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イルフェミア英雄譚  作者: 水都 蓮(みなとれん)
第二章 翡翠の湖沼に獣は泣く
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霧に煙る街

 暗霧を慎重にかき分け、一行は二股に分かれて聳え立つ岩壁の前に辿り着いた。まるで門扉のように開かれた両翼の山は、急峻な斜面で、荒々しく無骨な山肌をしていた。

 それはまるで訪れる人々を歓迎しているようにも、拒絶しているようにも思えた。


「ここは通称・煉獄の門。隕石落下の余波で形成された地形だって言われてるよ」


 エルドが目の前の奇岩について解説した。


「へぇ、エルドって意外とこういうの詳しいよな」


「全部書物の知識だけどね。老後は冒険家になりたいと思ってるんだ」


「本当か?」


 剣を振るうことばかりが趣味だと思っていたカイムにとっては、意外な願望であった。


「本当だって。こう見えてサバイバルは得意だからね」


 命を狙われ、人里を放逐された時の経験をエルドはさらりと言ってのけた。


「でもなんで煉獄の門なの? 随分と物騒じゃない?」


「このインヴァネス連峰を超えた先の北の海には《最果ての島》があるからね」


「かつて世界を滅ぼしかけた魔神の王が封印されている地だね。そうか、彼の魔神王の眠る地獄の手前だからってことか。確かにしっくり来る名称だな」


「そういうこと。カイムなんかは日頃の行いが悪いから、ここで清めてもらうのも良いかもね」


「笑えない冗談だ。そん時はお前もだからな」


 談笑しながら一行は『門』をくぐり、緩やかな傾斜を上がっていく。




 しばらく経った頃、眼下に広大な湖が見えてきた。

 リヴィエラ湖――インヴァネス連峰の中央に位置する大湖沼で、隕石落下によって抉られた穴に《竜の滝》と呼ばれる瀑布が注いで形成されたと言われ、辺りを豊かな大森林に囲まれた風光明媚な景勝地である。

 そして、そのほとりには白い建物が並んでいる。この湖の周りに築かれた街こそが、国内随一の景観都市にして、湖沼都市の名を冠するリヴィエラ市街である。


「…………」


 しかし、一同から漏れたのは感嘆のため息ではなかった。

 透き通ったような美しい水を抱えるリヴィエラ湖は黒い瘴気に覆われ、白く美しいリヴィエラの街並みは、キャンバスに泥をぶちまけられたがごとく汚れていた。


「馬鹿な……あの美しいリヴィエラがどうしてこんな……」


 その光景に一番ショックを受けていたのはローレンスであった。


「ローレンス……?」


 何時になく深刻な表情を浮かべるその姿に、アリシアが僅かな違和感を抱いた。


「すまない、みんな。少し気がかりなことがあるから、先に向かってるよ。また後で合流しよう」


 そう言うやいなや、ローレンスは自身の馬を走らせて、早々にリヴィエラへと降りていった。


「うん? 何だよ急に、変なやつ」


「でも、ローレンスじゃなくてもこの様子は気になるよ。僕らも急いだ方が良いかもね」


 エルド達もローレンスの後を追った。

 辺りを覆う瘴気は街に近づくなるほどに濃く、禍々しく深まっていく。

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