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第5話:恐怖の試合

『香り?』

『新・・・』


俺は目を疑った。

目の前にいるこの・・・


香りはあちこちから血を流していてとても穏やかではない格好だった。

顔は恐怖に満ちていて、光さえも映していないのではないのか・・・

そう思ってしまうほどに香りの心はどこかにあるような気がした。


『ねえ、新。見ててくれるでしょ?今から始まる。あたしの大切な試合!』


『・・・っ』


声も出なかった。

声も出せないほどに俺は恐怖した。



真理香は真剣そのものの顔でのこぎりに近い物をかばんから取り出した。

こんな物いつから持っていたのか・・・

そもそもこいつはどうしてこんな物を持っているのか・・・


そしてこの物は何のためにあるのか?



理由はこの状況・・・いやでもわかってしまう。

わかりたくもないような状況だが・・・


いかれている。

こいつは完璧にいかれてるんだ。


『ぁぁ・・・』


香りは恐れている。

その体はとてつもなく震えている。


だが、香りも何故か刃物を持っていた。


真理香の物よりもとても小さな、ナイフに近い大きさの物を・・・


『おい・・・』


すぐに止めに入ればいい話しだった。


だが俺には武器が何もない。

いくら男だからと言っても、刃物を持った女子二人を止めることは出来ない。


もっとも、香りの方はやる気ではないようだから、真理香さえ止めれば問題はないのだろうが・・・



それよりも俺はその光景に圧倒されて、止めに入るどころか、体を動かせずにいた。



『それじゃあ行きましょうか。香りさん。ふふふ』


不適に笑いながら真理香はのこぎりを持ってゆっくりと香りの方へと向っていく・・・


香りは震えながら、だが逃げようとはせずに、ナイフをしっかりと握りしめている。



俺はただ祈るばかりだ。


どちらも怪我をしないでくれ。

正気に戻ってくれ・・・



真理香と香りの距離が段々と近づいてくる。



『止めてくれー!!』


俺は必死の思いで声を張り上げた。


『はぁはぁ、やめろ・・・』


息を整えながらもう一度呟く。


そして真理香に視点をあわせる。


今にも刃物を向けようとしていた真理香の手が後一歩のところで止められていた。


どうやら俺の言葉が届いたらしい。



『ああ・・・』


香りは震えながら刃物を落とし、自らも倒れた。

そうとう無理をしていたみたいだ。



『香り!』


俺は金縛りが解けたように体を自由に動かせるようになった。

香りのところに駆けつけ、そして真理香のほうへ・・・


『どうして?どうして新は香りさんを選ぶの?どうしてあたしじゃないの?何であたしのことは好きになってくれなかったの?どうして?ねえ!どうしてなのよ!』



段々と荒々しく叫ぶように尋ねてくる真理香。

何処か縋り付いているようにも思えた。


『ごめん』


この光景が全て俺のせいだとしたら・・・

真理香がこんな風になったのも、香りがこんなに傷ついているのも全て俺のせいだったら・・・


いや、それは確信てきなものなのかもしれない。

全て俺のせいなんだ。


真理香を裏切り、うやむやにしたまま俺は香りのことしか見ていなかった。

いや、香りのことすら見ていなかったのかもしれない。

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