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神様の有給休暇。  作者: 炎尾
蟲毒の青年
21/22

神様と蟲毒の毒

ブクマありがとうございます!

シーザとの鍛錬が終わり気絶したイフを抱えていつもの家に帰ってきた。


「・・・ここは、ゼロスたちの家か。」


「うん。そうだよ。シーザに気絶させられてね。」


惜しいところまでは追い詰めたんだけどね。


「・・・俺はどうやって負けたんだ?足元を狙って崩れなかったのは覚えてるんだが。」


「足に身体強化の魔力を集中して崩れるのを防いだみたい。」


「・・・そうか。」


あれはシーザの経験だね。狙いに気づいたならあんなにギリギリな対処にならないし。


「ちなみにシーザの足はすっごい痣になってた。狙いはよかったよ。惜しいところだったね。」


「・・・あの男は強いな。俺も自信はあったんだが。」


「悔しい?」


「・・・そうだな。」


うんうん。感情が表に出るのはいいことだ。そのうち笑えるように、喜べるようになればいいんだけど。急ぎすぎない程度にやっていこうかね。


「そしたら鍛錬でもしようか?明日はギルドの依頼をやる予定はないから模擬戦とか手伝うよ?」


「・・・頼む。」


「でもフロンはシーザに鍛錬頼んであるから僕だけになるんだけどね。たとえ蟲毒が来たとしてもイフなら大丈夫だと思うし。」


「・・・・・・そうだな。」


ありゃ?なんか反応が変だな?表情はあんまり変わってないけど雰囲気に少し違和感がある。蟲毒の話題だったからかな。


「大丈夫?」


「・・・いやなんでもない。」


蟲毒の話題はやめた方がよさそうだ。ちょっと僕も無神経だった。気を付けよう。


「まぁ今日はゆっくり休むといい。明日昼ご飯を食べたら森に行こう。それまではまず身の回りの物を揃えなきゃね。」


イフは着るものすらない状況だったから僕の服を今は貸してあげてるんだけどそろそろ自分の物を買ってあげた方がいいと思うんだよね。


「・・・わかった。」


「そろそろフロンのご飯も出来ると思うから待っててね。」


「・・・ああ。」


僕はイフの返事を聞いて部屋から出た。

表情が変わらないから何を考えてるのかがわからないのはちょっと辛いな。悩んでいるなら手助けしたんだけどもね。


-----------------------------------------------------


俺はいつまでこうしているつもりだろうか?

あの二人と居るのは心地いい。今日一日一緒に行動してそう思った。あの二人について回るのは俺が今まで見てきた中でも全く見たことがないくらいに好意的な感情ばかりだ。一緒に居る俺にも好意的な視線が向けられる。

いやギルドでは少し違ったか。どちらかというとゼロスに対して殺意が渦巻いていた。


まぁそれは置いといてその中に俺が居て本当にいいんだろうか。

そんなことばかり考えてしまう。

おかしい話だ。それなりに生きてきたはずなのにこんなことを考えるのは初めてだ。


「・・・長くは持たないと思うんだがな。」


話すべきなのかどうか悩む。

俺には既に蟲毒の毒が回っている。もしも裏切りが出た時に死から逃がさないためだ。

どれくらい命が持つのかはわからない。これを話してしまえばあの二人は俺を助けようとするだろう。そうでなきゃ俺をすでに見捨てていたはずだ。

俺は二人の悲しむ顔を見たくない。

だが解毒手段がわからない。


俺は・・・どうすればいいのだろうか。


----------------------------------------------------

次の日昼までに身の回りの物を揃えて僕とイフははいつもの森に来ていた。


「到着!」


今日は僕がイフと身体強化をして競争してきたんだけど。


「・・・」


どっちも息切れなしで着いてしまい引き分けで終わった。フロン。早くここまで強くなるんだ。じゃなきゃこれからもイフに競争しても勝ち目はないぞ!


「さて今日は何しようか?希望はある?」


「・・・前に俺が攻撃した際に秘術を応用して居場所を偽っていただろう。あれのやり方を知りたい。」


「わかった。今日はそれでいこうか。」


正直シーザ相手に気当たりでフェイントしたりしてる時点で必要なのか疑問に思うところあるけどね。シーザの朧もすぐに使えそうで怖い。そうなったら僕はどうやってイフに勝とうかな・・・


「それじゃあ秘術を使ってみて。」


「・・・わかった。」


そういってイフは秘術を使い姿を消す。見事だね。僕が気配を探って違和感を覚えるか覚えないかってくらいのレベルだ。アラクネには少し劣るくらいといったところだね。


「そこから魔力の同調を適当に崩して自分がそこに居ると錯覚させるんだけど出来る?」


するとイフの姿が見えなくて中途半端に気配がするという使いどころのなさそうな状態になった。


「・・・難しいな。そんな風に秘術を使ったことがない。秘術を崩すとそれ以降にも変な癖がついて気配を消せなくなりそうだ。」


「ああ。なるほど。僕は簡単に使えたんだけど。秘術を見よう見まねでやりたてだったから癖とか関係なかったんだね。」


「・・・アラクネはこの技を褒めていた。俺にはすぐに真似できんと。というより秘術を見ただけで出来るようになるやつなんて聞いたことがない。」


まぁそこは神様ですし。魔力のコントロールとかはお手の物ですよ。こればっかりは人形のスペックとは関係ないし、長生きしてきた特権みたいなもんだよ。


「それほどでもないさ。まぁしばらく練習してみようか。戦闘でこれを使うとなるともっと難しくなるからね。」


「・・・ああ。わかった。」


そのあとしばらくイフは練習をしたがいつまでやってもうまくできなかった。


「うーん。これって難しいのかね?」


「・・・手本を見せてくれないか?」


「わかった。僕の頭に石でも投げてみて。」


そういうとイフは手近にある石を拾って僕に投げつけてくる。石が頭に当たる寸前に自分は避けるが秘術を意図的に崩した状態を作りあたかもその場から動いてないように錯覚させる。見事に石は頭に当たるものの後ろに飛んで行った。そして僕の幻影が消える。


「一応短い時間しか持たないからホントに戦闘用なんだよね。でも決まれば確実に相手の意表を突くことができる。」


「・・・それは俺が実体験しているから大丈夫だ。」


「それもそうか。とりあえず根を詰めてもしょうがない。少し休憩しようか。」


座り込む僕とイフ。いつもならフロンが何か話してくるんだけど・・・


「・・・・・・」


「・・・・・・」


無言の時間が辛い!フロンが居る状況に慣れてるから余計に!助けてフロンさん!

そう祈りを捧げているとイフから話しかけてきた。


「・・・ゼロス。俺はフロンとゼロスと一緒に居てもいいんだろうか?」


「何を言ってるのさ?僕たちは居たいから一緒に居るんだよ?」


「・・・俺は今まで好意的な視線を受けたことがない。ずっといつ死ぬかわからない、殺す相手に恨みがましくみられるとかそういった視線と感情にしか触れてこなかった。暗殺も相当してきた。穢れた自分が一緒に居てもいいのか?」


あー。割と深刻に悩んでるやつみたい。一応言っとくけど僕も結構人は殺してるよ?色んな下界に行けばそれだけ色んな事があるもんだしね。だからそこまで悩むことでもないと思うんだけど。


「別にいいんじゃない?たぶんいきなり居なくなっても僕たちはイフのこと探し出すよ?さっきも言ったけど一緒に居るのは居たいからであって、それ以外のことは考えてないよ。僕もフロンも。」


「・・・俺は穢れている。」


「それが?楽しく行こうよ。さっき自分で言ってたけど悪意しか向けられてないなら人を殺すこととかそういったことはおかしくないよ。それでもそうやって自分のことや相手のことを考えることができるなら君は善人だ。」


「・・・善人なんて初めて言われた。」


「そうか。ならこれからはそう思われるように生きればいい。そうすればおのずと色んな人から悪意の視線なんてものは消えていくさ。」


正直なところ過去の事を気にするのは悪いことだとは思わない。特にイフの場合はなおさらかもしれない。でも反省出来るならこれからの行動でいくらでも取り返せると思う。だからあんまり気にしすぎて自分の過去に押しつぶされることだけはしてほしくないかな。


「・・・ゼロス。話さなきゃいけないことがある。」


「なんだい?」


「・・・俺はおそらく・・・」


「その話は後にしよう。どうやらお客さんのようだ。」


深刻な話はあとで聞こう。人の気配がする。どうやらイフよりも練度は低そうだな。念のために魔力を散らしておこう。


「気づかれたか。」


こいつは先日イフと一緒に襲撃してきてフロンを人質に取った奴か?何度も何度もご苦労なこった。


「それで今日も僕を殺しに来たのかい?何度も何度も大変な話だね?」


「こっちも何度襲撃しても仕留められないからそろそろメンツに関わるんだよ。だからさっさと殺されて欲しいんだが、今日はそれ以上の問題を見つけた。」


問題?一体なんでしょう?


「なんでてめぇが生きてやがる・・・!666番!答えろ!」


ああ。死んだと思ってたのか。まぁ主に外傷だけだったから僕も治すことができたんだけど。


「・・・助けられただけだ。」


「ご愁傷様でした。殺しきらなかったのがいけないね。血はすごい出てたけど外傷だけなら僕は治せる。」


そう答えると青年は何やら震えている。どうやら怒りを覚えているようだ。


「アラクネ様が情けをかけたのはまだわかる。お前はずっとあの人の手下だった。だが!蟲毒に生かされていたお前が暗殺対象に助けられ、のうのうと生きているとはどういうことだ!恥を知れ!」


「・・・・・・」


イフもどうやら思うところがあるのは間違いないようだね。でもね。


「それは君が決めることじゃないだろ?選ぶのは僕でもましてや君や蟲毒じゃない。決めるのはそれを選択している本人だ。」


「部外者は黙ってろ!」


「それは出来ない。助けたのは僕だ。ないとは思うけど凶行に走らないように監視す義務はあると思うよ。少なくとも君に言われる筋合いはない。」


今イフは悩んでいる。自分がどうしたいのか。さっきの話を聞いてそれは確実だと思う。だから僕はまだしばらくは一緒に居るつもり。


「チッ!まぁいい。どうせそいつは長く生きられない。せいぜい苦しむ姿を見続けることだな!」


はっ?長く生きられない?どういうことだ?


「それはどういうことだ?」


「蟲毒では裏切り防止用に最初に毒を打ち込む。魔法では治せない種類の毒だ。ハッ。裏切り者にはお似合いの死に方ってわけだ。」


なめやがって。僕が温厚だからって攻撃しなければ何もしないと思うなよ。


「ッ!」


僕は殺気を飛ばし始める。以前フロンを人質にした蟲毒の幹部に当てたものと同等のレベルの殺気だ。

少し怯んでいる辺り幹部ほどではないようだ。


「その毒はなんだ。答えろ。殺されたいか。」


「たとえ殺されても話すとでも思ったか?」


これ以上口は滑らないか。なら脅威は与えておこう。これからイフが苦しむのであれば何度も狙われて時間を削られるのが一番痛い。


「ならさっさと消えろ。帰って蟲毒に報告するんだな。お前らの言う666番は、イフは殺させない。いくら殺しに来ても僕がすべて返り討ちにしてやる。自分の命が惜しければ来るなと。それにお前のような奴は殺されるより見逃される方が屈辱だろう?」


「クソが!今のセリフを後悔するなよ!」


そういって蟲毒の青年は逃げていった。


「イフ。話をしよう。さっき話そうとしていたのはその長く生きられないということだね?」


これは間違いないだろう。自分が一緒に居るのを悩んでいたイフが僕たちは一緒に居ると言った。だから長く生きられないことを話そうとしたんじゃないか?


「・・・ッ!そうだ。」


見透かされてびっくりした表情をしている。珍しく表情にだしたな。


「それでどれくらい生きられるかわかる?」


「・・・それはわからない。」


そしたら推測を立てるしかないようだね。


「それじゃ質問を変えるよ。蟲毒で暗殺の任務の際に一番長く離れていた奴はどれくらい帰ってこなかった?」


「・・・三週間程度だ。」


「なるほど。少なくともそれくらいは生きられるわけだ。」


三週間か。まだ時間はあるかな?


「イフが僕たちに襲撃に来た時蟲毒の拠点からどれくらいかかってここまできた?」


「・・・乗り込むつもりか?」


「いやいや。そんなことしない。自殺行為に他ならない。どれくらいの幹部がいるかもわからないところに潜入する勇気なんて僕にはないよ。」


アラクネみたいなやつが他にもいることを考えれば秘術はすぐバレる。それに戦力も足りない。だからそれ以外の方法で助けることを考えたい。

それを聞いて納得したのかイフは話始める。


「・・・ここまで来るのに4日だ。共和国方面から俺たちは来ている。それと拠点の正確な場所はわからない。」


「共和国方面?細かいことはわからないの?」


「・・・ああ。拠点を出るとき目隠しをした状態で幹部につれられる。俺は幹部じゃないから細かいことはわからない。そういう面から蟲毒は全員念話が使える。」


厳重な行動だな。自由に動いているものだとばかり思っていたけど。帰ってくるときは念話で幹部を呼ぶって感じか。


「ここまで来るのに馬車は使った?」


「・・・使っていない。道が整備されてないファウスト山脈を通ってここまできた。だいたい共和国から王国までは馬車で6日くらいかかるだろう。」


やばいな。三週間は許容範囲内だとしてもそれを過ぎればどうなるかわからない。そしてそれまでに解毒の手段も見つけなくてはならない。


「解毒手段は?それと症状は?」


「・・・わからない。毒を打ち込まれてから何か特別なことをした記憶はない。症状は時間が経つにつれて動きが鈍くなって、体の怠さが出てくると聞いたことがある。」


「なるほど。」


そうか。常に生かさず殺さずといった形を取っていたわけだな。解毒の手段を取っていないということは完全に解毒できる状態にして使っていたわけではない。


「・・・何かわかったのか?」


「おそらく解毒をした記憶がないということは日常的な手段でそれを回避していたってことになる。そして完全に解毒されていないということは効果の薄い状態で使って延命していたってことだ。」


「・・・それはどうすればいい?」


「おそらく蟲毒はその毒を打ち込んでから日常的な食事か、飲み物に混ぜて摂取していたんだろう。そうすれば拠点に帰れば死なないのも説明がつく。」


これである程度毒の全容も見えてきた。範囲はかなり絞れたはずだ。


「・・・なるほどな。それなら裏切った際にその人間には手を下さずとも殺すことができる。」


「毒の種類だけどある程度範囲は絞れそうだ。」


「・・・この程度の情報でか?」


「ああ。この毒は解毒手段がある。そして毒の種類は徐々に衰弱するもの。そして解毒するための物は調理することで効果が落ちるものである。あとは共和国方面にある毒だろうね。これだけの情報があればわざわざ潜入なんかしなくても探すことができる。ここからは時間の勝負だけどね。」


このときイフはゼロスという男に感嘆の念を覚えていた。


(恐ろしいな。これだけの情報でここまで範囲を絞って行動できるのか。強さもそうだが頭も切れる男だ。俺はもしかしたらとんでもない人物と一緒に居るのかもしれないな。)


「ん?イフ。どうかした?」


「・・・いや。なんでもない。」


なんか様子が変だけど大丈夫かな?ただ僕が動く方針は決まった。

もうイフが毒を解毒しない状態が長く続いている。期間はここまで来るのに4日、大けがして眠っていた日が2日。昨日、今日でもう8日目。毒を調べて、もしもこの辺りにないものであれば移動にも時間がかかる。すぐにでも動くべきだな。


「イフ。この近くにあるもので解毒できるかもわからない。今すぐに戻って調べようと思う。」


「・・・俺を助けるのか?」


「何を言ってるのさ。見捨てるなら君を最初から放っておかないよ。さっき言っただろ?」


「・・・そうか」


何度も聞かなきゃ不安なのかね?まぁ何度聞かれても、何度ボロボロになろうとも僕やフロンは何度でも助けるよ。


「よし。それじゃあ毒を調べるために今すぐに王国に戻ろう。」


「・・・ああ。わかった。」


ここからは時間との勝負になる。みてろよ蟲毒。絶対にイフは死なせてなんかやらないからな!

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