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映画のような奇跡の一つでもあれば、愛を伝えられるのにな

作者: はしもと



 君と付き合って一ヶ月が経った。

 私は付き合うことが初めてでいつも戸惑ってしまう。

 ちゃんと聞いたことはないけど、たぶん君は私が初めての人じゃないよね。


 付き合うってなんだろう。

 どうすればこの気持ちをちゃんと伝えられるのか分からないよ。

 心はいつも、君のことばかりを追っているのに。



 手を繋げば伝わるのかな?

 くっついたら伝わるのかな?

 ……キスをしたら伝わるのかな?


 言葉で伝えても、それは言葉でしかなくて。

 言葉は嘘だってつけてしまうから。

 嘘にだってなってしまうから。


 君を愛したいよ。

 ちゃんと伝わってほしいよ。

 君が私と付き合うことに疑問をもたないくらいに。

 愛したいと思ってるよ。




 ごめんね。





 *



 君の隣を歩いている今だって、

 私は私のことばかり考えてしまっているような気がする。


 大切な人を大切にするなんて、当たり前で簡単なことだと思ってた。

 でも現実じゃ映画みたいな二人の絆を固くするような出来事も奇跡もない。


 大切な人を大切にできるときって、案外少ないんだなって分かったよ。

 愛してる人を愛せるときって、たぶんそれ以上に少ないや。



「ねぇ」

「うん?」

「……なんでもない」



 付き合うってどうすればいいの?


 聞きたかったけど、聞いたらいけない気がした。

 初めてを言い訳にしたくないけど、うまく出来てる自信なんてどこを探しても見つからない。


「どうした?」

 君は優しく私に問いかける。

 そこには確かに愛情があって、その声色は私だけに向けられているのだと実感できる。


 

 優しくすることが愛なのかな。

 そんなことはきっとないと思う。

 そんな簡単なことじゃないし、簡単なことにしたくない。


 

「……」

「……」

 何も会話もなく、でも君は私の手をとって繋いでくれる。

 指と指を絡ませて、外れないようにして、繋いでくれる。

 君の手は大きい。

 そして、火傷しそうなくらい熱い。

 言葉なんてなくても、気持ちが伝わってくる。

 求められていることがわかる。

 求められてるから安心できるし、隣にいてもいいんだって思える。


 存在を認めてもらうことが、愛なんだろうか。

 必要とされることが、愛なのだろうか。

 

 でもそれが愛なら、この世界は少し寂しい。



 君が私の手を引っ張って、人が来ない公園に入っていく。

 それがキスの合図なんだって、最近分かってきた。

 二人だけの、秘密のサイン。

 悪いことなんてしてないのに、共犯者になったみたい。

 それが一人一人だった私たちを二人にしてくれた。



「……ん」

 吐息のような返事を交わして、キスをした。

 手を繋いだままするキスは少しだけ不自由で、でも自由じゃないから安心できた。


 

 キスをすると、君の優しい心と繋がれている気がしたから、

 だから口と心は繋がっていることに気づいた。


 

「ねぇ、好きだよ」

 心から出た言葉は声になって、君へと届く。


 君は恥ずかしそうに照れて耳を紅くした。

「……ありがとう」


 そのたった一言の返事で、愛を伝えられたんだと知れたんだ。

 君のおかげで、ようやく伝え方を一つ、知ることができたよ。




 付き合うこと、愛すること。

 そのどちらも私はまだ分からないけど。


 今は君が笑ってくれることを、たくさん探していきたいよ。

 一緒にいてくれて、ありがとう。




 愛してるよ。




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