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リディア王国物語  作者: 白石めぐみ
第一章・王都脱出編
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第四話 王子達の宴

手早く着替えたソルディスはルアンリルを伴ってクラウスの部屋へと向かった。

部屋の中にはすでに長兄・サイラスと妹姫のシェリルファーナがソルディスの到着を待ち詫びていた。

「お帰りなさい、サイラス兄様。ロシキスはいかがでした?」

隣国のロシキス竜王国は先日、長患いをしていた国王が崩御し、王都から出奔していた王の異母兄が王座に即位した。

正式な王位継承権を持ってはいたが妾腹のうえ母親の身分が低い彼に、貴族議会や長老議会が難色を示していたが、竜騎士団の強硬なる主張により彼は即位することになった。

今回の使者団は、隣国の新王への挨拶を兼ねている。

本来なら王位継承者たるソルディスが出向かなければならなかったが、王命によりサイラスが使者となった。

「新しい国王は聡明な方だったよ。新しく王女・王子になられた御子殿たちも才気溢れる感じだ」

よほど良い印象の人だったのだろう。サイラスの目が眩しそうにすがめられた。

「前の国王様にもお子さまはいらっしゃったのでしょう?その方は王位継承権をお持ちでなかったのですか?」

シェリルファーナの問いに、サイラスが頷く。

「レティア姫のことだね」

前王が在位中でもなかなか公の場に出なかった姫君の話題に全員の視線が長兄に集中する。

「彼女も王位継承者だとライアン王は言っていたよ。その事以上にすごいのは彼女があのロシキスの守り手『国竜ルシルヴィリア』の騎士だと言う事だろうね」

サイラスの言葉にクラウスは目を見開いた。

竜の中の竜とも呼ばれ、銀色の巨大な姿態を持つその竜はロシキス建国の時より国の守護を担っている。

リディアとロシキスの間には幾度も戦があったが、最終的にかの国が滅ぼされなかったのはこの竜のいたためだ。

その竜には、建国の際に『竜姫士』と呼ばれる騎乗者がいた。しかし彼女が亡くなってからは、その役目を受け継ぐ者は現れず、竜はその背を誰にも許していなかった。

「それじゃあライアン王はその方が王位を継ぐまでのつなぎか?」

クラウスは歯に衣着せぬ言いようでサイラスに意見する。

「そうでもないみたいだ。姫はライアン陛下が即位した後、王位継承の正式に辞退し、ヘンリー王子……つまりライアン王の子供が王を継ぐ時の守護者になると宣言した。

竜騎士である以上あの国では自分の将来は好きなように決められる。いくら周りが反対しようとも彼女は自分の未来を自らの望むようにするだろう。

それに宣言をライアン王の差し金ではないかと騒ぎ出したロシキスの諸侯に対し、彼女は壮絶な笑みで『貴様らの息子と結婚させらるのは、嫌だからな、これが一番いい方法だろう?』と言って黙らせてた」

ロシキス王女の勇ましい姿を思い出したサイラスは、自分にはできないその態度を羨ましく思った。

「怖い姫様だな」

逆に顔を引きつらせながら、感想を述べたに下の二人は大きく頷いた。

「綺麗な姫だったよ。年はソルディスと同じ12才、新しく王女になったルミエール姫の方が数日だけ早く生まれたそうでこれからはライアン王の第二王女と名乗るそうだ」

目の肥えたサイラスが『綺麗』と称するのだから本当に綺麗なのだろう。

宣言する様子を三者三様に思い浮かべていると、その場を取り仕切る侍女が「用意が整いました」と呼びにきた。

「さてと、冷めない内に食べようぜ」

次兄専用のリビングの机には、話している間に用意された料理がいっぱい並んでいた。

いつもは言っても出して貰えないような手でつまめるように作られた食事に、料理を用意したクラウス以外の全員が目を見張った。

「こういうのは初めてだな。クラウスはどこでこういうのを知ってくるんだい?」

「まぁね、城抜け出して遊びに行った下町とか……師匠のところとかいろいろ」

比較的に公務も少なく、城に居るのを厭うクラウスは公式・非公式・脱走を問わず城の外に行く事が多かった。

顔立ちは父王に似ているのだが、持ち前の気さくで明るい雰囲気の為、いまだに王子とはバレていないらしい。

「これ、美味しいね」

「本当に美味しい」

末妹の言葉にソルディスも楽しそうに笑いながら相づちを打っている。

「まだ下町に行ってるんですか。あれほどやめてくださいと申し上げてるのに」

4人の傍で控えていたルアンリルが聞き捨てならないとクラウスに注意をするが、彼は「大丈夫、大丈夫」と取り合わない。

「それよりも、ルアンリルもこっちにきて一緒に食べよう」

「そうだ、そんなところに居ずこっちにこいよ」

食事に夢中な下二人とは違い、ゆっくりと優雅に食事をする王子達にルアンリルは逡巡した。

聖長という立場でもやはり王族に仕える身だ。食卓を共にするのは少しばかり気が引ける。

「ほら、ルアンリルの好きな酒も用意……」

「馬鹿っ!!」

クラウスの失言にサイラスが慌てて弟の口を塞いだ。

「クラウス、殿下?サイラス、殿下?」

途端に鋭くなるルアンリルの眼光に「ジョークだ」と身体で示してみるが、その片手に酒瓶があるため説得力などない。

「下のお二人が居る所での飲酒はお控え下さいと」

「あ….….いや、ほら、まあ」

椅子が有るので後ろに引く事もできない状態で二人は怒りの矛先をどう変えようか詮索する。

「お二人には飲ませてないでしょうね」

「もちろんだろ」

「勿論だ」

「ふにゅ?」

「美味しいね」

ルアンリルの問いに肯定する言葉にシェリルの可愛い声と、ソルディスの声が重なる。

「姫様、殿下、ちょっと飲み物を拝借いたしますね」

素早く二人のグラスを取ると匂いを確認する。せれらには間違いなく酒の入っていた形跡があった。

「にゅう、リュウアン・・・クラウス兄様の飲んでるジュウース美味ちいよ?」

「ごめん、ルアン。酒だとは思わなくて僕もシェリルも飲んじゃったんだ」

妹とは違い、もうすぐ13才になる王子は顔色一つ買えずにルアンリルに謝った。

「あなた方の所為ではありませんから、大丈夫ですよ、ソルディス殿下。

……そして、覚悟は出来てますね?」

完璧に怒っているルアンリルに年長者二人は居住まいを正した。

その様子を横目でみながらソルディスはシェリルファーナのグラスに酔い覚まし様に酸味の強い梅のジュースを入れ、自らのコップには先程の内にくすねて置いたクラウス達のお酒を濯ぐのだった。

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