神様の行動
帝国の城 謁見の間
「失礼いたします!エーヴェル皇帝!」
そこには先ほどと同様エーヴェルとデュランがいる。ただ少し深刻そうな顔をしている。
「むっ?どうしたゼロス。客室で待っていてくれと先ほど話したはずだが。」
ちょっとそう言ってられないと思ってね。
「もしかしたら先ほどよりも不味い状況になり始めているのではと思い進言しに参りました。」
「ほう。どういうことだ?話してみろ。」
「ハッ。まずベヨネの連行は止めていただけたでしょうか?」
まずはこのこのことは確認しなくてはならない。もしも城に来られては問題だ。
「ああ。先ほどお前たちが言うようにすぐに念話で連行を止めさせた。そのあとどうするかを思案中だ。」
そうデュランが言う。
「そうですか。それでは憶測ではありますがお話いたします。先ほど申したようにベヨネには恐らく口止めも含めて蟲毒の幹部が付いていると申しました。また城等で暴れる可能性もあると。」
「うむ。そうだな。そうなれば私たちも悪い状況に追い込まれるだろう。」
「それで暴れる手段に考え付くことなのですが、ベヨネはどれくらい魔法が使えますか?」
それが重要だな。それ次第では魔法で打撃を与えることも考えられるからな。
「いや。ベヨネに特別魔法に関する噂を聞いたことがない。恐らく一般的な魔法の腕だろう。」
「わかりました。ならば私が予想する手段は強化ゴーレムであると思います。あれの強さは収容所で戦ったシーザが語ってくれました。恐らく一般の兵士では勝てないと。」
「むむぅ確かに。ただあれはそんなに簡単に量産できる代物でもないぞ?」
それは正しい。あんなもの量産できるなら軍事バランスはすぐにでも崩壊するだろう。
「量産は出来なくてもそれを戦争の際に準備していたことを考えれば元老院が予備を持っていないはずがありません。このままでは兵に多大な被害が出ると予想されます。」
「皇帝陛下。私もこのゼロスの意見が気になります。筋はしっかり通っています。ありえる話ではないかと。」
「そうか。ならデュラン。帝国の選りすぐりの兵を集めてベヨネに向かわせろ。その兵にベヨネを連行させるように。あとベヨネが何か持ってないか確かめ必要があれば取り上げろ。」
「承知しました。そう手配します。」
そういってデュランは準備を始めるために謁見の間を出ていく。
「はぁようやく肩の凝るしゃべり方やめてもいいかな?」
「ああ。いいぞ。今は誰もいないからな。」
「そういえばこの城には大臣とかそういったのはいないの?」
普通謁見の間とかに居て皇帝を補佐するもんだと思うけど。
「それはな今は信用ならないんだよ。私を捕まえたのが誰かわからなかった。だから必要以上に人を近づけさせていないのだ。」
「なるほど。また監禁されて毒を盛られちゃたまらないもんね。」
「そういうことだ。また一人一人選別して任命しなくてはな。味方はいくらいても困らない。ところで・・・」
そういってエーヴェル皇帝はこちらを期待した目で見ている。
「ゼロス。お前この国の参謀をやらぬか?お前は信用できる。そして頭も切れる。こんな人材はそういないと思うのだ。」
「ははっ。そう評価してもらえるのは嬉しいけどお断りさせてもらうかな。」
そういうと皇帝は残念そうな顔をする。
「そうなのか。そうすれば私の話相手にも困らないだろうと思ったのだがな。」
おいおい。本音はそっちじゃないのか?
「僕は自由に生きたいからね。自由に生きて困っている人を助けて楽しく人生を過ごしたいんだよ。」
「ゼロスはお人よしだな。そんな理由で今回みたいに命を懸けたのか?そんな危険を冒してもそれでもその生き方を貫くのか?」
「そうだね。今回は成り行きでこんなことになったけど。それでも僕はこの生き方が好きだからね。」
僕は神様なんだけど自分の周りの人たちを助けたいって思うのはおかしいかな?他の神様にも笑われたりおかしい考えだとバカにされるんだけどね。
「それならもう何も言うまい。家臣に誘うのもやめておこう。」
「そうしてもらえると助かるよ。」
「ただ困ったことがあれば頼るといい。国を預かる立場だからできることは少ないがな。」
「ありがとう。何かあれば頼りにするよ。それじゃいったん客室に戻るね。」
ゼロスが客室に戻ろうとするとデュランではない別の兵士が焦った顔をして謁見の間に入ってくる。
「エーヴェル皇帝!緊急の報告のためこのような入室で申し訳ございません!」
「よい。それでどうした。」
「連行途中のベヨネがゴーレムを使い暴れ始めた模様!この帝国に進んで向かってきております!」
少し僕たちの行動は遅かったな。ただ手は打っている。
「わかった。今すぐに市民を避難させる準備をしろ!ベヨネはあと帝国までどれくらいでここに来る?」
「おそらく10分も掛からないかと!」
「時間がないな。すぐにでも行動を開始しろ。それとすぐにデュランにも連絡をしろ。ベヨネを帝国の中に絶対に入れるなと。」
「承知しました!」
兵士は報告をしすぐにデュランのところに走って行った。
「エーヴェル。僕もベヨネを止めに行ってもいいかな?」
「すまない。そうしてもらえると助かる。」
「それとシーザにギルドをすぐに動かせるようにお願いしてある。シーザにも強化ゴーレムを止めるために協力してもらうけど、ギルドと兵士との連携に誰かを回してくれると助かる。」
その話を聞いてエーヴェルは戦慄する。この男はどこまで先読みして動いているのだと。まさに未来を見ているのだと錯覚するほどである。憶測も正しく、それに対する対策も練っている。
「何から何まで済まない。ただゼロス。私は気が変わった。お前はやはり参謀に欲しい。常に参謀の枠は用意しておこう。気が変わったらいつでも来てくれ。」
「勘弁してよ。ホントに気が変わったらね。」
「ああ。待っているぞ。」
「それじゃ行ってくる。」
そういってゼロスは謁見の間を後にしたのだった。
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客室に戻る途中。
「ゼロス!」
「フロン!どうしたんだ?」
「何かあったの?兵士が慌ただしい感じがしてる。」
気づいてるねこれ。話しちゃうか。
「ベヨネが暴走を始めた。今この帝国に向かってきている。」
「ええっほんと!?」
「だから僕はシーザとこれを止めに行く。だからフロンは族長たちと一緒に待っていて欲しい。」
危険だしね。あれ?でも一度戦ってるんだっけ?
「ううん。私も行く。あの強化ゴーレムなら一度戦ってるし。」
「でも危ないよ?それにフロンがどのくらい魔法使えるのか知らないし・・・。」
ホントはあんまりこれ以上フロンに危険な目にあってもらいたくないんだけどね。
「連れていってくれないかね?」
「族長!」
そこにエルフの族長が話に入ってくる。
「この子はエルフの集落でも魔法の腕はあります。遅れは取らないでしょう。」
ああ。もうそういう援護されると連れていくしかないじゃないか・・・!
「わかった。フロン?危なくなったら逃げるんだよ?」
「うん!頑張るよ!」
「さてシーザはまだ客室に居るかな?」
「俺ならここにいるぞ。戦う準備は出来てる。それにしてもまたお前の予想が当たったみたいだな。」
何処からともなく現れるシーザ。
「嫌な予感ばかり当たっても嬉しくないけどね。ギルドに連絡は取れてるんだよね?」
「ああ。もう市民の避難を始めている。さっきから外も騒がしいし、そのことはギルドにも報告が行ったようですぐに行動している。」
「わかった。なら僕たちは避難する時間を稼げばいいんだね。」
ここまでやってくれたお礼はしっかりしてやらないとね。絶対ベヨネを捕らえてやる。
すると帝国の外からすさまじい轟音が響く。
「この音は?」
フロンが聞く。
「もしかしたらもう着いたのかもしれないな。門を叩いているのかもしれない。」
そう答えるシーザ。
「さっさと行かないと不味そうだ。行こう。」
ゼロスの言葉に三人は先ほど音がした方向に走り始める。
「ところで疑問なんだけど?」
「なんだ?」
移動しながらゼロスは疑問を口にする。
「さっき兵士が10分くらいで帝国にたどり着くって言ってたんだけど、こんなに早く着く?」
「というと?」
「まだ謁見の間から戻ってきてそこまで経っていない。少なくとも兵士が足止めに動いている。操っているのはベヨネ。それホントにただの強化ゴーレムなのかな?」
「確かに。それを聞くと昨日のとなんか違うような気がするかも。」
おかしいよね。まだ10分くらいだ。兵士が足止めにならないくらいに強化されてるのか?
「おかしい。俺が戦った奴なら腕とかは剣で切り落とせた。いくら兵士の剣とかよりも良い剣を使ってるとは言え腕とかが崩れて足止めをもらってもおかしくない。これは兵士が心配だ。急ぐぞ。」
そういって身体強化を使ってシーザは先ほどより早いスピードで走り始める。
それに合わせて僕やフロンも身体強化で帝国の門に向かった。
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門に着くとそこにあったのは惨状だった。
門は跡形もない形に変形し、その近くには数多くの兵士たちが腕や足などあちこちありえない方向に曲がっている。そして地面に広がる血の絨毯。
肉を焼いたような不快な臭いがあちこちから漂っている。
そこに広がる光景には言葉を失うものがあった。
「ううっ!」
その惨状にフロンは吐き気を催す。
「チッ。これは一体どういうことだ。」
昨日のゴーレムが起こしうる惨状はないことにシーザは歯噛みする。
「これが強化ゴーレム?こんな強そうだったの?」
ゼロスは初めて見る強化ゴーレムを見て少し後ずさる。
三者三様の感想を持ちながら強化ゴーレムを見ると収容所で見た時のゴーレムよりも一回り大きくなり、その腕や足は固そうな金属で身を包んでいる。昨日のように剣でどうにかすることは出来そうになかった。
そしてその手の指先からは何かを放出するための穴がある。どうやらそこから炎を出すことが予想された。
「むっ貴様たちは!」
そこでベヨネがシーザとフロンに気づく。
「昨日私に歯向かった馬鹿どもか!どうだ!今回は昨日のようにはいかんぞ!」
「どうしてっ!どうしてこんなひどいことができるの!?」
フロンが兵士たちを見て悲痛な声で叫ぶ。
「ククク・。ひどい・・・ひどいかぁ!」
その発言を聞き気持ち悪い笑みを浮かべながらベヨネは笑い出す。
「貴様たちは私を失脚にまで追いつめ、あろうことか私の指まで切り落とした!こんな集まっても何も出来ん有象無象の命よりももっと高貴な私の指をだぞ!ひどいのは貴様たちだ!」
「あんたは民をなんだと思っているんだ」
そこにゼロスが口をはさむ。
「なんだ貴様は?そんなもの勝手に生まれ勝手に死んでいく有象無象だろう!私たちの統制、私たちがそれを指揮してやらねば動けぬな!」
「ハハッ。ならあんたはなんのために元老院になんかなったんだ?」
ベヨネの回答にゼロスは笑いさらに問いを重ねる。
「貴様何がおかしい!だが答えてやる。そんなもの私がこの国を導くためであろう!何も出来ん有象無象は黙って私の指示に従えばいいのだ!」
「力を持つものはその力を正しく使うものだと教えてもらわなかったのか?」
「正しく使っているだろう?私はいずれこの帝国を自分の手中に収め、すべての者たちを導いてやろうと言っているのだ!」
「お前みたいなやつが国を導くだとか、吐き気がするな。」
そこにシーザが口をはさむ。
「ならこの惨状はどうだ?導く者たちを殺して何になる?」
「仕方のない犠牲というものもあるだろう?私に従わない有象無象は仕方のない犠牲になるだけだ。」
「どうやら帝国は元老院という形を壊した方がよさそうだ。これほどまでに頭の回らん屑が国の権力を持って何になるんだ?」
「それは同感。さっさと伝統なんてものは捨てて屑は一掃するのがいいと思うね。」
ゼロスとシーザは皇帝と元老院という政治の在り方にそう吐き捨てる。
「これなら皇帝一人の独裁政治にした方がいいだろ。あの皇帝なら少なくともこんな元老院が権力握るよりマシに政治をするだろうな。」
「僕はそれでもいいと思うよ。これから帝国は大変だね。」
そう話しているシーザとゼロスに向かってベヨネはうんざりだという顔で戦闘態勢に入る。
「このような話はもうどうでもいいだろう?私は昨日の復讐をしたくてたまらないんだ。そこの男とエルフの女は殺す!私をコケにしてくれたお前たちは絶対になぁ!」
そう唾を飛ばしながらしゃべるベヨネ。しかしそんな彼に魔法が飛んでくる。
「サウザンドアロー!」
そうフロンが言うとベヨネの強化ゴーレムの頭上から大量の矢が落ちる。しかし無情にもカンカンという音を聞くと金属でできたゴーレムには効いていないのがよくわかる。ただそれでもお構いなしとベヨネにフロンは啖呵を切る。
「私はあなたを許さない!人をこんなにして!私たちの集落にしたことと併せて絶対に倒す!」
「最初の一撃は取られちゃったなゼロス。」
「そうだねシーザ。」
そう会話を交わし笑う二人。
「よく言ったフロンの嬢ちゃん。」
「僕たちのいうこと取られちゃった感じがするよ。」
そういいながらシーザはスポットから剣を取り出し、フロンの頭をゼロスは撫でる。
「やってくれたなぁ!エルフの女ぁ!貴様は楽に殺さんぞ!」
あれだけの魔法を食らいながらも無傷でベヨネは言い放つ。
「僕たちが前線で戦うからフロンは支援をよろしく。」
「後ろは任せたぜフロンの嬢ちゃん?」
「わかった!あいつを絶対に倒そう!」
こうしてエルフの少女を発端とし、帝国を揺るがした元老院の事件は最終局面に入っていくのだった。




