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リディア王国物語  作者: 白石めぐみ
第一章・王都脱出編
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第十五話:偽りの真実

王妃と別れた後、彼らは少しの間だけ隠れ部屋に潜んでいた。

言い出したのはクラウスだった。

ここが王位継承者しか知らない通路だと言うのなら、わずかの時間だけでも父が来るのを待ち、母と一緒に逃げるのも手ではないか?という意見からだ。

鏡の扉の開け方は、ソルディスしか知らない。

バルガスが何かの気まぐれで戻ってきたとしても、彼等に逃げる道がない。

父上(あの人)は、絶対に戻らない」

全てを諦めているような口調でソルディスはわずかの望みを口にする兄を諫める。

サイラスも同じように思うのか、年の近い弟の肩に手を置くと首を振って否定する。

「私たちのすべきことは王城(ここ)を無事に脱出すること。その上で、ソルディスを無事に王都から連れ出し、ディナラーデ卿から王権を取り戻す助力をするのが使命だろう。

父上が戻られるのを待っていても更に状況が悪化するだけ……王都を取り囲む兵が検問を始めたら逃げることなどできない」

サイラスの言葉を理解できるのかクラウスは唇を噛んだ。彼だとてこの行動が無駄であることを理解しているのだ。自分の甘い考えを振り払うように目を閉じて、小さく肯いた。

その中で、シェリルファーナだけはやはり諦め切ることができず、透明な扉の向こうに見える母の姿をじっと眺めている。

「この鉄の扉のほうは開けていこう……いざとなったら、この鏡を破り、入ることができる。鉄の扉は外からだと王位継承者の魔力でしか開かない。内側からはそこの鍵で解放できる。通路はいずれかの出口に必ずつながるようになっているから、通路を利用する者がいれば逃げられる」

ソルディスはそういうと通路側の入り口をこんこんと叩いた。幼い姫はそれが末兄から出された譲歩だと、渋々縦に頭を振る。

『元気で。いきなさい』

最後に鏡にむかって掛けられた母の言葉に、サイラスも辛そうに顔をゆがめる。

王妃は言葉がこちらに聞こえているとは思わなかったのか……それとも敵が乱入してきた時に王子たちの場所を知らせないようにするためなのか、その後、こちらをちらりとも見もせず椅子に座りなおした。

クラウスは思いを振り切るように通路へと出る。

サイラスは一礼をしてから弟の後を追った。

シェリルファーナはもつれそうになる足元をルアンリルに支えて貰いながら部屋を出た。

最後に残ったソルディスは適当に扉を開けた状態で固定すると、

「それでは僕たちだけで先に行きます」

と届かない別れの言葉を口にし、兄たちが待つ通路へと走っていった。




王妃はただじっと椅子に座って待っていた。

最後に王子たちと再会できたことへの喜びを胸に、自分が対峙しなければならない相手を待っていた。

ほどなくして王の間の控え室より大きな怒号とともに扉の開く音がした。自分付きの女官達の悲鳴が聞こえる。

「抵抗せねば、危害は加えない。王妃はいるな?」

訊ねている声は聞き覚えのある若い男の声だった。

返事を待たずこちらに向かってくる足音に体が崩れそうになる。

「お久しぶり、ですね。ソフィア王妃……覚えていらっしゃいますか?」

現れたのはこの反乱の首謀者であるディナラーデ卿だった。

彼は戦闘に適した動きやすい服を着ており、その手の剣は、すでに幾人かの人を殺めてきた証拠の血で濡れていた。

「ウィルフレッド……」

懐かしい記憶の中にいる彼は自分たちの息子と殆ど同じぐらいだったはずだ。もう二度と会うはずのないその人と王宮で会ったときは、自分の心臓が止まるかと思った。

そして今の彼は自分の隠していた事実を知り、こんな戦いを起こした。

「その名前で呼ばれるとは思いませんでした。あなたにはずっと『ディナラーデ卿』呼ばれてましたから」

吐き捨てるように言われる言葉に、彼女は沈痛な面持ちで目の前の青年を見上げた。

「あの王に汚され続けた、私の息子はどこです?」

告げられた言葉に彼女は息を飲んだ。

やはり彼は自分が他の息子を生かすために、彼の息子を犠牲にしたのを知っていたのだ。

「あなたの、息子など、知りません」

それでも彼女は認めることなどできなかった。

彼はあきれたように肩をすくめると、その腰に携えていた剣を引き抜き王の間に飾られていたバルガスの肖像画を切り捨てる。

ひっという息を飲み込む音が、自分から響いた。

だがなんとか気を落ち着け、毅然とした態度をとろうとした。

「あなたは、とても勝手な人だ。

会うのは最後だからと私に薬を盛り、求め、勝手に子供を作り……その子を犠牲にしてあの男との間にできた自分の子供たちだけを安寧と生かした。あなたは明日になればすべて何事もなく過ぎると思っていたのでしょうが、そうならないことを私は知っていた。

第一、ソルディス殿下が即位後に真実を知ったらどうなるのかわかっているのか。

そしてあの卑劣な男がソルディス殿下の即位を遅らせるために、どのような駒としてあの子を置いていたか知らないでしょう」

かつての幼馴染み……幼き恋の相手から告げられる衝撃的な言葉に王妃は顔色を失う。

「もう一度、問います………私の息子であるサイラス・ジェラルドはどこです?」

突きつけられる言葉の刃に砕けそうになりながらも彼女は静かに首を振った。

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