第四章2 『アーチストンの墓』
3人は関所の連中の使っていた馬を拝借し小さな古い共同墓地までたどり着いていた。ここがサンズヒルの共同墓地であった。
ようやくイングリッシュ・マーシャが眠っている墓までたどり着いた。馬から降りて3人は共同墓地まで歩いていく。コルダが言うにはここには歴戦の無名戦死の墓がほとんどだそうで、国を変えようとした連中の末路だとも言った。ここに眠っている連中は歴史から消される。政府は不浄の存在として未来永劫彼らへの話はないだろう。
くだらない。
例えどんなに理想を掲げていても最後は結局こうなる運命だ。いやここにいる連中なんて墓があるだけ、まだ良い方さ。こいつらのお仲間の大半の連中には墓なんて代物はないはずであるとノーバディは思った。
「だれだ!?」
声の主を振り返るとそこには腰の曲がった1人の老人がいた。老人はスコップを片手に持っている。どうやらここの墓守であるとノーバディは思った。
「爺ッ!」
この老人に言い繕うかと考えてる矢先に突然、声を荒げたのはコルダであった。まるで老人を旧知の仲のように言った。老人もコルダを見て表情が変わった。
「こんな所で何してる?」
老人はコルダに言った。
「一体どういうこったい?」
ノーバディとアレルヤは事情を説明してくれんとばかりに2人を見つめた。
どうやらコルダが説明では、この爺さんは昔からお世話になった人だという。幼少のコルダを引き取ってから男でひとつで育ててきたそうであった。なのでコルダにとって実の祖父のような存在であるようであった。そこからノーバディはコルダの話に辻褄が合わなくなったのに気づいた。
「ちょっと待て。お前、娼婦じゃなかったのか?」
「あれは、そう言った方が、あなた達に都合が良かったからよ。実際、私はここの墓守で爺の手伝いをしてただけよ」
話に聞くとコルダは腕の立つ用心棒が欲しかったと言う。そのために、わざわざデブリカットの町まで来て服を娼婦のものに変えて、ペキンパーから逃げている振りをしていたわけであったようだ。
「なあ、いまなら聞かせてくれないか?なんで、おめえはペキンパーに追われてる理由って奴をさ」
ノーバディの言葉にはただ真実を知りたいという、ただ純粋な気持ちが見え隠れしていた。アレルヤもこの少女に深くは詮索はしないつもりではあるが、やはり気になることであった。
「悪く思わないで、やっぱり話せないわ。別にあなた達がどうこう、」
「ああ、いいよ別に言わなくて。こっちも悪かったよ。それで、マーシャの墓は何処にあるんだい?」
「うん。今から案内するわ。着いてきて」
コルダに説明されて2人はコルダの後に続き墓の頂上まで目指していく。長い道なりに続いている墓所である。ここが何処までも続くかのように待ちわびているように2人には見えた。
「お目当てのマーシャの遺産は何処にあるんだ?いい加減教えてもいいんじゃないか?」
ノーバディは声を少し荒げた。ついにイングリッシュ・マーシャの遺産の所までありつけたのにここでもし何もなければ骨折り損なのである。しかも財宝が眠っているのは何もない寂れた共同墓地であったのも理由の一つにあるに違いなかった。とてもここに財宝があるには思えない。それに反してコルダは答える。
「墓の名前はアーチストンの墓の隣にある無名戦士の墓よ。そこに遺産の手がかりがあるわ」
コルダは静かにそう言いまた前を向いて歩き続けた。
「そうかい、じゃあ早速そのアーチストンの墓を探そうじゃないか!」
ノーバディの答えにアレルヤは告げたした。
「嬢ちゃんはそのアーチストンの墓の場所は知ってるのかい?」
コルダは首を横に振った。それを見たノーバディはついに怒りに露わにして声をあげる。
「おい、分からねえってのはどういうことだよ!? お前、墓の場所くらい分かってるて言ってたよな!」
「私が聞かされていたのは墓の場所と墓の名前だけ。墓の正確な場所までは知らないわ。ここまで来たら地道に探すしかないわ」
コルダが言うには、イングリッシ・マーシャは無名戦士として墓に入りたいといい彼のことを知らない連中が埋めたとされている。なので墓守のエッガー老人は知る由もなく現在まで、マーシャの墓は何処知れず眠っているという。
「ああ、結局そうなるかい。まあここまで来たら渡りに船ってやつだ。付き合ってやる。こりゃあ地道に探すしか他なさそうだな」
3人はしらみ潰しに墓の名前を順に調べ始めた。ノーバディは墓に名前書かれたものが、ほとんど無いことを知って絶望的になった。酷いときには名前が書かれていたのだろうが、長い年月による風化と粗末な字で書かれていたために薄れてよく見えないものなどもあった。
誰も喋らずに黙々と調べ続けてから数時間が経過したあとアレルヤの声が聞こえた。
「おい、あったぞ。アーチストンの墓だ!」
残りの2人は走ってアレルヤの所に向かうとコルダは墓を掘り起こすようにとスコップと棺をこじ開けるバールを持ってきた。
「神様ありがたいよ。今アタシはアンタ様に最大限の感謝を送りたい気分だ」
「私も同感だよ。まあ今にしてみれば結構あっけなかったな。何はともあれ助かったぜ」
3人は一斉に墓を掘り起こそうとしたその時であった。ノーバディとアレルヤの2人の目つきが変わった。
「聞こえるか?」
「ああバッチリにな。まったく最悪なタイミングでおでましかよ。やっぱ神様とか言う奴は信用ならないね」
その時コルダにも分かった。馬の足音だ。しかも大勢の馬が走ってこちらに向かっている。数十人って単位じゃない数百人って数の音だ。明らかに急ぎでこちらに向かっている足音であった。アレルヤは取り出した双眼鏡で馬の足音のする場所を確認し始めた。
「ありゃあ、たぶんリディロだな」
アレルヤは言った。コルダは驚きのあまり言葉を失った。3人は彼らに付けられていたのであった。
「連中も人数を揃えるためにギリギリまでこの墓地まで近づかなかったんだ。そして私達を殺すための準備をずっと伺っていたのさ。執念深いこった」
「来るまで、どれくらい掛かるの?」
「さあな時間にして大体2時間ないところだろう。数は予想できないが100~200くらいだろうな」
コルダはリディロにされかけたことを思い出してひどく憂鬱な気持ちになった。
「ほら落ち込んでじゃないよ。今すぐにでも準備をして迎撃しなくちゃならないんだ」
3人は急いで墓の入り口まで戻り墓守りのエッガー老人に事情を説明した。老人は、話の内容を聞いても特に驚きもせず3人に言った。
「そうと決まったら話は早い私に付いてきなさい」
「おい爺さん。アタシ達は今すぐにでも準備をしなくちゃならねえんだ。こちとらのんびりしてる暇はないんだよ」
ノーバディの言葉に老人は特に取り乱したりするようなこと無く言った。
「何アンタ達をこのまま死なす訳にはいかんよ。マーシャの墓の借りもあるしな」
エッガーはノーバディが腰に付けていたコルダのベルスタアを見て言った。
「それかい鍵になってる銃というのは・・・。ちょいと見せてくれないか?」
しぶしぶノーバディはエッガーにベルスタアを渡すと、まじまじと見つめていた。その様子を見てコルダは言った。
「はい、父がおっしゃてました。これを使うようなことがあったならエッガーに渡してやってくれと」
「あの若造め。この老いぼれにまだ仕事させるきか!」
3人はエッガー老人の後に続くと彼の部屋に案内された。そこで棚の奥から埃がたまっている作業箱のようなものを取り出した。
「今からワシはこの銃の修復をしなければならん。この銃はいわばイングリッシュ・マーシャの遺産につながる文字通り鍵となっている銃だ。これを直すにはそんなに時間は掛からん。半日もあれば直せる。だからお前さん方に頼みがある。ここを半日の間あんたらの言う荒くれどもから守って欲しいんだ」
エッガーの願いに3人は答える。
「遺産のためだ。しょうがねえ。いっちょやってやるさ」
「お前たちにここを守るために是非使って欲しいものがある。もしかしたら役に立つ代物かもしれん」
そう言って老人はそそくさと壁の前に立ち壁を扉のように横にスライドさせるように開けた。老人は部屋の中に入り3人も続いて入っていく。
スライドさせた部屋の中には数多くの銃器が置かれていた。中に見たこともないような変わった物もあった。部屋が地下にあったので結局この部屋の見た目だけでは分からない仕組みになってきた。部屋自体は決して広くはなかったが銃器の量は桁が計り知れない。数百人という人間が使っていたのだろう。
「ここの銃たちはな。ここで死んでいった無名の戦士たちのものじゃよ。皆イングリッシュ・マーシャの仲間さ。解体して処分するのも悼まれてね。こうしていつか新しい者が現れたときに使えるように手入れだけは欠かしてはいなかったよ。是非使ってやってくれ」
棚に並べられた銃器の数を見て3人は溜息がでた。
「こいつはすげえ・・・・・・。こりゃあ使えるぜ」
ノーバディは本心から言った。




