第二章3 『休息と教会』
ひさしぶりに父の夢をみた。
コルダは混濁した意識の中でひどく気分の悪い感じの夢であった。父のことを一日も忘れたこともなかったが、父の夢を見ると必ず悪夢になる。父は着ぐるみを被っているような状態であり、それを脱ぐと別の男が現れる。顔は見えなかった。それでも今日のは格別にひどい夢であった。その父の着ぐるみを被った男に陵辱される夢だ。
吐き気がする。いや、あの日以来夢を見るたびに思い出して吐くことも珍しい訳ではなかった。少女はあの日から縛られている。だから旅を始めたんだ。父を殺すことが目的であったが、なぜ奴はあんな事が起こってしまったのか?
問いつめたい。私をあんな目に。やさしかった母さん。もう戻れない。全てを断ち切らなければ、どうすることも出来ない。全ての私を無に還るための戦いである。だからあの女も利用した。あの女は私をうまく使おうとしたみたいだけど、そうはいかない。
牢屋から出るために利用してどう始末をつけようか考えたけど、さすがにこれ以上は付き合う理由もなく抜け出して始末したには良いと思ったけど、問題はその後であった。
あの女、名前はたしかノーバディとか言ったか? アイツを始末してからの記憶が曖昧であった。たしかそうだ。あの女、私が死にものぐるいで歩いているのを横目にケラケラ笑いながら私をバカにしていたのよ。・・・起きたらただじゃおかない。
△▼△▼△▼△
「よお、目覚めたかい?」
コルダが目を覚ましたとき、彼女が一番最初に声を掛けられた言葉であった。声を掛けたのは、ノーバディであった。腹立たしいことこの上なかったが、どうやら私は生きているらしい。四肢の感覚を確かめるにために手足を動かしたが、どうやら手足も感覚も残っているらしかった。
どうやら、この女に殺されずに済んだようであったとコルダは思った。なによりも症状が良くなっているのが、今のコルダの状態をよく表していた。
(ここは何処なのだろう?)とコルダは思った。
何やら置物やら教会で使うような像などは置いてあり物置のような印象を受けた。ベットや辺りを見るにかなり質素な作りであった。コルダは辺りを見回した。
「ここは教会だよ。アタシと、ここの連中に感謝しておけよ。もう少しでお前死ぬところだったんだからな?」
ノーバディはそう言うと水の入ったと貧相ではあるが固いパンとスープ料理を持ってきた。コルダの前に料理をおくとノーバディは言った。
「力をつけて早く直してくれよ。数日したらまた宝物探しの旅に出発だからな」
ノーバディは持ってきたスプーンでコルダに食べさせた。不審な目を光らせながらも空腹には勝てずコルダはモグモグと食べ始めた。
「どうだい。うまいだろう? さっき教会の奴に頼み込んで、貰ってきたもんなんだ。これには私の料理の分も入っているしっかり食べてくれよ」
モグモグ食べながらコルダは考えた。この女さっきから急に私に対して優しくなりやがった。たしかにこいつの目的は私を遺産のところまで案内をさせたいのである。けど奴らの目的を知らないこの女からしてみれば、私の命など、どうでも良いと思っているはずである。現に砂漠の行動を見るに私は何時かであの女に殺されるのであろう。
だけど、悪いこともしてしまった。私はあの女の馬を殺してしまった。私の軽率なミスで。馬に何も罪はないのに。
私は生きている。そして何故か私はこの女に介抱してもらっていた。実に不快な話である。
「よし、よく食べたな。じゃあアタシはちょっと教会の奴と話して
くるから。よく寝るんだぞ相棒」
△▼△▼△▼△
扉を出るとノーバディは教会のシスターに出会った。ノーバディは始めに介護してくれたことに対して礼を言って問題ない程度にノーバディは南にあるサウンズヒルに向かって行くと言った。
「あそこはかなり物騒なところですが、あなたたちのような人にこういっても無駄でしょうが気をつけてください。お連れの方の人もひどく消耗しておりますので、しばらく安静なさってなさい」
「アンタには感謝してもしきれないくらいだよ。助かったぜ。砂漠を抜けたこんな所に教会があるなんて知らなかったぜ。見てくれは質素だが中身は大したもんだぜ!」
「実は、最近この辺りに教会を建てようとしている話が、ありましてそこで私が先立ってここで準備を行っていたのですよ。まさかここで砂漠の横断を行おうとする人がいるなんて思いもよりませんでしたよ」
シスターはそう言うとノーバディを椅子に座らせて使い込まれたコーヒー缶からコーヒーを注いだ。
「珍しいな。この辺りじゃ見ない代物なのに」
「ええ、この辺りのものではありませんね。これはかなり貴重なものでして」
ノーバディは、コップに入ったコーヒーを飲みながら質問を続けた。
「そういや、最近この辺りに山賊やら何やらそういった物騒な連中は見かけてないか?」
「見かけますね。この辺りは元々彼らの出入りの多い場所ですからね。でも最近はあまり見かけませんね」
「最後に見たのはいつだい?」
「だいたい2~3ヶ月ほど前かしら」
質問の内容に良くない前兆を感じたのかシスターはそのまま黙ってしまいチビチビとコーヒーを飲んだ。それを見たノーバディは話を変え始めた。
「最近聞いた話でな。ここいら聖職者になりすましている連中がいるらしくてな教会に泊まった旅人を殺しては金銭やらを奪うって話があってな」
ノーバディはおもむろにシスターに向かって銃を構えた。シスターは何が起こったのか分からずにたじろいでいるだけであった。
「あ、あの私が一体何を?」
シスターはおずおずと聞いた。ノーバディは、しれっとした表情で言った。
「とぼけるんじゃあないよ。歩き方が堅気の人間じゃないね。常に命を狙われている奴の歩き方さ。一歩ごとの緊張感が違うのさ」
シスターは黙って聞き続けていた。彼女からは以前ほどの物腰の低く少し怯えた雰囲気はすっかり消え失せていた。ノーバディは、このシスター紛いの女は何か言いたいことがあるのだろうと思ったが何も言う気配はなかった。シスターが腰に手を伸ばした時にノーバディは言った。
「おっと気をつけな! アンタはうまく殺したと思ってるみたいだが、アンタの殺したシスターの服が粗末なんだろうな。何せ材質が薄いせいか腰に隠している銃の輪郭が目に余ってね」
ノーバディの問いにシスターは答える。
「さっきもいったでしょう? この辺りは物騒でしてこうして肌身離さず持っています」
シスターの言葉を聞いたノーバディは言った。
「何よりてめえの顔には見覚えがあってね」
昔、駅馬車強盗でチームを組んだときだ。4人1組で大した問題もなく当初の予定通りに話は進んでいった。だが厄介な問題が起こった。今回の襲撃をまとめ役が突如として仲間を保安官に売り飛ばしやがったのさ。駅馬車連中の死体の上にさらに荒くれどもの死体が降り注いだのさ。結局アタシは、まだ動ける奴と一緒に逃げて行ったのさ。だが逃げきれずに奴らに追い込まれちまった訳さ。
結局、アタシらのグループと不意打ちをしてきた奴らのグループで交渉が始まった。まあ交渉なんてもんは名ばかりなんだがな。実際、命には変えられなかったのさ。アタシが一番負傷していないという理由で金を奴らに渡す仕事に選ばれた。最初は撃ち殺されるかと思ってヒヤヒヤしたよ。ただ相手が出てきたら、それを悟られないようにはしたさ。金を受け取りに来る奴がこちらにやってきた。褐色肌にツンと尖った目をした女だった。アタシは言ったんだ。
「この袋に金が入ってる。これでいいよな?」
やむ得ない選択だった。不意に攻めてきた連中が何人いるのかは知らないが、こっちはノーバディを入れて4人しかも動ける人間はほとんどいない。相手は少なくとも10人以上。下手をしたら隠れて潜んでいる奴だけでも20数人はいるのかもしれなかった。互いに顔を見せずに壁越しでの会話もあってか相手もアタシたちの正確な人数までは判断できなかったようだった。不幸中の幸いだったよ。
「ああ、構わないよ」
それから遠巻きに銃を構えている奴らがわんさかしてる状態でノーバディと褐色女は取引に応じたのだ。