表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リディア王国物語  作者: 白石めぐみ
第一章・王都脱出編
20/23

第十九話:迷宮の外へ

長い階段を下りきり、今度は石積みの壁に囲まれた長い通路に切り替わった。どうやら緩やかな坂になっている上に、合流して移動することを考えてあるのか会談に比べると通路幅が広くなっている。

地下水路に近いのか所々で水が滴る通路を王子たちは息を切らしながら、駆け抜ける。

「シェリル、大丈夫か?」

「うん…………なっ………とか」

一番体力のない王女は何度も転びそうになりながらも、前を行く兄たちに置いてかれないように必死に足を動かした。

舞踏会用の長いスカートは逃亡させないための高速具なのでは、と彼女は思い始めていた。

シェリルファーナと同じく体力がないと思われたソルディスは、彼女とは逆に少しも息も切らしていない。

「もう、つくよ」

ソルディスは向かう先にあるくらい壁を指さす。

クラウスが手に持ったたいまつをかざすと、炎の明かりに照らされ、王の間直前と同じような鉄製の扉が姿を現した。

たどり着いた扉の前で、ソルディスは会場のための作業を開始する。

暫くして開場された扉が少しだけ浮く。それを待ち構えていたサイラスとクラウスは同時に左右それぞれの扉の取っ手に手を掛け、重い扉を開いた。

解放された扉の向こうには隠し部屋と複数の透明な扉が存在した。印象的に先ほどの王の間の鏡の裏の部屋よりも少し広いだろうか。

透明な扉の向こうはどこかの厩舎だろうか、馬が飼葉を食していた 

扉以外の壁には僅かながらの非常食や貴金属、そして靴や服が用意された棚があった。さまざまな鬘もわかりやすいように綺麗に飾ってあった。

「ここは?」

サイラスは透明の扉の向こうを観察しながら末弟に問い掛ける。

入ってすぐ右側の扉を開錠したソルディスはそこにある武器を物色し始めている。

「二の郭と一の郭の境目にある厩舎だよ。馬とか馬車とか大変だから」

この隠し通路兼貴族の厩舎とされている場所は、夕刻を過ぎると勤めている人間全員、帰ることになっている。その際に特殊な鍵で施錠されることが決まりになっていた。

おそらく、ダミーも含めてそのような厩舎がいくつか王都の中には存在しているのだろう。

「これ、借りていこう」

クラウスはソルディスと一緒に武器を見ていたようだ。自分が普段使いしているのと似ている剣を手に取り、人のいない場所で二、三素振りする。重たく実戦で使用することを考えていない武具などは、とっくに外して大きな机の上に放り出されている。

「ルアンリル、この中にある服で動きやすそうなのを選んでシェリルファーナを着替えさせて」

今度は武具部屋の隣の部屋を開場したソルディスは、部屋の中から旅芸人たちが着る服がつめられた袋を詰め込んだ袋を引き摺ってきた。

袋の中身を適当に放り出していく。

王子たちはここまで着てきた豪奢なだけの礼服を脱ぎ捨て空いている袋に詰め、衣裳部屋の隅に隠した。

武具一式もシンプルで使いやすいものを装備した。

一通りの返り血をぬぐい、きちんと止血を終えたソルディスは、大きく息を吸い込んだ。

同時に紡がれる魔力のこもった声が詠唱を開始する。

「光の精霊イリュース、闇の精霊アジェント、すべてのエレメンツにかけ王位第一位継承者たるソルディス・エンデドルグ・リグア・エリファイドが命じる。

輝く源を封じ、すべてを覆い隠せ《ダージェス・フレール》」

詠唱が終わると同時にソルディスの髪から光が消え、黄金の光彩を輝いていた髪が黒く染まった。

「精霊魔法、ですか?」

「僕たちの髪が無暗に輝くのは自分たちの中にある光が洩れているせいなんだ。

だから精霊を使い光を体の奥にしまえば、髪の毛は元の色に戻るんだ。この黒髪は祖父様譲りだね」

確かに『光なす黄金(きんぱつ)』でなくなったソルディスは『王族顔』が諸に出ている兄二人より見つけにくいだろう。

「兄様たちも………特にサイラス兄上は黒かそこらの鬘をつけてください。シェリルも………」

『鬘をつけて』とつなげようとしたソルディスの眼に、ばっさりと髪を落としたシェリルファーナの姿が映った。服装もスカートではなく少年の衣装をつけており、顔の色は専用のニスで褐色へと変化させている。瞳の色はルアンリルの魔法で変化させたのか、深く暗い緑へと色が変わっていた。

「あいつらが追っているのは男3人、女1人のグループなんでしょ?だったら私が男になったら少しは霍乱できる?」

健気に笑う妹姫の頭を、ソルディスは優しく撫でる。

そして自分は飾ってある鬘の中から長い黒髪のものを二つとると傍に立っていたサイラスに手渡す。

「サイラス兄様は女性用の楽師の衣装を着けてください。クラウス兄様はシェリルみたいに肌の色を変えて、剣士の格好を………僕は時守の民の女性の衣装を着て、占い師の振りをします」

ソルディス(次代国王)の誕生を祝う祭りのために王都には様々な旅芸人が来ていた。

彼らは争いを好まず、諍いが起こるとすぐにその場を離れる傾向がある。今の時間ならば、王都を脱出しようとするその集団の中に入れる可能性が高い。

ソルディスの考えを理解したのか、彼らはすぐに変装に取り掛かる。

もとより剣士としての生活が長いクラウスは一番初めに着替え終わり、雰囲気を変えるためにルアンリルに髪を更に短く切ってもらった。

女性の服を選んだサイラスはシェリルファーナに背中のボタンを留めるのを手伝ってもらいながら、ジプシーがつけるような装飾品で自身を飾り始める。

ソルディスは慣れた手つきで占い師の服を着ると、それらしい小道具として貴金属としてはあまり価値のない水晶や香を持ち出す荷物の中へと入れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ