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イルフェミア英雄譚  作者: 水都 蓮(みなとれん)
第二章 翡翠の湖沼に獣は泣く
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忍び寄る者達

「さてと、あの猟犬からの霊子は回収できたかな」


 エルド達が猟犬と戦った場所からいくらか離れた崖上に、二人の男が立っていた。一人は手に球体のようなものを持った褐色の男、イスマイルであった。


「七十二体目か。まったく随分と手間を掛けさせてくれる」


 その後ろに控えるのは黒鎧の男ベガである。


「今回はベガ殿が倒したわけじゃないだろう?」


「そういうことではない。順を乱してまでこの地に来たせいで計画も修正を余儀なくされている。これが後々に響かなければよいのだが」


「計画は飽くまでも計画さ。儀典に載っているのはあくまでも概略、その枝葉末節については、我々も予想をすることしかできない。だが確かに、今回は不確定要素が多く、我々の予想を超えて事態が推移しているのは間違いないかもね」


 そう言ってイスマイルは腕をさすった。


「フ、その腕の傷も予想外ということか。貴殿ほどの男が手傷を負うとは相当の手練であったようだな?」


「まったくだ……エインズワース卿があそこまでの力を秘めているとは思わなかったよ。もしかしたら、ベガ殿といい勝負をするかもしれないね」


「貴殿に手傷を負わせるほどの相手だ。私ごときにどうにかできるとは思っていないがな」


「相変わらず謙虚なことだ。さて、前回の回収分は死守したけど、こうしてアシュメダイの門が解放されてしまった以上、うかうかしてられないね」


「そうだな。だが警戒すべきはあの男だけではないようだ」


 ベガは目下の街道に視線をやった。そこにはエルド達の乗る馬車があった。


「姫殿下達か。随分と精力的に動かれているみたいだけど、やはり運が悪かったと言わざるを得ないね。彼女が起つには遅すぎた」


「かもしれんな。だが最初から結果の見えている盤面であろうと、最後に覆すのは人の意志だ」


 兜に覆われたその表情は伺い知れないが、そう言ってエルドたちを見守るその姿にイスマイルは妙な感覚を覚えた。


「随分と肩入れをするね。やはり彼が居るからかい?」


 思わず口をついて出た疑問だが、瞬間ベガの纏う気配が変わったような心地がした。


「食えぬやつだ。何を知っている?」


 鎧の奥に隠された男の声は、微かな怒気の様なものをはらんでいた。


「やだなあベガ殿、そんなに怒らないで。君の彼ら兄弟に対する態度に違和感みたいなものを感じただけだから」


 イスマイルは自分の失言に、焦った様子で弁明する。


「まあいい。そういうことにしておいてやろう。さて、この地の悪魔どもは一通り片付けた。次はどう動く?」


「無論この状況を最大に活用させてもらうよ。姫殿下達も併せてね」


「貴殿の思惑通り行けばよいのだがな」


 二人は今後の方針を決めると、霧の立ち込め始めたサザーランドの森林へと消えていった。

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