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DjangoS - 三人の悪い女たち−  作者: ゴーゴーゆうばり
教訓の一 決して他人を信用するな
2/22

第一章1  『ノーバディ』

 決して他人を信用しない。


 名無し(ノーバディ)が、仕事をする際いつも念頭に入れていることである。

 

 仕事をするとき、彼女は、たくさんの名前を使ってきた。


 名無し(ノーバディ)。それが、彼女の”今”の名前であった。


 他にも名前もあったが、あいにく彼女は全ての名前は覚えていなかったし憶えておく必要も無かった。


 賞金稼ぎなどという時代遅れの仕事をしていくには本名を使うのは、少々心許ない。


 仕事柄、偽名を使うのは当たり前である。


 これでも、昔は誰もかれも信用しないわけではなかった。


 信頼できる者と組み、一緒に理想を掲げていたこともあった。


 だが、いつの間にか誰とも組まなくなり、こうしてアウトローとして過ごすしていた。


 これは彼女の経験から得た教訓であった。


 この方法が最も安心、安全でそして、ここが重要だが効率よく金を稼ぐ手段であった。


 賞金稼ぎという仕事は互いに協力して目的の賞金首を捕まえるという事は珍しいことではないが、そこには信頼という関係はない。


 そして今回も、同じ関係だと名無し(ノーバディ)は思っていた。



                △▼△▼△▼△



「この辺りだな、目的のガキがいるって場所は」


 山々に囲まれ、男の野太い声がこだました。


 ノーバディは姑息な老判事のジャント・ガニコからの依頼で町外れにある山岳に来ていた。


 判事ガニコが言うには、この地域一体を革命と称し殺しや略奪を半合法化をしている賊集団のドン・ペキンパーという革命崩れがおり、今回、そのペキンパーの指名だとガニコは言っていた。


 彼女は今回の依頼に先立っての他に4人の男と組んでいた。全員、ペキンパーの息が掛かってる者であった。


 男たちは元々、老判事ガニコが秘密裏に行なっている賭博、密輸、人身売買を円滑に行なうために雇っている近隣の荒くれ崩れであった。


 だが荒くれ者だけでは、人数を賄うことは中々出来ず今回のジャント・ガニコのように仕事で顔の利く側が用意した別の人間と一緒に仕事をすることが大半であった。


 それが今回のノーバディであった。


 4人は身内同士らしく最初は、ノーバディを見たときは思いも寄らない形で女が表れて目つきが変わったが、ガニコが自分の用心棒だと言った途端に興味を無くした。女の身で誰かの側近やら用心棒をするということは、要するにこの女は、ガニコの女であり、手を出したらそれはガニコだけでなく、この辺りの地域全体で彼らの名が上がるということであった。それは一重に彼らの命の危険が上がることを示している。


 顔の利くジャント・ガニコの女に何かあればただでは済まない。


 男たちは、この女用心棒に近づかず、関わらない方が良いと思っていた。彼らにとっては、彼女の存在は、かなり得体のしれないことであった。

 

「見ろ、あの小屋だ」


 馬に乗ったペキンパーの手下は丘の下にある小屋を指しながら言った。


 男が言うにはノーバディと一緒にいるペキンパーの部下が最後にその少女娼婦が目撃されたらしい。


 ペキンパーという男はよほど、その少女娼婦にご執心らしい。ノーバディは飽きれた。


 彼女にも娼婦の仕事の経験がない訳ではなかった。経験として娼婦という仕事は暴力を振るうような危険な客からは常に身を守らなければならない。


 特に少女娼婦は変態どもに、非道いことされる訳だから、少女が逃げ出すのも、さして珍しい話でもない。


 よくある話だ。


 それこそ金のために人を殺し危険な相手からは身を守る賞金稼ぎと大差はないような気がした。


 金のない女は、娼婦かシスターにでもなるしかない。


 昔、そんな言葉を聞いたことをノーバディは思い出した。


「あの小屋を調べる」


 ノーバディの近くにいたペキンパーの部下が言った。


「寂れちゃいるが人気はあるみたいだ」


 ノーバディが見ると老人の夫婦が窓に見えた。あの小屋の持ち主かと思えた。


 ペキンパーの手下は眼下に見える民家まで一斉に馬を走り出した。ノーバディも彼らの後に続き走り出した。



                △▼△▼△▼△



 ノーバディ含め5人が馬に乗りながらゆっくりと寂れた民家まで進んでいく。


 もしガキがいれば、手間を取ることもない。そのまま民家に押し入っていけば問題ないと男は言った。


 馬から降り、5人は民家まで近づいていく。その時、民家にいた老人が玄関から出てきた。


「おい、何だあんたちは!」


 老人の威勢に対し、男は”シィ”と一本指を唇に付けた。


「ペキンパーさんの使いだ。変なことすんじゃねえぞ。部屋にいる婆にも言い聞かせておけ」


 民家を見ると編み物をしている老婆が椅子に座っていた。老婆は男の存在に気付くと編み物を止め嵐が過ぎ去るようにただ、じっと待っていた。それを見た男は笑っている。


「お前は女と外で残れ。残りの2人は俺について来い」


 男はノーバディと彼の仲間の1人に待機していろと指示し3人で民家の中に入っていく。


 男が扉をくぐり、近くの粗末な椅子に座ってる老婆を睨みつける。老婆は恐怖で縮りこまる。部屋を見渡すと簡素でいかにも金目の物はなさそうであった。おまけに少女の姿も見えなかった。


 男は少女の顔が描かれた似顔絵を取り出して老婆に見せる。似顔絵は浅黒い少女が描かれており、ピアスといった装飾品お身に着けており、大よそ子どもっぽい雰囲気には見えなかった。


「この子どもを探している、何か知っているか」


「何も知りませんよ」


 老婆は脅えながら答える。

「ちっ」


 男は舌打ちをする。老人の飲んでいたであろう安酒を見つけ男は一気に呷った。


「酒も不味い」


 男は老人に向かって愚痴を言った。飲みかけの安酒を床に叩きつける。アルコールの残りが床下に垂れていく。


 男の乱暴な対応に老人は既に男に対して反抗を見せるような態度はなくなっていた。どこか安堵しているように見える。


「おいおい、やけに大人しくなったな。そんなに俺らがいなくなって良かったか?」


「い、いやとんでもない・・・・・・ここは見ての通り私の連れとふたりで暮らしているだけの老いぼれの爺と婆だよ」


 ふんと鼻を鳴らす男。


「ふたり暮らし。そうか、じゃあさっきから下から聞こえるこの音はなんだ!?」


 パンと乾いた発砲音が小屋に響き渡る。男は床下に発砲し、床下から子どものすすり泣く声が聞こえた。


「下にガキがいんのか?」


 男は床下を眺めながら言った。


「孫娘だ。あんたらの前に出す訳にはいかなかった」


「出すわけにはいかない?そうか」


 突然、男は老人に向かって足の甲に向かって発砲する。老人は悲鳴を上げ、足を撃たれた痛みに嗚咽する。


「年寄りの体力だと長くは持ちそうないか。だが嘘をついたお前が悪い」


 男は床下への扉を見つけると、部下と床下へ降りていく。


 男は床下に酒をこぼしたときに微かに子どものささやき声を聞くのを聞き逃さなかった。あの老夫婦に子どもがいるとは思わなかったので誤算であった。


 男の部下が扉を開ける。


「手間掛けさせやがる。目的のガキじゃねえならどうでもいい。お前らに任せる」


 男の部下の一人が意地汚く笑う。それを見て隣にいた、もうひとりの部下が呆れる。


「理解出来ねえな」


 男たちは部屋に入ると、たしかに子どもがいた。部屋の隅で縮こまっており、人数は2人。ひどく震えている。


 ひとりは日焼けで多少焼けてるとは言え、上の老夫婦と同じ肌の色をしている。孫娘で間違いないだろう。もう一人の娘は先の娘より少し年上に見えたが肌は、この辺りでは珍しい浅黒い肌の色をしていた。ふたりは姉妹には見えなかった。


「へへ」


 男の部下が思わず声を漏らす。男は部下をいさめ少女に話しかける。


「さっきは脅かして済まないね。君たちのお爺さんが嘘を付いたから仕方なかったんだ。嘘を付く大人は危ないんだ」


 肌白い孫娘の一人は泣き始める。


 だが、もう一人の浅黒い肌の少女は何も動じていなかった。何ともいい表せない色気を醸し出していた。男は眉をひそめる。


「おい」


 男は部下を近くに呼び少女の姿をよく確認する。


 顔はよく見えないが、近くに寄ると少女から微かに香水の香りがする。こんな田舎娘が付けるはずもなく男は違和感に持った。少女の耳をみるとピアスやアクセサリーといった装飾品もしている。

 

顔だけでは判断できないが、それでも少女の身なりからから、ある程度の目星は付けることが出来た。


 間違いないこのガキだ。少女の身なりを見るに、普通の子どもじゃない。


 何より衣服が表わしている。数日ほど着続けてるためか服は汚れているが、少女の衣服は明らかに商売女が着るような派手な服であった。


 しかもこれが安い商売女が着るようなものじゃない。もっとも高級な商売女は自分の商品価値を高く見せるために高価なものを着込んでいる。


「当たりじゃねぇですか?」


 男の部下が言った。


「ガキを捕まえるだけで当分遊べる金が手に入るなんて、ありがたいことだ。おい、気を付けろ。間違っても傷物なんかにするんじゃねえぞ」


 男が、そう言って少女に歩みより連れて行こうとしたその瞬間、。


 鈍い乾いた音を響く。うげぇと男のうめき声が床下に響く。少女は銃を構えていた。


 少女は立ち上がり、殺意を持った目で撃ち殺した男を見る。少女の持ったコルトからは硝煙が舞っていた。


 まとめ役の男が倒れ、一瞬何が起こったのか分からず取り巻きの男たちは困惑する。肌黒の少女の隣にいた老夫婦の孫が悲鳴を上げながら上の階に逃げていくのを見て、男たちはようやく事の状況を理解した。


「こ、このガキ撃ちやがったッ」


 男たちは、思いがけない少女の反抗にたじろぐ。


「近寄ってみろ、近寄ったらコイツみたいに撃ち殺してやる!」


 少女は声を荒げ男たちに忠告した。


 たしかに語気は強かったが、しかし少女の声は震えていた。どうやら人を殺すことには慣れていなかったらしいと男たちは一瞬で感づいた。


 男たちは腰のホルスターから銃を抜き出し撃とうとしたが、本来の目的を思い出し撃たずに構えたまま少女に近づいて行った。


「く、くるな!」


 少女は自身が忠告したにも関わらず男たちが近づいた事にひどく動揺した。


 少女は構え銃口を男たちに合わせて引き金を引く。


 発砲音。


 銃弾は男たちに当たらず少女の狙っていた場所とは大きく逸れた。


「やっぱりだ、こいつ素人だ!」


 さっきの男はガキに近すぎて、それで撃ち殺された。しかもあのガキが撃ち殺した時に銃を握っていた手がひどく震えていたのを男は見逃さなかった。


 男はある程度の距離が離れていれば、当たることはないと思った。


「手間かけさせやがって!」


 男は少女から玉切れになった銃を奪い取り少女の頭を銃のグリップ部分で叩きつけた。少女はよろめいて、そのまま男に手を荒っぽく掴まれながら小屋の外まで連れ出していく。

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