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リディア王国物語  作者: 白石めぐみ
第一章・王都脱出編
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第十七話:見えない邂逅

ルアンリルの腕の中で震えていたシェリルファーナは言い捨てられるように発せられた兄の言葉に、縋る様な視線を送った。

あの恐ろしい物を見たくないのか、透明な扉にずっと背を向けている。

「本当に、お父様じゃないの?」

「違うよ。今は確かに同じに見えるだろうけど、時間が経ったり解呪をすれば魔法は解ける」

ソルディスの言葉にルアンリルが扉の向こうの物体を凝視した。

しかりと見れば、確かに魔法の切れ目がそこらかしこにある。

あの従兄がそれに気づいていないはずはない。その考えと同時にルアンリルの背を、少し冷たいものが走った。

そうだ、自分と同等の魔術師である彼が扉一枚だけ隔てただけとはいえ、近くにいる自分の存在に気づかないはずがない。

視線を移動させるとウィルフレッドがこちらを見ていた。視線は自分でないところを見ているせいか合わないが、彼はこちらを見ていた。

「ルアン、ここは魔術の防壁もあるから、よほどのことがないと気づかれないよ」

その言葉を裏付けるように彼は鏡の前に転がる生首を拾うとすぐに踵を返した。

「これが凝王・バルガスとは笑わせてくれる……おおかた適当に作った影武者だろう。こうして魔術の綻びを広げれば」

彼は生首の上に手をかざすと「解呪フェード・ウェイン」と唱えた。

途端に、ほころんでいた所から魔法は解け、下から別の見知らぬ男の顔が出てきた。

「これを捕まえて喜び勇んでいる間にあの卑劣な男は城を抜け出しているだろう」

別人に代わってゆくのをぽかんと口を開けてみていたオーランドへと、無用なゴミを扱うようにウィルフレッドは生首を投げつけた。

オーランドは忌々しそうに受け止めると、炎をたたえる暖炉の中に叩きいれる。

舞い上がる灰と共に鼻につく臭いが辺りに満ちた。

男はそれに鼻をならすと、部下を引き連れてもう一度王を捕らえるために出て行った。

「行きましょう、殿下」

その一部始終を見ていたルアンリルはまだ立てない王女を抱き上げ、ソルディスに促した。

しかし彼は扉を凝視したまま、少しも動こうとはしない。

扉の向こうのウィルフレッドはちらりとこちらを見た後、あまりのショックに意識が朦朧としている王妃の腕を持ち、自分の方に視線を向けさせる。

焦点が少しおかしい目に、これ以上の詰問は無駄と判断した彼は控えの間でがたがたと振るえている侍女と侍従を呼びつけ、彼女を王の間から連れ出した。

それと入れ違うように茶色い髪の青年が王の間へと入ってきた。

口元に歪んだ笑みを浮かべたその男もバルガス王の側近として仕えていたはずだと、ルアンリルは眉を顰めた。これほど根深い裏切りに憤りよりも、強く恐れを感じずにはいられない。

「トラント卿か」

ウィルフレッドに名を呼ばれ、表情(かお)を綻ばせた彼は恭しく頭を下げた。

「兵の配置は終わっております。王城の入り口には兵を立たせ、城の中もくまなく探すように指示を与えてあります。

また万が一、城から逃げたとしても王都の三枚の城壁のそれぞれの入り口には兵が配置してあり、王族・貴族の顔に精通するものを使って検問も行っています」

磐石の態勢だと言わんばかりのトラント卿に彼は冷たい視線を向けた。

「先程より、貴殿の兵は略奪、陵辱、殺害ばかりで一向に王子達を見つける気配など感じられないのだが、それは私の気のせいか?」

ウィルフレッドの言葉に、男は顔に血を上らせた。

男はもともと小さい領地の領主であるため、兵はさほど持っていない。それゆえ金を出して傭兵を雇い入れたのだが、彼らは統率された兵とは違い目の前の欲望に忠実すぎた。

「成人もしていない王子たちに出し抜かれることは無きよう、努力をしてくれ」

ウィルフレッドはそう告げると出て行けとばかりに、視線を出入り口の方へと向ける。

トラントは返す言葉もなく、歯軋りをしながらその場を後にした。

誰もいなくなった部屋でウィルフレッドはじっと鏡を見ていた。ソルディスは魔法で向こうを写しているその扉を介して、ウィルフレッドを見ていた。

「昔、父より王の間の鏡の裏には通路があると聴いたことがある。ソルディス王子、ルフィーナ、そこにいるか?」

向こうからは見えないのか彼の鏡に向かう独白は、まるで独り言のように綴られ続ける。

「悪運が続く限り逃げつづければいい。私は私の信じた道を進む。

私の妹の持つ『光なす黄金』、そして私の持つ『見透かす心』……二つの王位継承を証を持って私は彼女とともにこの国の王となる。もうこれ以上の偽りの王の治世は、許さない」

どこか悲しく、だが強い言葉にソルディスは静かに肯くと、これで気は済んだとばかりに鏡に手をつくウィルフレッドに背を向けた。

「今は、見逃そう。いつか顔を見て会合する時、すべて志雄が決すると思え」

「わかっている、ディナラーデ卿」

相手には聞こえない答えを静かに呟いたソルディスは、ルアンリルたちを連れて部屋を出た。

彼は自分が施した扉留めをはずし、まだこちらを見ているウィルフレッドの姿を残して鉄の扉を閉めたのだった。

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