神様と懸念
城の庭をズタボロにした次の日。
「おはようゼロス。どうだ?よく眠れたか?」
「エーヴェル皇帝。はい。昨夜はよく眠れました。」
三人とエルフの族長は謁見の間に呼ばれていた。
「おいおい。やめてくれ。この場には今お前たちと、私とデュランしかおらん。そこまで公の場というわけでもないのだ。昨日と同じく普通に話してくれ。」
えー。やだよー。めっちゃデュランさんが睨んでるじゃん。
「いえ。公ではないと言っても親衛隊の方がいますしここではこの言葉遣いで我慢してください。」
その発言にデュランさんは頷いて納得する。
「エーヴェル皇帝。ここは公の場ではないですが二人きりというわけでもないのでそういった発言はお辞め下さい。」
「むむぅ。仕方ない。」
ふぅ。昨日初めて会ったときとか放送をしている時とは別人だな。何言いだすかわからなくて怖いよホント。
「ところでエーヴェル皇帝陛下。今日私たちが呼ばれたのはどういった理由なのですかな?」
そういってエルフの族長が問う。
「ああ。それなのだがな。そこの三人には褒美を与えようと思ってな。それとエルフの族長殿をお呼びしたのは今回の件の賠償の話をと思っているのだ。」
「わかりました。」
「えっ?私も褒美をもらえるんですか?」
「当然だろう?エルフを助けるために人手を用意して収容所に潜入。そこで実験途中の強化ゴーレムを倒したのだろう?それにそなたが二人を連れてこなければ戦争に発展していたし、私は今ここにいないだろう。」
確かにそうだ。僕とシーザを呼んでこなければ今頃エルフは処刑、奴隷にされる。皇帝は亡くなっている。戦争が始まると恐ろしいことになっていた。彼女の功績は計り知れない。
彼女がいたからこそのこの結果じゃないかな?。
なおそのことを指摘されても自覚がないようでオロオロするフロン。
「大丈夫だよ。遠慮なくもらっておくといい。それだけのことをフロンはしたんだよ?」
「・・・うん!わかった!」
「むぅ。」
「皇帝。むくれないでください。」
二人の雰囲気にエーヴェル皇帝は少々不機嫌になりながらも話を進める。
「三人には褒美として白金貨一枚を。」
「白金貨一枚!?」
その額に再び驚くフロン。
「戦争を止めたと考えれば安いくらいだがこの額で納得してほしい。」
「謹んでお受けいたします。エーヴェル皇帝陛下。」
「どうでもいいけどゼロスのその言葉遣い似合わねぇな。」
「うるさいよ。そんなの僕が一番わかってるんだから。」
実際にエーヴェルの発言の時だけ敬語使ってるから違和感があるよね。
「さてそれではエルフの族長殿。賠償の話に移りたいのだが。」
「その件なんだがな。私たちエルフは無事だったんだ。ただ元老院の処罰だけしっかりしていただければ。」
「そんなわけにはいかない。それでは示しがつかないのだ。」
まぁ他国の事を考えるとそうなるよね。むしろあれだけ危険な目にあっておいてこの発言はお人よしすぎる気がするんだけど。
「ふむ。なら今まで通り森で生活出来るよう住んでいた森を元通りにすること。昨日の放送でしたという法の整備。先代皇帝と行っていた薬品の研究を条件にさせてもらおう。」
「それはむしろこちらからお願いしたいことなんだがな。その条件は飲もう。そのうえでさらに病気等の健康に関する事案があればすべてこちらが無償で手配させてもらおう。それでどうだ?」
「それは確かにありがたいな。それでいい。」
ふーん。絶対に賠償とは言えない内容だけど納得しているのならそれでいいのかな?皇帝が良心的でなければ付け込まれるね。フロンにそこらへんはしっかり教えてあげた方がいいかな?
「失礼します!至急お耳に入れたいことが!」
「なんだ?言ってみろ。」
「元老院のベヨネを捕らえました!現在こちらに連行中とのこと!」
ん?捕まった?こんな簡単に?昨日の今日だぞ?
「わかった。報告ご苦労。下がって良いぞ。」
「ハイ!失礼しました!」
そういって兵士は謁見の間から出ていく。
「さて現在ベヨネがこちらに連行されているようだ。族長殿これで今回の騒ぎの元老院を捕まえることができそうです。」
「ええ。しっかりとした処罰をお願いします。」
ありゃ?気づいてない?
「ねぇシーザなんかおかしくない?」
「ああ。俺もそう思っていたところだ。」
「二人ともなんで?昨日の元老院が捕まったんだよ?」
「フロンの嬢ちゃん。昨日の蟲毒の幹部との会話を思い出してみてくれ。」
そういうと少し思案顔になるフロン。そこで何かに気が付いたようだ。
「あれ?昨日の会話を考えるとなんで元老院は捕まって連行されてるの?」
「その想像で恐らく正解だ嬢ちゃん。そうおかしい。少なくとも蟲毒の幹部が付いていたのなら国の一般兵で捕まえられる可能性というものは存在しない。そう考えたら妙だろ?」
そこにデュランが話に入ってくる。
「お前たち何を話している?何かあったのか?」
「ああデュラン。元老院が捕まったことに違和感を持ってるんだ。」
「違和感?」
そのシーザの発言に首を掲げる。
「ああ。昨日ベヨネに逃げられたときに蟲毒の幹部が利用価値があると言ってベヨネを連れて逃げていきやがった。」
「む?確かに妙だな。蟲毒の幹部を相手ににベヨネを奪ってこちらが捕まえるということができるのか。答えはありえないだ。私もこの目で一度幹部を見ているが一般兵では歯が立たない強さを感じたぞ。」
たぶんこのデュランが会ったのはアラクネの方だよな。城に居たのはアラクネの方だしね。
「皇帝陛下!少しその連行をお待ちいただけませんか?」
「ふむ?どうしたデュラン。」
「そのベヨネから何やら作為の臭いがします。今この城に奴を入れるのは危険な可能性があります。」
「ほう。どうしてそう思うのだ?」
「それはそちらの三人に聞いた方がよろしいかと。私の場合又聞きの話になってしまいますので。」
こっちに振ってきたよ。面倒だな。
「ゼロスどういうことだ?」
ほら。やっぱり僕に聞きにきたよ。だから話を振って欲しくなかったのに。
「皇帝陛下。昨日収容所ではベヨネを蟲毒の幹部が連れ去ったとのこと。その幹部は利用価値があるといってベヨネを連れて逃げ出したのですがそんなに簡単にベヨネが捕まるでしょうか?私はこの城に居た幹部と一戦を交えましたがとても一般の兵に太刀打ちできるような相手ではありません。どうかこの城に連行するのを少しお待ちいただきたいと進言します。」
ふぅこんな感じかな?すごい話づらい。
「ふむ。確かに一理あるな。昨日逃げて一日で利用価値がなくなるとは思えない。」
「私の考えですと利用価値がなくなればすぐにでも蟲毒に殺害されるかと。例えばこの城に連行して尋問すれば確実にいくつもの元老院の話が出てくるでしょう。しかしそれなら連行される前に口止めされることが考えられませんか?」
そうゼロスが言うとさらにエーヴェルは顔をしかめる。
「確かにおかしい。話を聞けば聞くほど妙だな。捕まるタイミングが二人の報告と昨日の発言が合わない。」
「そうでしょう。そしてここからは私の憶測です。恐らくまだベヨネの利用価値は消えていない。例えば帝国に入れて暴れられれば被害を出し、そのことを元老院は皇帝に擦り付け、元老院の地位の向上を謀るとか。また、城に居れて暴れさせて皇帝の命を狙わせるだとか。利用価値の可能性を考えれば確実にこの帝都に入れるのは不味いのではないでしょうか?」
「ッ!確かに!それは不味い、他の元老院に付け入るスキを与えかねない。デュラン!」
「はい!かしこまりました。今すぐに念話を!」
まぁ憶測なんだけど。
「エルフの族長殿。済まない。客室でお待ちいただけないか?」
「ええ。私ではお役に立てないでしょう。ただフロンはそちらの二人にお任せしてよろしいでしょうか・」
「わかりました。ご配慮ありがとうございます。」
そういって族長は謁見の間を出ていく。そこにシーザがゼロスに話しかけてくる。
「違和感は感じたけどそこまで考えが及んでなかったわ。やっぱり頭の回転早いなゼロス。」
「ホント。正直私はシーザに言われてやっと気づいたのにそこまで予想しちゃうなんて。」
「いやいや。僕もただの予想だしなんとも言えないよ?」
ぶっちゃけ憶測は適当だしね。割と真に迫ってると思うけど。
「つっても今回の元老院の企みすべてを少ない情報をもとに仮説を立ててすべて当てているからな。憶測もどれか当たってそうで怖いわ。」
「どうやったらそんなに頭回るようになるのかな?」
そうだね。ざっと何万年も生きれば自然とそうなるんじゃないかな?だからシーザの頭の回転の速さには驚愕するんだけどね。
「そのうちフロンにもできるようになるさ。できるようになるには情報の分析、考察していく力が必要だね。あとは経験だよ。」
「うーん先は長そう。」
「まぁエルフは寿命も長いからそのうちできるようになると思うんだけどね。」
「とりあえず俺たちはどうする?」
「皇帝に決めてもらおうかな?」
そうした方が僕はいいと思う。
「エーヴェル皇帝陛下!私たちはどうすればよいでしょうか?」
「そうだな。デュランと少し相談したい。できれば客室で待機していてもらえないか?」
「わかりました。それでは失礼いたします。」
三人は部屋を後にし、客室で話をしていた。
「なぁゼロス。なんで判断を皇帝陛下に任せたんだ?」
「その方が軋轢を生まないからさ。今回の事件を解決したのは紛れもない僕たちだ。だけどそうなると帝国の兵士は何をしていたとなるだろ?」
「ああ。なるほどな。国民の兵士への不信感も募るし、兵士も皇帝は自分たちよりもよそ者を信用し、重用するのだと士気も落ちるからな。」
「そういうこと。」
その話を聞いていたフロンはぽかんとしたあとに文句を言いだす。
「ああ。もう!なんで二人はそんなに言葉が少なくても理解できるの!?私からするとちんぷんかんぷんだよ!」
「それは伊達に年取ってないからな。そういえば俺はフロンの嬢ちゃんって俺は呼んでるけど年はいくつなんだ?」
「私?17歳だよ。」
「ああ。ホントに俺からすると嬢ちゃんだったんだな。よかったわ。実は100歳ですとか言われたらすげぇ失礼なこと言ってたわ。」
そういってシーザはからからと笑う。
「うん。フロンその年ならしょうがないよ。むしろベヨネが捕まったってことに違和感を覚えられたことだけでも将来有望だよ?」
「むーそういうゼロスはいくつなの?」
1万超えてから数えてません!なんて言えませんよねぇ・・・
「えっといくつだったかな・・・覚えてないや。」
適当にこんな感じにとぼけとけば大丈夫かな?
「その顔つきだと40はねぇな。いくらなんでも若作りだ。20~30代あたりじゃないか?」
「さぁ?そのあたりなんじゃない?」
「自分の年なのになんでそんなに適当なのさ!」
「年なんて必要ないからさ。覚えていても特になにもないしな。」
「随分と老けたジジィみたいなことを言うんだな。」
まぁ人間からみたらクソが付くほどのジジィですから。
「まぁ年の話はそろそろ終わりにしよう。それでこの後どうなるかな?」
無理やり話の方向を変えればこれ以上追及されないでしょ。
「私はわからないよ。ただその元老院に蟲毒の幹部はついているんじゃないかと思うかな?」
「ほう。その心は?」
そのフロンの予想は的を得ていたためそうしてそう思ったのかゼロスは聞く。
「うん。だってさっきゼロス言ってたでしょ?尋問することを考えると連行される前に口止めされるって。だからいわゆる保険ってことで一緒に幹部がついているかなって。」
驚いた。僕はその予想は正しいと思う。幹部は間違いなくベヨネについている。
「やるな嬢ちゃん。その予想には同意見だぜ。」
「ホント!?」
「そうだね。僕はそれに付け加えるとしたら蟲毒の幹部を雇っている奴は恐らく頭が切れてそして冷酷だ。少なくともベヨネが確実に死ぬことを想定して動かしているだろうね。そしてそいつはベヨネが命乞いする可能性まで考えているから見張らせている感じじゃないかな。」
少なくとも僕が立場ならそうする。
「その幹部を雇っている奴には目星はついているのか?」
「それは忍び込んだ時に独り言で呟いてたルードってやつじゃないかなって思う。」
「ああ!あの時幹部の奴がベヨネを気絶させたときベヨネが言おうとしたのはルードか!一文字までしか言ってなくてわからなかったんだ。」
どうやらシーザも途中まで名前を聞いていたらしいな。
「そういったことから今回エルフを襲わせた真犯人はルードってやつが一番有力だと思ってる。」
その話を聞いたフロンは勢いよく立ち上がる。
「ならそいつを捕まえないと!」
「待つんだ嬢ちゃん。どこに行こうとしている?」
「それは皇帝にこのことを伝えに!」
それは無駄足だな。すでにルードがあやしいのは皇帝に伝えてある。
「伝えても無駄だよ。少なくとも今回の件で皇帝もルードが黒幕だと確信しているようだし。」
「なら!」
「でも捕まえられない。なにせ証拠がない。それだと言葉で上手いこと躱されてしまうだろうさ。」
厄介だよね。いつの時代も証拠がなきゃ誰も動けないんだ。
「でも悪い奴はわかってるんだよね!ならすぐに捕まるよね!」
その言葉に二人はうつむく。
「ねぇなんで?なんで捕まらないの?」
「嬢ちゃん。ここからは憶測の話だ。たぶんゼロスも俺と同じ憶測をしているだろう。話すぞ?」
「うっうん。」
シーザの真剣な顔つきに少しフロンは冷静になって頷く。
「恐らくだがルードの奴は捕まらない。今回のベヨネの動かし方を見ると少なくともベヨネは殺す前提だ。そしてその罪はすべてベヨネに擦り付けられるだろう。」
「なんで!」
「死人に口なしだ。死んだ者がルードの名前を出すことはない。そしてルードは頭が切れる。集落を襲ったときの人数のことを考えるとベヨネ一人では足りないと思い他の元老院にも証拠をでっち上げる等して罪を擦り付けているだろう。そして自分には一切の証拠を残していないだろうよ。」
うん。僕も同意見だ。それだけ頭が切れるやつが退路、自分の保身のための策を用意していないなんて僕には考えられない。
「それじゃあ!またこういった事件が起きるんじゃ?」
「否定はし切れないな。」
その言葉に全員が閉口する。
「・・・少し外の空気を吸ってくるね。」
まぁ悲しいけど世の中ってこういうもんよ。フロンも大人になればわかるさ。少なくとも今回ルードには逃げられるだろう。ただルードはいつか絶対に捕まえる。今回の件は重いからな。
「嬢ちゃんには少し酷な話だったかな。」
「そうだろうね。ただすべてを飲み込む必要はないさ。それでも納得できないならその時には僕たちがいるんだからさ。」
悪だとわかっている奴を捕まえられないもどかしさはあるよ。いつだってそうさ。
「ところで話は戻るんだが、幹部がベヨネについているんだよな。兵士を襲うことは考えられないのか?」
「それは大丈夫じゃないかな。蟲毒は依頼にないことをしない主義なんだろうと思うんだよね。」
「正しいかもな。俺は依頼の対象ではないからということで昨日は見逃されたからな。」
昨日のアラクネの口ぶりからの予想ではあるんだけどね。
「ただ問題はさっき言った暴れる可能性って部分なんだよねぇ。」
「そうだな。城で皇帝を殺すとなったり、国内で暴れるということをするには力が必要だ。なにかあるんじゃないかと考えることができるよな。」
そうなんだよ。ただでは済まないって嫌な予感がプンプンしてるんだよね。
「そういえば昨日戦ったって言ってた強化ゴーレムって線は?」
「そうだな。あれなら強いかもしれない。ただ核になってたのがあのエルフだったから強かったんじゃないかと思うんだ。魔力の都合を考えれば離れたものをコントロールするとか魔力を使う行動をある程度制限される。俺たちなら普通に勝てると思うぞ。」
でも昨日みた強化ゴーレムの実験結果を見た限り外から操るよりも必要な魔力は軽減できるって書いてあったんだよな。ただシーザのいうことももっともだ。たぶん昨日シーザが戦ったよりも弱体化するだろうね。
「僕たちなら勝てるってことは一般兵で勝てる?」
「無理だな。少なくともゴーレムって言ってるだけの硬さはある。一般の兵士で戦うとなると勝つなら魔力切れを待つか、核となっている人間を殺すかの二択だろう。」
うーん。となると厳しいかな。
「たぶん暴れることを考えたなら核はベヨネだよね。元老院の情報を手に入れるために殺すって命令はでないと思う。」
「同感だな。となると一般兵なら厳しいだろ。兵を指揮する人間がどの程度ゴーレムのことを知っているか、魔力切れを狙えるほどの指揮が取れるかってところだろ。」
「少なくとも連行してる人はそんなに強くないよね。これはやっぱり不味いとみるべきかな。」
これは自分たちが動くかこの国でも選りすぐりの人選をするとかじゃないと厳しいだろう。
「ゼロス。俺は既に後手に回っていることを考えて対策を練るべきと見るがどう思う。」
「僕も同感だ。僕は皇帝とデュランに今の憶測を話してみる。シーザはもしものことがあった際の事を考えてこの国のギルドと連絡を取って市民を避難させる準備等の連携の確認。どうせギルド長同士で念話ができるようにとかしてるんだろ?」
「その通りだ。国家間で連携を取れるようにそれは出来る。さすがだな。やっぱり気づいてるか。」
そりゃあもう。
「帝国に来る途中で伝手に当たるって言ってただろ?それならギルドには伝手があるとみるのが自然だからさ。」
「よし。それじゃあ行動を開始するぞ。俺は念話してくる。皇帝にはお前が頼んだぞ。」
「了解。報告し次第戻ってくるよ。」
そういって帝国を守るために二人は行動を開始した。




