011
走って走って走りぬける。
どんどん減ってゆく数字を見ながら焦る気持ちを落ち着けながら、2桁を切った階段の踊り場をぬける。
ハズナが連れ去られてからもうすでに3時間は経過しているだろう。
結城ならもう既にハズナに何かしてしまっているだろうし、ハズナもどうなっているのか想像も付かない。
1階に着くとガクンと膝が落ちる。
ギリギリまで耐えた足はとっくに限界を超えており咄嗟に手すりを掴むがズルズルとゆっくり座り込む。
少しだけ、また、走り始めるから。
そう思い大きく上下する胸を落ち着かせる。
ギィッと重い扉が開かれる。
「そうそう、だから、うぉ!」
顔も知らない兵士がリーシャを見て驚いたように声を上げる。
話していた方が声を上げもう1人はリーシャに目線を合わせてくる。
「君大丈夫?」
優しくかけられる声に頭をあげるとそこには上官と思われる人物がたっている。
心配そうに顔を覗き込んでくるその人に頭を下げながら手すりを使って立ち上がる
「大丈夫です。」
差し出してくれた手を相手に押し返しながらふらふらと2人の隣を通って扉を開ける。
その扉は重くグッと力を入れるとゆっくりと開かれる。
1階のロビーに出て走って出口へ向かう。
行こうと思っているのはラエドの獣舎。
ラエドが結城の場所に運んでくれることにかけてみようと言う考えに至った。
しかし、ラエドに乗れるのは結城だけ。もしかしたら大路が乗れるかもしれない。でも、そこに大路が居るのかと言われれば80%はノーと言えるだろう。
だが、それでもリーシャはラエドに会えさえすれば何とかなるという思いで足を動かした。
ガラス張りの出入口にもうすぐで届く、という時に放送音が鳴る。
『岩田 大路
リーシャ・ニルアード
大橋 夏目
笠村 透
以上訓練生4名は、兵士の指示に従い28階まで』
また、音がなり放送が切れる。
無視をしようと決めたリーシャが扉を押してあげようとすると強制的に締められる。
上にある手は大きく大人の男のものでキッと睨みながら後ろを振り向くとそこには予想に反した人たちが立っていた。
「リーシャ・ニルアードだな。
同行しろ。」
見上げた先には見慣れた制服だが、自分のものより金色のラインが多く入っており、自分よりも随分上の上官だとひと目でわかる。
しかも胸の中心に付けられているバッチは元帥直属部隊であるエリートの人だということを物語っている。
そして、この直属部隊が動くということは、あの放送の人物が容易に想像できて、この兵士を動かせる3人の誰でも行かない訳には行かなかった。
そこまで瞬時に頭をはたらかせたリーシャは渋々と同行の意志を示す。
グッと歯を噛み締めて兵士について歩く。
兵士は先程リーシャが降りてきた階段とは違う方向に向かう。
その方向が分かったリーシャは軽く唾を飲む。
そして目の前に現れたのは想像のものでそれの横にあるボタンを押した兵士はどうやら乗りなれているようだ。
チン。と音が鳴って目の前の扉が開く。
「乗れ」
言われたとおり足を出して乗り込む。
その乗り物は上下すると言うのに全く揺れもないし、フロアとその乗り物の隙間も無く、恐る恐る乗り込む。
エレベーター。初めて乗り込んだそれは兵士がボタンを押すと共に上昇し始める。
ドンドンと増えてゆく扉の上にある数字に自分はあんなに頑張ったのに。と少しショックを受けながらも静かに上がってゆく。
チン。となると目の前の扉が開く。
そこは自分が少し前に見た赤い絨毯が隙間なく轢かれている階だ。
最上階29階の1つした。そこにあるのは元帥と直属部隊隊長2人の部屋のみ。
ゴクリと唾を飲むと兵士が歩き出す。
兵士の指元を見るとギュッと握りしめており緊張しているのが分かる。
その緊張がリーシャにも伝わりフルリと震える。
全く扉のない通路を歩くと突き当たりに1つの扉がポツンとあった。
そこからは威厳という冷気が溢れ出ており誰かが唾を飲む音が聞こえる。
自らも音を立てずに無意識に息を呑む。
兵士の1人が扉をノックする。
「結城隊、元帥直属部隊所属、風間少尉です。ご命令通り、リーシャ・ニルアードを連れて参りました。」
緊張した面持ちで扉に忠誠の礼をしながら声を張り上げる。
「入れ」
重い、渋い声が耳に届く。
誰かが息を呑むと同時に声を上げた風間が扉を押す。
「失礼します!」
風間が扉を押してリーシャを通りやすくする。
どうやらこの人たちはこれっきりのようだ。
1歩踏み出すとバタンと扉が閉まる。
薄暗い部屋にはリーシャを合わせて3人、元帥と直属部隊隊長の本田大将のみ。
重々しい空気の中で平然と表情を崩して、1人がけのソファにいる本田大将。
1番威厳という圧を放っているのは、机に肘をついている元帥だ。
息が詰まるほどの重圧に汗が出る。
「岩田 大路です。」
扉のノック音と共に告げられた名に、元帥が「入れ」と命じる。
大路と共に後ろに2人いる。
「大橋 夏目です。」
「笹村 透です。」
「「失礼します。」」
頭を下げながら入ってきた2人は金獅子の訓練生中でも有名な実力者だ。
ハズナやリーシャ、大路と並ぶ実力者とされ、透は後衛、夏目は前衛で2人のコンビネーションは、群を抜いている。
「全員揃ったな。」
本田が口を開く。組んでいた足をといて立ち上がると、その服に隠れた身体から貫禄がでる。
「指令だ。こなせ。」
「「「はい!」」」
康次郎の声に一斉に返事をした3人の揃った声に、少しだけ肩を跳ね上がらせ、リーシャもその後にはい、と言う。
「只今より、元帥 郷本靖明の名において、岩田 大路、リーシャ・ニルアード、大橋夏目、笹村透、そして榛名ハズナの5名は一部隊と認め、灰狼率いる戦艦で古都に向かってもらう。」
康次郎の言葉に4人全員が目を見開く。
古都と呼ばれるのは、関東にある旧京都である。旧京都と言っても、平野が浸水してしまっている今の時代では京都とほかの周りの県を合わせて古都と呼ばれている。
古都の周りは立ち入り禁止エリアが多く続き、中心地ではない古都にそんな戦力は割けないので話し合いや、なにある時は中都から中将、大将クラスが行くことが決まっている。
「結城と壱馬には話は通してある。
任務は資源輸送だ。部隊数は、結城率いる直属部隊が1部隊、灰狼から5部隊、そして、一般から約10部隊だ。
その他に水夫が30名ほど。
戦闘に特化した船だが積荷が重いから人手が多い方がいい。最優先は水夫だ。水夫が減ってしまったら船は動かせない。そして2番目に積荷。お前ら戦闘員は積荷の次の命だ。
訓練生から行くのはお前らだけ。
心して任務をこなせ。」
康次郎の命令で全員が敬礼姿勢をとり、ハッ!と声を揃える。
任務に出れることは嬉しい。メンバーにハズナも大路もいる事で安心もできる。それでもリーシャの心の中に不安は溜まる一方だ。
「質問は?今のうちに聞いとけ」
「はい!」
康次郎の言葉の後、直ぐに手が上がる。
リーシャだ。
「ここに居ない、もう1人のメンバーである、榛名ハズナはどこにいるのでしょうか。」
「今知る必要は無い。」
「しかし、!「くどい!」」
本田の一言でビクリと肩が跳ねる。
リーシャの肩にポンと手がのる。
「本田大将。申し訳ございません。」
「構わん。下がれ」
「はっ!」
大路は頭を下げると「失礼しました。」と言って3人を連れて部屋を出る。
大路のピリピリとした雰囲気を感じながら黙って歩く。
なかなかの距離を歩いたところで足を止める。
「リーシャ。上官の発言に否を唱えるのは基本的に命令違反になる。
二等兵が話せる相手じゃないんだ!
本田大将のご好意に感謝しろ!」
「ッッ!そ、それでも!ハズナが!」
「それでも!「おい、岩田」」
静かな静止の声にピタリと声が止む。
大路は透に目を向ける。
「面倒だ。大路でいい。」
「わかった。大路、ここで声を出すのは止めとけ。聞かれる」
そう言って来た道を見ると暗闇が続く。
さほど歩いたはずはないのに扉は見えない。
頷いて、素直に謝ると背を向けて歩き出す。
「ここって、階段ないっすよね?」
「あぁ、基本的にここに来れる階級の人しか来ないからな。何かあっても28階から飛び降りても無傷な人ばかりだ。」
「え、じゃあ、俺達はどうやって下降りるんすか?」
「21階までエレベーターを使わせて貰う。」
「あぁ、一応使えるんすね、良かったっす飛び降りろって言われても窓ないっすから。」
「あぁ」
大路と夏目が軽く話しているとエレベーターの前に立っている兵士が見えてくる。
大路が手を胸に当てる。
「岩田 大路 准尉です。エレベーターを21階までお願いします。」
「許可します。おつかれ大路」
「ありがとうございます。
お疲れ様です。少尉。」
エレベーターが開かれると、大路が2言3言話し、エレベーターが動き出す。
「准尉、だったんすね」
「あぁ、自己紹介がまだだったな。
岩田 大路だ。
准尉の階級はつい先日貰ったばかりだ。」
「階級?」
「リーシャにも報告してなかったな。結城が色々あってくれたんだ。」
「そう、嬉し?」
「まぁな。」
リーシャの言葉に軽く笑うと初対面の2人を見る。
「2人は仲いいんっすね」
「3年前にな。リーシャ、自己紹介」
「ん、リーシャ・ニルアード。探知者。」
「よろしくっす!
俺は大橋 夏目っス!前衛で火炎操作能力です。
そしてこっちは笹村 透っす!後衛で能力は突風操作能力、幼なじみっす!
すんげぇ、俺様で、上から目線で、男は目で語れ!ってタイプっすけど仲良くしてやって欲しいっす!イタイ!」
正確には引っ込み思案っす。と付け加えながらゲジゲジと蹴られ暴れる。
着実に進んでいく数字は、もう21になりそうで緩やかにスピードを落としている。
「二人とも、降りるぞ」
扉が開くと、扉が開く前とは打って変わってガヤガヤとした雰囲気のところに出る。
21階は階級持ちの兵士の食堂である。
「飯をもらって俺の仮眠室で会議でいいか?」
「全然オッケーっす!」
「うん」
目を伏せるだけに終わる透は、どうやらほんとに目で語るタイプだ。
大路がバッチを見せて食堂の人に話を通すと4人分の食事が出てくる。
それぞれがトレーを持ち1階上に上がる。
22階は仮眠室となっており、大体同じほどの階級の人が4人から2人で人部屋を使っている。
「いいっすねー、ベッド!」
「他3人は任務で出ているから好きなところに座ってくれ。」
「俺ベッドでいいっすー!!」
「イス。」
カタン、と無言で透が椅子に座ったところで食事を始める。
簡単で味気ないが、軍人用に栄養バランスがよく考えられている食事だ。
「そう言えば大路准尉の能力聞いてないっす。」
「准尉は要らない。
そうだな、俺の能力は大地操作能力。主に短剣だからな、殿がいちばん得意だ。」
「昔、突っ込んでた」
「結城のおかげだよ」
「大路に大地操作能力って、まんまっすね」
「ははっしゃーねぇよ。
突然変異だかんな。結城も知ってて付けたわけでは無いだろうしな。」
「え、親って結城大将っすか?」
「いや、拾い子」
「へー、たしかにあの人子供いなさそうっすもんね。」
「育児くっそ下手だぞ」
「大路、怒られる」
「怒ったら怖そうっす!」
「鬼ババアだあれは!」
「論点が違いすぎるぞ」
透の言葉に3人の声が止まり、苦笑する。
「あぁ、悪い。話題を改めよう。」
「もう1人のメンバーのことを教えろ」
「それなら、俺よりリーシャだな」
「榛名 ハズナ。前衛 肉弾派。音振操作能力。今は、結城とどっか行った。」
「音振操作能力って、初めて聞いたっす!」
「珍しい能力だからな。
それより戦闘形態を決める。....」
ある程度は話し合いが進み、全員がお茶を飲んで一息つく。
もう既に昼は過ぎて、夕方に指しかかろうとしている時間帯で仮眠室の前も話し声がチラチラ聞こえることから訓練が終わったことが伺える。
「んー、練習形態を一通りやってみたいけどハズナが居ないんじゃ出来ないよな。」
「大路、ハズナは結城に連れてからた、だから、ラエドに乗って、探して」
リーシャの心配そうな顔に、大路が大きくため息をつく。
「本田大将に言われたように関わるなって。結城なら無事に帰してくれる。」
「でも、怪我人」
「大丈夫。結城を少しは信じろ」
不服そうに、ん、と答える。
コンコン
扉を叩く音に、大路が腰を上げて扉を開く。
そこに居たのは、
「邪魔したか?」
軽く顔を出す人物に、夏目と透が勢いを付けて立ち上がる。
ばっ!と敬礼の姿勢を取った2人に、楽にしろ、と言うと結城は扉を開けて体全体を見せる。
「リーシャ」
「はい」
なに。と応えようとして、公共の場だということを思い出す。
すぐに立ち上がり結城を迎え入れるが、結城は部屋には入らない。大路も扉を開けたまま、何も言わずに横に控えている。
「ハズナの事だが」
そう言われて、リーシャは一歩前に出ようとして踏みとどまる。
ここでもし結城になにかしてしまったら、結城がいくら処罰しないと言っても、処罰しなければ周りに示しが付かない。そのため、下手をしたら自分の首は簡単に跳ねられてしまう。
「3日後の物資輸送の際には戻す。
チームはこのままで構わない。連携などは咄嗟になると思うが出来るだけ臨機応変に対応出来るような隊形を取って欲しい。」
最後は大路への言葉だろう。
4人揃って「はい!」と応えると結城は頷く。
「よろしく頼む。
それと大路。」
「はい。」
「今日は20時だ」
「はい。」
それだけ言い残すと、じゃな、と言って結城は出ていく。頭を下げながらそれを見送る。
去っていった結城に、夏目と透が大きく息を吐く。
「緊張したっす!」
怖かったーと言いながら腰が抜けたように座り込む。
「まぁ、そうだろうな。」
苦笑しながら2人を見る大路に、首を傾げる。
そして、あぁ、と納得する。
自分と、ハズナと大路はなかなかの特別なのだ。
普通の一般兵であったら、金獅子の候補生だろうが幹部会に出席する人物に会えるはずがない。
緊張もするはずだ、と思いながらリーシャも座る。
「結城は昔から怖い時は怖い。」
「あぁ、怒るとヤベーよな。
俺1回結城との鍛錬に行かなかったらマジで1ヶ月避けられて会えなくて焦った。」
それは初めて聞いた。
「それ聞きたいっす!」
食いついた夏目に、透もコクコクと横で頷いて先を促す。
何故か目が輝いてる気がする。
「まぁ、あん時は俺が悪かったんだけど、多分7歳ぐらいかな?
毎日毎日結城が来なくても、知らないおっさんとかお姉さんが相手になってずっと格闘技、拳銃、剣術、棍術とかまぁ、何の武器でも使えるように徹底的に鍛えられてさ。
アザは消えねぇし、骨が折れるし、骨が折れても医療カプセルに放り込まれて治れば鍛錬。
いやー、あん時はマジで死ぬかと思った。」
笑いながら話す大路に、顔が引きつってるのは自分だけのようだ。
頭大丈夫?
「結城大将が手合わせしてくれてたんっすか!?」
「贅沢だな。」
ボソッと呟く透の言葉に、ここまでされるなら相手されたくない。と思う自分は贅沢なのだろうか、と首を捻る。
「まぁ、空いてる時は結城だったな。
あいつまじ容赦ねぇのなんつーの?ほんとに子供を相手にしてんのかよってぐらい容赦なかった。」
「へ〜、結城大将はやばいんすね」
「まぁな」
すげーすげーという2人に、やはり気になってくる。
「2人は、結城のことが好きなの?」
そう問う自分に、2人は驚いた顔をする。
なんで?
「当たり前っすよ!!
結城大将は英雄っすよ!?」
「そうなの?」
初めて聞く結城が英雄という言葉と夏目の気迫に後ろに下がってしまう。
いや、確実に後者のせいだ。あと、透が引っ込み思案なの嘘だろと言いたくなるほど首を縦に振ってるせいだ。
「結城大将は新アメリカ大国への遠征途中に接触した竜型の伝説級相手に、小さな離島に降りたって1人で戦って除けたのでめっちゃ有名っすよ!!」
「伝説級を?」
にわかには信じ難い言葉だ。
伝説級と言えば地球を支配する5種の創世級の次に強いランクだ。
良く子供に聞かせる言葉がある。
制作級が来たら一般兵を、秘宝級が来たら白鴉を、古代遺産級が来たら灰狼を、幻想級が来たら金獅子を、伝説級が来たら超人を、創世級が来たら狂人を呼びなさい。そして、伝説級が来たら島を捨てる準備をしましょうそうしましょう。でなきゃないない自分の命。
今聞いたらなんて歌なんだ、と思うが、そう言われるほど伝説級は強い。
ちなみに、白鴉と灰狼と金獅子、なぜその順番かと言うと、単純にその軍の特性だ。
白鴉は情報収集を主とし、戦闘は援護が主な仕事。
そして灰狼は国内の防衛、物資輸送が主な仕事。
そして金獅子は、最後の砦と言われる戦闘特化の軍人ばかりだ。
海外へ行くなら護衛は必ず金獅子、そして大きな戦争になった場合、最前線を駆け、最後の砦になるのも金獅子だ。
一番誇れる仕事だが、一番命が儚い仕事だと言われている。
そんな金獅子のトップの片方を担ぎ、また元帥直属部隊のトップを務めるのが結城だ。
強いと言うのは肩書きだけでも分かる。
常人ではない雰囲気も、戦闘に関してはポンコツな自分でもよく分かる。
それでも、伝説級を除けたと言うのは信じられない。
「これは本当の事だ。」
「え?」
そう言ったのは大路だ。
「空を駆け、海も潜る竜型のエルメイだったから、このままでは戦艦が沈むと考えた結城は一発思いっきり伝説級のエルメイに入れて、エルメイが怯んだ時に、1人で水上バイクに乗ってちょっと離れた小島に付けたんだ。」
伝説級に一発入れたとか、それで怯んだとか、その隙にどっか行けるぐらい怯ませたのか、とか色々突っ込みたいが大人しく聞いておく。
夏目と透の子供が英雄の話を聞くような目に負けた。
「その後、怒り狂ったエルメイが結城を追って小島に突っ込んで、そっからは能力を駆使して戦ってたんだが、その島に赤子が1人生き残っててな。
子供の鳴き声に反応したエルメイがそっちに突っ込もうとした所を間一髪で助けたせいで満身創痍。
殆ど怪我してなかったのに、助けると見込んでいたエルメイが本気で結城に突っ込んだせいらしい。」
結城ならエルメイを殺すためなら子供1人死んでも仕方ないって言いそうなのに。意外な結城の一面に驚く。
「まぁ、その後はなんやかんや戦った後、エルメイをフルボッコにしたらしい。」
「え?でも除けたって、」
自分の疑問に大路は笑いながら頷く。
「あぁ、正確にはフルボッコにしてとどめを刺そうとしたら邪魔が入ったが正解だな。」
「え?」
「別の伝説級が現れて、そいつにとどめを刺したらしい。
さすがに2体目をフルボッコにする力は無かったらしく、ある程度戦った後子供を抱えて逃げたらしい」
苦笑しながら話す大路。
なんか、話し方がまるで、
「見てきたように話すな」
透の言葉に、頷く。
夏目も、あー、そゆうこと!なんか話し方がおかしーなーって思ってたんすよ!って言っている。
元気だな。
「まぁ、正確に言ったら見てた、になるんだが、本人と周りから聞いたしなー」
見てた、と言う大路の言葉に首を捻る。
見てたんならお前は一体いくつになるんだ。その高校生ぐらいなのは偽物か、と言いたくなる。
「お前、助けられた子供か」
透がよく喋ってる。あの、無口で有名な奴が、と思ったが、それよりも大路のことに驚いて目を見開く。
「あぁ、そうだ。
その小島で唯一暮らしてた先住民の生き残り、そして結城の英雄の話の1つに出てくる子供は俺だよ」
苦笑しながらそう言う大路。
夏目と透はすげぇ!すげぇ!羨ましい!何とかどうとか言葉にしたり目で語ったりとうるさいが、気になる言葉がひとつ、
「結城の英雄の話の1つ?」
間違ってはなかろうか。正解は結城の英雄の話の1部、ではなかろうか。
そう思って指摘するが、その思いは儚く散る。
「結城の伝説並の話ならまだまだある」
そういう大路に、あぁ、そうか。と興奮する夏目と透を見る。
こんなのがここには沢山いるんだ。
そう思うと早くハズナに会いたいという気持ちが強くなった。
いつも適当に横にいた人が英雄なんて思いたくはない。いや、これからも思わない、そう決めて盛り上がる話から意識を遠くする。
むっちゃ久々に読み返すと文章思いつくもんなんだね。そう思いました。
これからがんばろー




