第三章1 『賞金稼ぎ』
「一体、君の仲間の連中は本当に役にたつのか!」
今回リディロの依頼した男の部屋に入るなりリディロは声を張り上げた。部屋は小さな密室の作りになっており室内には男が1人佇んでいた。室内で目深に帽子を被っており顔は、よく見えない。だが男の異様な雰囲気からリディロは、この男を初老な出で立ちを連想させていた。
「君か。何の用だ?」
リディロはキビキビと目深帽子の男の質問に答えた。
「どうやら連中を見張らせていた君の部下が襲撃にあったようで、襲撃した教会を確認したらもぬけの殻だったよ。もちろん行方知らずでね」
リディロは怒りを抑えるように喉を詰まらせながら答えた。
「ならそれは、こちらの失態だ。謝るよ。だがね気に掛かることがことが、いくらかあるのだが良いかね? 連中の情報が明らかでない今、私は無闇やたらに動くべきでないと考えているのだよ。だが君は取り逃がした報告を私に押しつけどうする? 君はわざわざ私の失態を報告をするために、ここまで日を跨いで来たのか? もし、そうなら関心せんな。今は死んでいった同士たちの亡骸から連中の特長を捉えるほうが得策だと思うがね」
眼深帽の初老の男は、淡々とリディロに指摘していった。
「ああ、それは勿論だ。しかし妙なんだ。どうやらあの小娘め用心棒を連れているみたいで、最初は、そいつ1人だけかと思ったのですが、部下の傷や銃痕からみるに明らかに1人のものではない。あの小娘は他にも用心棒を雇ったみたいなんだ」
「追えそうか?」とリディロは言った。目深の男は首を縦に振った。
「引き続き追っ手を向かわせているよ。しかしどこの誰かは分からないが小娘と組んでいる用心棒の腕はかなりの物だ。アンタのお仲間の腕利きが何人も殺されてるんだよ」
リディロの嫌みに初老の男は答える。
「いいかね、君は私に進言をしたいと、そう言いたいのか?彼らが殺されたのは自分の力量不足ではなく私のやり方に問題があるとでも、言いたいのか君は?」
初老の男はそういってポケットからタバコを取り出し火をつけ始めた。
「君はよくやっている。富も名誉もある。一生遊んで暮らせるほどくらいにな。ただ君の目的も私も目的はあの少女だ。見つけなければ話にならん。捕まえられないとなると、それは君が私よりもっと優秀な飼い犬を使って探し続けるしかないな」
リディロは一瞬であったが歯ぎしりをした。表向き銀行家であるリディロにとって表情が崩れることは非常に屈辱的なことであった。リディロは初老の男の話を聞いて言った
「3日だ。これ以上の時間はやれん。それまでに何とかするんだ!」
「十分さ。ドム・ペキンパーと言われてるのは伊達ではないよ」
初老の男は余裕たっぷりに答えた。
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「それで目的地はどこなんだい?」
アレルヤが質問する。新たな同行者に教会のシスターの格好をしたアレルヤが加わり場所をペキンパーの部下に知られたが、コルダの傷の治りが早いのも幸いして、3人すぐに出発した。
「目的の物はイングリッシュ・マーシャの遺産さ。前に説明しただろう?」
「そんでその場所は何処なんだい?」
アレルヤの経て続きな質問に今度はコルダが答えた。
「お墓よ。サウンズ・ヒルにある大きな共同墓地に埋められているわ」
コルダは手短に答えた。ノーバディも今初めてマーシャの遺産の場所を聞いた。だがそれ以上にコルダの返答にアレルヤは胡散臭そうに思っているような顔になった。
「偉大なる英雄イングリッシュ・マーシャ様の遺産は、そんな名もないような墓にあるって言うのかい?」
「ええ、そうよ。父は生前に言っていたわ。俺には名前は必要ない。墓にはいるときはせめて無名戦士の墓に入れてもらえればそれで良い。そう言っていたわ。それが俺の願いだって」
「泣かせる話じゃねえか。さすがは伝説の英雄様だ」
アレルヤはそう言って大げさにオイオイ泣き出した。彼女のわざとらしい態度にノーバディは少し苛ついた。
馬を少し走らせたあとに突然「そういえば」とコルダは2人に投げかけた。少し改まった態度でノーバディは少し嫌な予感がした。
「私に銃の使い方を教えて欲しいの」
「駄目だ」とノーバディは即答した。
「何で駄目なのよ。アナタ私を殺しかけたのよ。それくらいのサービスあったっていいじゃない?」
「どういうつもりだお前。銃の扱い方なんて覚えてどうするつもりだよ」
「簡単よ。殺したい奴がいるの」
コルダの発言を聞いてノーバディの顔つきが変わった。ノーバディは呆れた顔をしながら言った。
「お前に殺しの覚悟はあるのかい?第一、殺しってもんは教えてもらうもんじゃねえだろ。自分で身につけるものなのさ。考えが甘いね」
「知っているわ。でも、私には時間がない。この道中で多少使えるようなら構わないわ。だからこそアナタに頼んでいるのよノーバディ」
「おいおい、名無し。アンタ名前で呼ばれたぜ」アレルヤの茶々にもノーバディは耳を傾けなかった。
「アナタと私の利害は一致しているはず。アタシも父の墓に興味がある、アナタたちは父の遺産が目的。だけど、道中ペキンパーに追われているのも事実だわ。だから私にも銃の扱いくらい教えてもらうことも損ではないはずよ」
「教えてやりゃあいいじゃねえか。別に減るもんじゃあないだろ?」
アレルヤが横から口を挟んだ。
「だったら、てめえが教えてやりゃあいいじゃねえか」
「あいにく、私の使っている銃は特殊でね。この子の訓練には向かないよ。使っていくなら名無しみたいな銃じゃなきゃ」
「殺しに方法もヘったくれもあるもんかい」
「だが実際問題、嬢ちゃんに覚えてもらうのも悪い考えじゃないよ。教会のときのような連中に追われているんだろう? だったら嬢ちゃんの身は嬢ちゃんで守らなきゃ。そういう意味では悪いことではないだろ?」
「だから、コルダに銃の使い方を教えてやれと?」
そういうことだよとアレルヤは言った。ノーバディはコルダに向き直して言った。
「人を殺すたって、てめえ復讐って理由は感心しないな」
「アナタも似たようなものじゃない?金のために人を殺してるような奴に説教を食らう義理はないわ」
ああ、そうかいとノーバディは呟いた。コルダはノーバディを睨み続ける。
「分かった、分かったよ。いいだろ教えてやる。ただしてめえの行動に少しでも気にくわないとこがあるなら、すぐにでも止める。いいな?」
「交渉成立よ、ノーバディよろしく頼むわね」
「それで、どうする?まさか的でも作って銃で当てる練習からなんて暢気なこと言わねえよな?」
アレルヤが口を挟んだ。ノーバディも、そんなことを考えてはいなかった。とてもじゃないが時間がない。もっと手っ取り早い方法を取るつもりであったが、現状どうすれば良いか迷っていた。
「何か良い方法でもあるかい?」
ノーバディはアレルヤに語りかけるように言った。
「この辺にならうってつけの奴がいるさ。こいつさ」
アレルヤが答える。彼女は馬に括るつけてあった荷物から手配書を取り出し、それをノーバディに手渡した。手配書にはジェイク・トンプソンと言う名の男が載っていた。賞金は100ドルほどで罪は窃盗、恐喝であり小さな物ばかりであった。はっきり言ってトンプソンは何処にでもいるような賞金首であった。
「こんな小物をどうするんだい?アタシ等には暢気に旅をする時間はないって言っただろ」
「こいつがコルダの練習と小遣い稼ぎさ。これから、このトンプソンって野郎をしとめる。だが時間がないのも事実だ。だから縄に掛けて保安官に渡すような面倒な事はしない。殺してすぐにまた出発するのさ。安い賞金首さ。金に旨みはないし、かといって無関係な人間を殺すのも気が進まんしな。まさに殺しの練習にうってつけな奴なのさ」
「生死は問わずなのか?」とノーバディは言った。窃盗や恐喝くらいでは殺すことは違反されている。
「なんでも酒場で酔った勢いで1人殺しちまったらしい。それが原因か知らんが、結果、生死は問わないそうだ」
アレルヤはコルダに話を戻して彼女に直接語りかけた。
「どうする? やるか、やらないか?」
内心、答えを悩むであろうとノーバディは思ったが、コルダは思いの外すぐに答える。
「いいわ。そのトンプソンという男を殺しましょう。場所はどの辺りにいるの?」
コルダの声には多少の緊張感があったものの、それでも力強く答えていた。ノーバディは手配書を見ながら答える。
「ここから南にそのまま進んで行くと三角型の山々がある場所まで着くんだがトンプソンが最後に見かけられたのは、その辺りらしい。正にアタシらの通り道だな」
「なら早く行こうぜ。さっさと済ませてくれよな。私はもっとデカい宝を手に入れたいんでね」
アレルヤの声を皮切りに3人は早足で馬を走らせた。




