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006


ハズナとリーシャはドロドロに汚れたアーマーを脱ぎ、生徒用テントに備え付けられている簡易シャワーを浴びる。そして、いつもの学校指定の制服に着替えて、お互い無言のまま、顔も見ずに軍人用のテントの入口に立つ。


テントの入口は幕がかかっており、軍人以外が入りにくい独特の雰囲気がある。

軍人テントは半円型で、入口はそこしかなく、周りを見渡しても小窓すらもついてない。

保温に適しているのか雨風を弾くように布の表面に特殊加工がされており、ただの布で出来ている学生テントとは大違いだ。

下手すれば、ここで暮らせるかもしれない。


2人ともどうしようかと悩むが、先程大泣きしてお互いに冷静になると気まずさが勝り、会話が出来ないまま2人でテントの入口で固まる。


カサっと布が擦れるような音がする。

見ると、テントの入口が開かれ、そこから30代後半と思われる男性が手に持った紙を見ながら出て来た。

今の時代、電子メモが主流で、むしろ紙はとっても貴重品として扱われている。

それを何枚も重ねて持っている男性が、ハズナとリーシャに気付き声を上げる。


「あぁ、君たちか。」


自分が来る事は伝わっていたのか、とほっとしたように軽くため息を吐く2人を気にせず、男はテントの中に顔を突っ込む。


少しするとこちらに向き直る。どうやら中と会話をしてくれていたようだ。


「どうぞ、隊長なら中にいるよ。」


そう言って丁寧に入口の布を持ち上げてくれる。

それに気まずさを感じながら頭を軽く下げ、中に入る。

中は軍人がまだ数人おり、バタバタと慌ただしく動き待っている。


「隊長!」


ハズナとリーシャの後ろからテントの中に招き入れてくれた男性が、誰かを大声で呼ぶ。


隊長と呼ばれた女性はちょうど着替え終わったのか左端に備え付けられているカーテンの奥から出て来た。

その人物はハズナを助けたその人で、間違った認識をされていなくて良かったと、もう一度ため息をつく。

カーテンから出てきた彼女は、ハズナが見た時の軍服とは違い、軽い格好になっている。


「あぁ、済まない。

そっちにのソファに座ってくれ。」


隊長と呼ばれた女性に指されたソファに恐る恐る2人が座る。

あまり座ったことの無い革張りのソファ。何のエルメイの皮から出来ているかわからないが、上質な物だろうと思い、萎縮する。


「ようこそ。

まぁ、なんも無いけど、」


そう言いながら、隊長と呼ばれた彼女はハズナとリーシャが座った2人掛けのソファの前にある、1人がけのソファに座る。

その2つの間にあるのは気持ち程度のテーブルだけだ。


「済まない。いいか?」


え?と2人が隊長と呼ばれた彼女を見るが、どうやらハズナとリーシャにかけられた声ではなく、他の軍人への言葉だったようだ。

2人は何を言っているか全く分からなかったが、他の軍人達には通じたようで、1人、また1人と、頭を下げなら次々にテントから出ていく。


その間にハズナはぐるりとテント内を見渡す。

ソファがあるのは自分たちと、隊長と呼ばれた彼女が座っているものだけだ。

それ以外の席は、テントの壁に沿うようにずらりと木の長椅子が並んでいる。

そして、そのテントの壁に物を掛けれるようになっているのか、軍人の支給品だろうか?同じようなものがずらりと並んでかけられている。


最後の軍人が出て行くのを見送ると、ようやく隊長と呼ばれた彼女は2人に向き直る。


「さて、来たと言うことは話を聞きに来たんだな?」


確認、とばかりに2人を見る彼女を、改めてじっくりと眺める。

彼女はさすがに格好が軽すぎたと思ったのか、軍服を腕は通さず肩にかけており、その隙間から見える腕は程よく筋肉が着いている。自分の動きを阻害しないための最低限の筋肉で、しなやかな動きが出来るのは日常的に着いた筋肉だからだろう。


顔立ちは、人の顔の善し悪しに全く興味のないハズナでも、つい眺めてしまうような顔立ちだ。今の時代では珍しい黒髪で、耳下辺りから軽くウェーブしている髪の毛は、今は結ばれておらず肩に流されている。

そして、その黒髪に合う肌の白さ。引きこもりのリーシャよりは焼けた肌をしているが、本当に任務に出ているのかと言うほど他の軍人より白さが目立つ。


そして、それらを無視してでも目を引くのが、軍服の胸元に光る、真っ赤なバッチ。考えなくても、初めて見ても分かる。

この国の大きな戦闘の1部であると言うことを示すwine red色だ。最高級の階級であることを明白にし、それが3つ光る。


「あ、いや、話の前に自己紹介だな。

この隊の隊長を任せられている結城(ゆうき)だ。

金獅子団所属だ。」


「きん、しし」と驚いた声でリーシャが呟く。

その呟きを拾った結城は、リーシャと目が合うと柔らかく微笑む。


「じゃあ、話に入ろうか。

簡潔に言おう。君達はあの良とか言う少年を救いたいか?」


え?と意味がわからずハズナかリーシャか、どちらかからの口から音が漏れる。


「どうゆう」

「救いたいも何も!!良はもう死んでる!!」


ハズナがそうさけぶと、結城は「そうだな」っと静かな声で返す。

ハズナは止まらない。


「あの蟷螂に首と体を完全に離されて、真っ赤な血が流れ出たのよ!!!

どんどん血が大地に染み込めば染み込むほど良は冷たくなって行ったの!!!

首を繋げようが何しようがもう良は帰ってこない!!そんなの望むだけ無駄よ!!!」


ハズナの嘆きにリーシャも聞こうとしていた口が閉じる。

リーシャもハズナの言葉に、映像を思い出したのか口元を押さえて顔色を悪くする。


「済まない、言葉の彩だ。

君達はあの少年を生き返らせたいか?」

「え、」


「嘘よ、無理よ、嘘、嘘、」と呟いて、自分の体を抱くように小さくなるハズナは、結城の言葉を聞かないようにするためか首を振る。


「いき、かえるの?」

「あぁ、可能だ」

「嘘よ!!!

そんな技術知らない!!そんな技術があるなら今の時代誰も死なないもの!

毎日毎日どこがでエルメイに襲われて死んでる人なんて居ないはずよ!」

「まぁ、そうだろうね、でもこれは、軍の中でもほんの極一部の人間しか知らない技術だ。」


そう言われてリーシャは目を見開き、ハズナも言葉を止めて静かになる。

今の時代は情報の激戦と言っても過言ではない。食料も人材も何もかもが不足しているこの時代、どれだけの技術をどの国が持って、どの国がどれだけの戦力を有するか、それでその国の優劣は変わる。


戦力が弱ければそれをいかに隠して見栄を晴れるか、戦力が増大すれば、いかに他の国にアピールし、増えた理由を悟らせないか。

そんな情報が中心を行く時代で、軍の秘匿技術などざらにあることだ。

一般人が知らないような技術は、軍ならいくらでも持っている。それはこの時代では当たり前の事だ。


「本当、なの?」

「あぁ、もちろん。嘘つく意味は無いでしょ?」


そう言って笑う結城に更に信憑性が増す。

結城は最高戦力を示すwine redの持ち主だ。そりゃあ、他の軍人が知らないことも沢山知っている筈だ。


「そんな、こと、私達みたいな一般人に言っていいの?」


脅しとも取れるリーシャの発言に、結城は怒らずらむしろ口角を大きく上げる。


「周りに言いふらすか?軍は人の蘇生させる技術を持っていると。

ははっ、結構結構、そこにいる軍人だろうが、そこら辺にいる先生や生徒に言って回って結構だ。」


そう言う結城にリーシャはムッとなる。


「言いふらされて困るのはそっちよ」


そう言われ、結城は片眉だけをあげる。


「ふふ、そうかもしれないな。だが、信じて貰えると思うな?

君は私の何を知っている。この隊の隊長って事か?この隊はこの日の為に作られた特別な部隊だ。この隊の隊長って言ったって軍人の中じゃもう分からない。

君達が私の事で知っているのは【ゆうき】と言う名前だけ、漢字も知らなければ、カタカナかもしれない、名前か苗字かも分からない。

どこにでもある様な結城という名前で、誰に、どう広めると言うんだ?


一般人に広めようが、所詮噂程度。そんな軍の噂なんていくらでも転がっている。それが今更1つ2つ増えようが、私は処罰はされることは無い。」


結城のその言葉と態度に恐怖が体に行き渡る。

つい戦闘態勢を取ろうとしたハズナも、仕方ない、と第三者が見ていたら言っていただろう。

それ程結城は、言葉だけで2人を恐怖のどん底にたたき落とした。


「しかもね、君たちが挑んだ敵は学生なら逃げることを義務付けられている古代遺物(エンシェントレリック)の第四位だった。

たしかに、君たちは学校では抜きん出て強いかもしれないが、私たちからしたらたかが学生だ。

我々軍の庇護下で花よ蝶よと育てられる学生だ。安全第一でエルメイを狩り、安全第一を意識しながら先生に習う。それが今の君たちだ。


今回の少年の事件は私達にも責任がないかと問われれば無いとは言いきれない。見回りの際に見つけられなかったことは本当に悪いと思っている。

だが、それとこれは別だ。撤退しろと言われているなら撤退は絶対。


軍人でさえ、無茶をすることはなければ、自分達の手に負えないものは撤退が絶対だ。

しかも君達は5人が最低条件のチームの所を3人のチームで行動した。

これが驕りと言わずなんなのか、先人たちが見つけた1番動きやすい形が5人だと言うのにそれを無視した君たちは何だ。


君達はまだ未熟だから同じような虫の形をしている秘宝級(アーティファクト)古代遺産級(エンシェントレリック)との見分けがつかなかったとしても、それぞれ何か感じるものはあっただろう?


そんな行動をした自分を、簡単に信じてもらえると思うな。

むしろ、親友が亡くなった悲しみで出た戯言としか扱われないだろう。」


そう問われて、心当たりがる2人はギュッと手を握りしめる。

悪い予感はしてた、嫌な感じが頭の隅でチラついてた、でもそれを無視したのは自分だ。そう思えば思うほどリーシャは小さい手をぎゅっと握った。


「あれは、私達の」

「最前の判断、と?」


結城の紡いだ言葉に肩を揺らす。

言葉を選ぼうと思っていた言葉をそのまま言われる。


「本当にそうか?

よく考えてみて、初めの方で適わない敵だと気づかなければいけなかったのは探知者(ソナー)だ。なのに探知者(ソナー)はその戦いを止めて撤退させる役目ではなく、戦わせる役目をおった。

なぜ?君は自分より巨大な敵で送られてくる映像が見えにくかったり雑音が入ったりしたはずだろ?なぜ止まらなかった。」


その言葉に唇も噛み締める。散々読んでいた。本での知識としては知っていた。

それで知った気になっていた。そんな壁にぶち当たったことのない天才だからこそ、この壁は大きく感じられた。

今まで感じた事のないような恐怖を、自分の脳は訴えていたのだ。なのに、それを自分は理性で押さえつけて無いものとした。

自分の知識だけの頭脳に初めて嫌気がさした。


「はぁ、本来 探知者(ソナー)の役割は、誰よりも先に敵を観察し敵の能力、強さ、行動、何の生き物を象った物なのか、それを見極める為にいるんだよ。

そして、それに勝てるかどうか、それを見極める為のものが探知者(ソナー)であって、自分が危険じゃないからといって仲間を向かわせるのは探知者(ソナー)では無い。」


そうだ、その通りだ。軍人じゃないから、まだ学生だからと言う理由で自分たち探知者(ソナー)は安全な所に置かれ、安全に指示を出すことが出来る。

なのに自分の知識を驕り、仲間の能力を驕り、仲間を死地に向かわせた。

なんという怠慢。なんという恥ずかしさ。なんという愚かさ。

泣いてどうにかなるものでないと分かっていても、自然と涙が溢れ出る。


「そして、君はは自身の素早さを過信し、向こうは全力だと傲り、自分の本気には適わないと決めつけ少しも考えを捻らずに真正面から馬鹿正直に突っ込む選択肢をしてしまった。

普通なら前衛は細心の注意を測り、自分の力量と相手の力量を測り間違えない、確かなを判断力を鍛えなければならない。


なのに、それをする警戒心を完全に無くしそれを後衛に任せてしまった。

前衛なら相手の本来と真正面で向き合えるのだから、こいつとは戦えるのか、自分と相手の力量の差はどれほどなのか。それをはっきりと知らなくてはならない。」


そうだ、それが当たり前だ。なのに自分はどこかに自分の足ならどうにかなる、自分の能力なら幾らでも壊せるという慢心があった。

中都の大会でもそうだ。中学生で圧倒的勝利をしたからなんだと言うのだ。上を向けばざらにいるはずだ。高校生が相手にならなさそうだからと言ってなんになるのだ。軍人を見れば自分は何も出来ないひよこっではないか。


なぜ今更になってそれに気付くのか。

もう、もう、もう間に合わないのに今更気付いてなんだと言うのか。

膝にデコを着け、目に手を覆いかぶせ、鼻水が垂れるのも気にしないほど涙を流す。


そんなことをしても時が戻るわけでもない。そんな事をしても自分の過ちが消えてくれるわけでもない。

でも、やっと自覚させられた、他人に自覚させられた未熟さに涙を流すしか無かった。


「その良と言う男の子の首が飛んだのはそれぞれの傲りと、自身の力量をはっきり測りきれないその無知さだ。

恨むなら自身の力量と古代遺産(エンシェントレリック)に出会ってしまった運の悪さと、自身を犠牲にしてまで君たちを守ろうとするあの男の子の芯の強さにしな。」


まるで見ていたかのように全てを話す彼女は2人を突き放す。間違った自分達をまるで許さないというふうに、こんな事をしでかした自分達は世間から笑われる犯罪者だと言うように


辛い、苦しい、でも、彼のことを思うとそれでも足りない。自分の愚かさを呪っても足りない。


「ま、ここまでは学生によくある話だから、まぁ、今回は首が飛んだっていう事故が起きちゃったってだけの事だから。」


コロッと声が変わる。

その声の変わりよう、結城から発せられる圧力の違いから2人は意味がわからず惚ける。

何を言ってるのだろうかこの人は、何が言いたいのだろうかこの人は、何がしたいのだろうか、この、軍人は


2人が顔を上げると見えるのは結城のニコニコという笑み。整った顔をフル活用しながらまるで慈愛を見せるかのように微笑む。


良の、首が飛んだことを、そんな事、だと言ったか?この女は


その思考が2人の頭の中を占める。ようやく理解した結城の言葉に2人の涙が止まる。

他人である結城に取ってはそんなことだろうが、ハズナとリーシャにとっては絶望となる出来事だった。


それを、そんな事、だと。


ハズナとリーシャは同時に立ち上がると、リーシャはテーブルをバン!と音を立て、ハズナはテーブルに足をかけ、結城の胸ぐらを掴みあげる。


「ふふ、怖いなー」


ふざけたように結城が言う。

それがまた2人の神経を逆撫でし、牙を剥く。


「ふざけないで!あなたに取ってはそんなことかもしれないけど私に取っては絶望なんだから!」


いつもは物静かなリーシャが珍しく声を荒らげ捲し立てる。

さっきまで違う事でドロドロと黒いものが回っていた自分の中が、また違うものでドロドロと回り始める。


嫌な気分だ。最悪の気分だ。自分を貶され、幼なじみを貶され、もうこの世に居ない親友までも貶された。


ここで怒らないでいつ怒ると言うのか。


「あなたが!何も知らないあなたが良を貶さいで!!良は、私を庇って死んだの!!貶すなら私にしなさい!!」


ハズナは結城の胸ぐらを掴んだまま怒鳴りつける。

完全に頭に血が昇っている。もう取り返しがつかないような所まで理性はどこかへ言ってしまっている。


だから、2人は忘れていたのだ。

彼女が何者なのかを。


「手を、離せ」


反射だ、脳神経から信号が送られるのではなく、中枢神経その物が反射で結城から手を離す指示を出した。

胸ぐらを掴むより早く離したハズナに、結城は元の顔に戻ると首元を正す。


そして、何事も無かったかのように切り出す。


「ごめんね、君達の亡くなった親友を貶すつもりはなかったんだ。」


遠回しに自分達が不甲斐ないせいで貶されたんだ、そう伝えられた事に正しく意味をくみ取ったリーシャは、顔を真っ赤にする。


「でも、忠告だよ。

軍人になると、昨日話したはずの知り合いが死ぬのは当たり前、数日後に遊ぶ約束をしていた友達が戦場から帰らないのも当たり前、ずっと一緒に戦ってきた親友が急に背中から居なくなるのも当たり前。


敵を殲滅したあと足元を見ると、エルメイの死体と共に冷たくなった仲間の死体が何個も折り重なっている。

そこで生き残ったのは自分の数人だけ、歩けば人やエルメイに当たり転ぶ、転べば下敷きにしているのは仲良かった戦友や上司、嫌いな上司が死んでいても喜びなんか湧いてこない。


全身に着いたエルメイの血がこの罪を忘れるなと語りかけて来るように取れない。

この惨状を心に刻めと語りかけてくる。


それが戦場よ。」


ツッと息を呑む2人。それを想像して、そして自分たちがなぜこんなに平和なのかと言うことを目の前に叩きつけられた。

自分が学生として、こんなに安全に快適に過ごしているのは、こういった軍人の犠牲の元だということが改めて目の前に突きつけられる。


「ま、乗らなくてもいいけど、そこでさっきの提案です。」


軽く話すのは誰だろうか。

ありえないほど早い切り替えに2人とも戸惑う。


「我々は本当に蘇生技術を持っています。今は首を繋げるためと死体が腐臭しないようにするためだけに医療用カプセルに入れています。だからそれらを持ち帰って彼は治療しなければなりません。

しかし、その技術は極秘の極秘、本当に知られていないような技術です。それを使うためにはかなりの階級と実績が必要です。


そして、蘇生される人間の実績だって必要です。

でも、彼は死んじゃっているので実績は積めません。

そして、君たちもここ数年でかなりの地位に上り詰めるなんてことは出来ないでしょう。」


そんなこと、とハズナが言うとしていたのを知っていたかのように結城はハズナが言葉にする前に目を合わせる。


「断言する。無理よ。」


その言葉により、2人ともでかかった言葉を飲み込む。


「なら、どうするの」


リーシャの問いかけが嬉しかったのか最初のようなニッコリとした笑顔を見せる。


「私が変わりに進言してあげる。」

「貴方は、それが出来る地位にいるの?」

「んー、どうだろう。

でも、これの事を知ってる時点で君達より希望はあるでしょ?」

「っ、」


結城と自分達、どちらの方が良を救えるか。そんなものは今明確にされた。

自分達が何十年と掛けて結城の地位に上り詰める、そんなことをしている間に良は腐れるかもしれない。


「貴方が、」

「ん?」

「貴方が私たちにそこまでする理由は何」


それが分からなかった。

リーシャがいくら考えようが出てこない答え。

私とハズナは確かに特別だ。生まれた時からゴールド持ちなんて世界中探したってほとんど居ない。

自分達の貴重性は分かってる。それでも理解できなかった。

私達では、このチームの1人にも及ばないのに。


「んー、特に理由はない。」

「そんなの、信用出来るわけが無い。」

「ふふっ、そーだねー、あえて言うなら、」


リーシャと結城の目が合う。

ゾクリとした感覚。

まるで本心を見つけてみろと言われているような感覚。


「私、拾って育てるのが趣味なの」


ふふっ、と可愛らしく笑う結城。

まるで犬や猫を拾うような言い方。


「まぁ、彼が治るのに何年かかるかは知らないわ。

貴方たちが蘇生技術を使える階級まで行って、あの男の子を生き返らせると言うなら反対はしない。

ただし、蘇生技術は何年、何十年かかるか分かってないわ。」


それが意味するのは、良に会える時には、もう既に自分たちは死んでいてもおかしくないと言われているのと同義。


「まぁ、決心ついたら2人でおいで」


そう言うと、結城はもう用がないとばかりに背を向け、軍服をハンガーにかける。


「ま、まって!」


リーシャの止める声によって結城は素直に2人の方を向く。


「なに?」

「私は、私は乗る!!

良が生き返るならどんな事でする!!あなたの手駒になるわ!!

だから、だから......」


良を生き返らせて、という言葉が音になる前に、結城はハズナに声をかける。


「貴方は、どうするの?」


結城の問いかけに、ハズナはピクっと指先を動かす。


「わ、わたし、は、」


震える声を押し殺しながら結城を見る。

目が合う。

その瞳が怖くて、ビクッと体を揺らす。


「あ、」


右足が1歩後ろに下がる。

まるで塞き止められていた水が流れ出すかのように、その時点で行動は決まってしまった。


ハズナはリーシャと結城に背を向けると慌ててテントから出ていく。


「今の時点では交渉決裂ね」

「っ!

私だけでも貴方の手駒に、」

「必要ないわ。」

「え、」


はぁ、と大きくため息を吐き出す。

これ以上言う言葉ないと言う意味だ。


「出て行きなさい。」


そう言うと結城は背を向けて作業に戻る。

リーシャは、ハズナの後を追うべく走り出す。

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