神様とシーザ
興奮したフロンを引きはがし一人で離れていったシーザを探すゼロス。
「おっいた。」
城の中庭の噴水の前でシーザはたたずんでいた。
「どうしたんだシーザ?気でも抜けたのか?」
「ああ。ゼロスか。そうだな。エルフの事もとりあえず方がついた。これで大手を振って王国ギルドに帰れる。ただ報告やらなんやらは面倒だがな。」
そういってシーザは笑う。
でもどっか元気がないな。さっきの幹部のことを教えろって言ったときの雰囲気がまだ残っているって感じかな?
「それで何があったのか聞いてもいい?」
「ああ。まぁ気づくよな、ゼロスなら。少しショックなことがあったんだわ。」
「ショックなこと?」
なんだろ?収容所でなにかあったとか?
「収容所でベヨネってやつが持っていた強化ゴーレムってやつと戦ったんだ。まぁそん時肋骨を何本かやってしまったんだ。それはいいんだがな。」
あーそっちに強化ゴーレムいたんだ。実験の報告書を見つけて存在を知ってたのは黙っておこう。
「それで?」
「その後に看守を脅して元老院とのつながりを暴こうとして隷属の腕輪を着けたまではよかったんだが、そこで蟲毒の幹部を名乗るやつが出てきやがった。」
おいおい。肋骨何本か折れてて相手できるような奴らじゃないぞ。よくそれで無事だったな。
「正直調子が良くても勝てるかどうか怪しいと思った。それほどまでに強いって雰囲気がしてやがった。」
「まぁ実際強かったしねぇ。僕も良く生き残れたと思うよ。」
あの土壇場の魔法がなきゃ死んでたかもしれない。まだ有給始まって少ししか経ってないのに。この馬鹿スペックで死んだなんて他の神様たちに知られたらどんだけ笑われることやら。
「ハハッ。よく生き残ったなお前。でも俺は違った。依頼の対象じゃないからと見逃され、証拠になりそうな看守も殺されベヨネも連れてかれた。ここまで屈辱的にやられたのは久しぶりだ。」
「それでも肋骨折れてたんでしょ?それならしょうがないんじゃ?」
痛いでしょ。そんな状態でよりよい結果を求めるなんて虫のいい話じゃないか?
「それなのにお前は俺が勝てるかどうかわからないと思った蟲毒の幹部を相手に勝っている。」
「そのことか。僕も辛勝だって言ってるんだけどな。それに逃げられたしね。」
普通に僕死にかけてますよ?
「俺はこの年で国にギルド長として認められてるんだぜ?少なくとも判断能力や強さはそれなりに自負はあるさ。西の未開拓領域に踏み込んで生きて帰ってきてもいる。正直悔しいんだよ。上には上がいるってより自覚させられたんだ。」
向上心の強いことで。そういった反省できることが今の地位につながってるんじゃないの?
「たから聞きたい。お前はどんな手段で城に忍び込んで、どんな手段を使って蟲毒の幹部と戦ったのか。少なくとも使える魔法は補助と回復だけなんだろ?どうすればそれであいつらに勝てる?」
「ああ。そしたら話そうか。ちょっと長くなるけど僕も反省点がいくつかあるんだ。客観的な視点でのシーザの判断を聞きたい。」
「頼む。」
そうしてゼロスは語り始める。
「まず僕が城に侵入した手段だけど最初からこれが問題だったね。だって入るための魔法がなかったもの。」
「俺はその時点で物申したい。そんなんでよく一人で城に乗り込む(キリッ)とか言えたもんだよな。」
その点は深く反省している。見通しが甘かった。
「だから蟲毒がやってた秘術を真似したんだ。こう魔力を周囲の魔力に同化させるようにしてね。」
そういってゼロスは周囲の魔力に自分の魔力を同化させる。
「なるほど。見よう見まねでここまで使えるたぁ大したもんだ。俺にはできない芸当だ。なるほどそれなら侵入は楽にできるだろう。」
「ただデュランや相対したアラクネって幹部には見つかっちゃったけどね。アラクネに至っては練度が足りないと指摘されたよ。ちなみに僕はアラクネが近くにいることには気づけなかったよ。」
そうこの秘術、練度を高めることによって本能で動く魔物や強者の目も誤魔化すことができる。シーザが蟲毒の幹部が近くにいることにも気づけなかったのはこの秘術の練度がただの蟲毒の暗殺者よりもすぐれていたためである。
「練度を高めるとそこまでできるのか。って少し待て。そんな相手にどうやって勝つんだ?常に姿を消されたらどうにもできんだろ。」
シーザのいうことはごもっともだね。だって気づけないのであれば近づいてナイフで一刺しで終わりだもの。
「そこは自分の魔力を部屋全体にある程度まき散らして感知するしかなかったよ。やりすぎると僕の魔力にも限度があるから相手の場所や動きが分かるくらいだけどね。」
「それは燃費が悪い。状況に合わせて散らす魔力を絞ってやらなきゃな。」
「そうだね。そうでもしないとすぐに魔力がなくなっちゃうよ。でもそれだけで済ましてはくれなかったよ。」
そのセリフを聞いて少しシーザが青ざめる。
「まだ何かしてきてたのか?」
「うん。ナイフを振りながら毒を周囲にまき散らしていた。幹部曰くジワジワ弱るのに気づかずに相手は弱るんだってさ。周囲に浄化の魔法も使わないといけなかった。人によっては魔法でその空気を吹き飛ばせば済むんだけどね。」
「体の動きは低下しないとわかりづらいだろ。よく気づけたな。」
「それは何となくだね。奴の動きに鋭さを感じなかった。小手調べって感じだったのかもしれないけどそれにしては狙いが甘いなと思ってさ。案の定浄化の魔法を使ったら反応があったからさ。」
あれ普通に吸ってたら弱ったところに本気の一撃でブスリだろうね。怖いね本当に。
「そこに気づけるかどうかも重要だな。」
「ただこれを他の幹部が使うかもわからないよ?あいつはスパイダーって称号を持ってるって言ってた。もしかして一芸に秀でているってことはこの称号に関係しているんじゃないかな?」
「なるほどな。蟲毒ってのは呪術だ。それに使う虫の種類が他の幹部ってことか?俺のところに来た奴は何も名乗らなかったからわからんが。」
「恐らくそうだろうね。」
「となるとアラクネってやつが使ってた手段はじわじわと相手を弱らせるために糸を使ってきたとかか?」
流石シーザ。虫の特徴からよくすぐ連想できるよ。
「そうだね。アラクネがそのあと使ってきたのは魔力で強化した糸だった。鋭い魔力で強化された糸で動けばスッパリなんて感じだったよ。」
「それならこっちも難易度は高いんだが魔力で何かを強化して鋭くすれば切れるだろうな。」
「その手があったか!」
あーそうすればよかったな。ちょっと頭に血が上ってごり押ししたからな。
「お前どんな手段使ったんだよ。」
「部屋全体を自分の魔力に置き換えて相手の糸を封じた。」
スマートじゃないけどすべて操れるから楽なんだよね。
「それは魔力が多くなきゃ出来ない芸当だな。俺には向いてなさそうだ。俺の得意分野は剣技なんでな。」
「ただ部屋を魔力で満たしてしまえば蟲毒の秘術も封じれるからね。魔力の質を少し変えてやるだけで姿を消せなくなるし。」
「そうか。消えるってアドバンテージも消せるのか。部屋以外で使うなら相手と自分の一直線でも魔力で満たしてやれば俺でも使えるか?」
ナイスアイディアだね。軽く魔力を散らして相手の場所さえわかればそれで限定して使えるからね。
「なるほど。それなら魔力の消費も抑えられるかもしれない。いけるんじゃないかな?」
「もしくは持ってないようだが魔道具を使うとかな。」
魔道具とは魔法の力込められている道具のことで魔力が少ない人が頼る場合が多い。魔法が使える人でも負担を軽減したり駆け引きにも使えるため魔道具を専門に作る職人もいる。
「ああ。そういう手もあるね。次は戦うときには秘術に悩まされることは減りそうだ。」
やっぱりシーザみたいに戦いなれてる人の意見は参考になる。僕もアラクネに次あったら負ける気はないからね。
「あとはどんな手を使ってきた?」
「その後は体術だったよ。ただ、相手を殺すための体術だった。殺すためには必要な技術だとか。金的、目つぶしとかそういった相手の急所をとことんついてきたよ。」
「体術か。そのアラクネってやつはなんでもできるんだな。」
「そうだね。正直それが一番つらかった。強いなんてもんじゃない。実際そこで僕も内臓を傷つけられるくらいの重い一発をもらった。」
あれは痛かった。すさまじい威力を持ってたもんなあの蹴り。
「お前の体術の練度が分からないから何とも言えん。」
「なら今からやる?相手の強さの参考になるかもよ。」
そうゼロスが言うと二人の雰囲気が変わる。強者が戦うという裂ぱくの気配があたりを包む。
「ああ。負傷はさっきエルフの族長に治してもらった。正直あったときは戦う気がなかったが今は正直負けたくねぇ気持ちがすげぇある。だから本気で行く。」
「僕は内臓が一日じゃ治らないからね、本気の一撃は勘弁してほしいけどやると言うならやるよ。」
「ならルールを決めよう。有効打が一撃入ったら負けの一本勝負だ。身体強化だけアリでな。俺がコインを投げる。それが落ちたら始めようか。」
そういってシーザはコインを投げる。
二人の間に緊張が走る。そしてコインが落ちる。
二人は一瞬で肉薄し相手に一撃を入れようと拳に力を入れる。仕掛けたのはゼロスであった。
ゼロスはアラクネが使ってきた戦いを思い出しながら拳を顔面と腹に向かって両手で殴りつける。
しかしその攻撃はシーザには届かない。シーザはその拳を一歩後ろに下がりゼロスと自分の体の間に両手を滑り込ませる。
その行動にゼロスは歯噛みする。ホントはここで金的を狙った蹴りを放とうとしたが一歩引かれ体が前方に流れ蹴りを放てる状態ではなかった。
一方シーザはゼロスの拳を掴み逃げれないようにしつつ蹴りを放つ。
その攻撃をしっかりつかんだ両手を利用し、ジャンプすることで逆立ちするような体制で蹴りを躱しシーザの握られた手から逃れるゼロス。
「「・・・フッ!」」
勢いよく相手の方に向き直り次はゼロスが連続で拳を出す。
しかしゼロスはそれを相手の腕をはたき当てながらすべて受け流していく。
そして不意にゼロスは腕を掴み投げ飛ばすが上手く投げを逃れシーザはうまく着地する。
「冗談だろ?その体術でもアラクネには勝てないだと?」
「冗談じゃないさ。不意打ち同然の魔法で勝ったんだ。だけど今は僕は負けるつもりはないよ。」
そういって二人は再度ぶつかり合う。次に仕掛けたのはシーザの方だった。特殊な歩き方を用いて一瞬で相手との距離を詰める。それに不意を突かれたのかゼロスは驚きを隠せない。そこに足払いをシーザは掛ける。しかしすでに一度アラクネに転ばされてたためゼロスは足元に魔力を集中。転ぶのを防いだ。
シーザは足払いに失敗し少し顔をゆがめる。
(チッ魔力を集中させやがったか。鉛でも蹴ったみたいだ。しばらくこっちの足は痺れて攻撃には使えないな。)
そう考えながらもシーザは次の一手を打つ。先ほどと同じように特殊な歩法を用いて相手の懐に飛び込みゼロスの顎をめがけて掌底を放つ。しかしその手を掴んで止めるゼロス。
(俺の狙いはここだ!)
その掴まれた手の肘にもう片方の手で突き上げる。
(食らいやがれ!)
掴み上げた手では抑えきれずゼロスの顎めがけ掌底が近づく。だがこれではゼロスはやられなかった。その掌底に頭突きをぶつけ有効打になるのを防いだのである。
「チッ!」
「不意打ちの類はアラクネから大分もらったから今日はもう引っかかるつもりはないよ。」
「俺もギルド長としては簡単に負けるわけには行かないんだ。だからさっさと当たって負けてくれや。」
「ヤダね。僕もそんな簡単に負けたくはないんだ。次はこっちから行くよ。」
そういうと体のバネを使い一足飛びでシーザに突貫するゼロス。勢いそのままに拳を突き出す。その突貫をシーザは躱し、痺れてない足で蹴りを入れようとする。
「そこだぁ!」
そういってゼロスは突貫した体制から体を全力で捻りシーザの顔面目掛けて蹴りを放つ。無理な体制からの攻撃に反応が遅れるシーザ。その結果。
「グッ!」
「ガ八ッ!」
結局二人の蹴りが同時に当たり、有効打一発の模擬戦は引き分けに終わった。
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どちらも有効打が入り互いに膝をつく体制で言葉を交わす。
「チッ引き分けか。」
「足がしびれてるだろうと読んで、いけると思ったけど、そこまでしびれてなかったか・・・。当てが外れたかな。」
「俺もあの体制で攻撃してくるなんて思わなかった。」
勝負の結果は引き分けで満足はいってないがシーザは満足気な顔をしている。
「少しは気分が晴れたかな?」
「ああ。少なくとも俺は強いとは思う。だがまだ上がいると思って鍛錬するさ。」
「そうかい。一つ聞いていいか?」
「なんだ?」
「なんで体術もそこまで使えるんだ?」
ゼロスはシーザの筋肉のつき方や手にある剣ダコから剣術使いとにらんでいた。なのに体術の勝負に乗ってきた。それで疑問が生じたのだ。
「剣は相棒だ。しかしそれがなきゃ戦えないなんてわけにはいかないからな。武器がなくても戦えるように体術もやっているだけだ。そういうお前こそなんで体術なんて使える?お前は見た感じ魔法使いに見える。なのに攻撃の払いを受けた時その手は鋼のように硬かった。正直見た目と合わない。」
まぁそこはスペックの問題なんだけど・・・
「それは特殊な筋力のつけ方をしているだけさ。だから見た目と筋力の強さが比例しないんだ。
「なるほどな。つまり無駄な筋肉や脂肪といったものがないわけか。」
あっ勝手に勘違いしてくれた。まぁそんな解釈でいいんだけどね。
「そういやまだ聞いてなかったな。お前よりもアラクネってやつの方が体術は上だったんだろ?それでさっき不意打ち同然の魔法で勝ったって言ったな。どんな魔法を使ったんだ?」
「あーそれね。部屋全体に自分の魔力で満たしていたって話はしただろ?それで中途半端に魔力と同化させて自分のいる位置を少し誤魔化したんだ。いわゆる蜃気楼みたいに。ぶっつけ本番でやったけどうまくいったよ。それで最後に僕の首を絞めて殺そうとしてたからね。勝てると思って油断したわけだ。」
「よくそんな状態で初めて使う手段を使おうと思ったな。」
「そうでもしなきゃ相手を崩せなかったんだよ。ホントアラクネってやつは化け物だったんだからさ。」
手加減つけてるとはいえ相手よりスペックは上なのにあそこまで押されることが異常なんだよ!
「まぁ聞いてる限り今回はギリギリ退けたって感じだな。」
「それに僕の魔法は次の時には逆に利用されそうだな。あいつら秘術使うのに魔力のコントロールが尋常ではないほど上手いんだよ。だから次はおんなじ手段は使えないだろうね。」
「そしたら俺たちは鍛えるしかない訳だな。少なくともお前の近くにいれば奴らから寄ってくるだろうしな。」
いやぁ!それは思い出したくなかった。
「それなんだよなぁ。僕のことを報告するって言って逃げたわけだし。依頼を放棄してまで。つまり何もしなくてもあいつら来るよねぇ。」
「ご愁傷さまだ。まぁ王国のギルドにいるうちは俺も戦ってやるから安心しろ。」
「ならしっかり鍛えて僕を守ってね。」
「気持ち悪いことを言うな。男を守るとか気持ちわりぃ。しかもお前は強いだろうが。」
そういって笑いあう二人。
「さてそろそろフロンたちのとこに戻ろうか。」
「そうだな。いつまでもここにいるわけにはいかないしな。」
「ただこれどうしようか・・・?」
「あ。さすがにやべぇなこれ。」
そう先ほどまで二人は身体強化を本気の模擬戦を行っていたのである。舗装されてた地面は踏み込みで抉れ土が見えている。
「とりあえずシーザ魔法で直せる?」
「俺は土を盛り上がらせたりとか戦闘に使うようにしか覚えていない。つまり。」
「つまり?」
「あとは頼んだぞ?ゼロス?」
ちょっ!待てよ!僕は補助しか使えないんだからどうにかしろよ!
「逃げんな!シーザ!」
シーザは全力で逃げ城の中に逃げようとする。しかし。
「随分と好き放題やってくれたようだなシーザ?」
「げ!デュラン!?」
ハハッ。シーザめ。僕から逃げるからそうなるんだ!ざまぁ見ろ!それにしても二人とも顔見知りみたいだけど一体どういう関係なんだろ?まぁいいからこの場はシーザに任せて僕も逃げないとね。
「シーザ!ここは君に任せた。ではさらばだ!」
「てめぇ待て!ゼロス!」
シーザ!僕は君の犠牲を忘れないよ!逃げ終わるくらいまでは!
そう考えながら別口の城の出入り口に向かいそこから城に入る。
「ふぅ。これで逃げ切れたかな?」
「ふむゼロス?一体どこに逃げ切れたというのかな?」
「げっ!エーヴェル!?」
そこには額に青筋を立てたエーヴェルが仁王立ちをしながら立っていた。
「あれだけ城の庭を荒らしておきながら片付けもせずに逃げるとは一体どういう了見だ?」
「それは・・・話の流れでシーザが体術で勝負しろということになって。」
「ふむ。そうか。なぜだろうな?デュランからはゼロスが吹っかけたと念話が来ているが?」
あの野郎!全部僕のせいにしやがった!自分が勝てる自信がないからって落ち込んでたのを励ましてやったのにすぐに僕に擦り付けやがった。こんなの元老院も真っ青だよ!
「そっそれは・・・。」
「これはシーザと一緒に説教が必要のようだな。」
「ヒィィ!」
その後シーザとゼロスはこっぴどく怒られた。ボロボロにした庭はフロン率いるエルフ達にお願いして元通りにしてもらった。
後に二人はこう思ったという。俺を(僕を)裏切ったあいつは許さない。と・・・




