獲物を求めて別の神気を頼りに歩き出す。
そして時間は戻り、穏雅の前には復讐に燃える央力が立ちはだかる。
「貴様ッ…俺の娘に手を上げたらしいなッ!」
「ふん、んな雑魚のことなど知るか」
央力の拳は怒りに震え、掛け声と共に自分の中の神気を高めていく。
「はぁあああッ…ッ!!」
すると長く伸びた髪はドロリと液状になり体を伝っていき、自分の影の中と一体化していく。
そして元の髪の長さに戻った瞬間、
ゴォッ!! ボシュウッ!!
「がぁああああッ!!」
自分の中の神気を解放させ、その身を『黄金の戦士』と変えた。その神気の量は央力の怒りも相まってか、過去の値を超えている。
しかし、
「なるほど、お前はそんなもんだったか…」
と何やら嘲笑うように呟くと、
「ふっ!!」
シュゥウウウウウウ…キィイイイイイイイイッ!!
ギュウウッ…
…ゴォッ!! ボワッ!!
と自らも『金の瞳の戦士』、そして『黄金の戦士』と姿を変える。
「…っ!!」
「じゃ、やろうか」
その神気の量は怒りに燃えている央力を完全に上回っていた。それこそ、央力の額に数粒の冷や汗を浮かばせるほどに。
次回の投稿もお楽しみに




