月のない夜
ここはどこだろう?
真白はふと目を開け、あたりを見回した。
煌く星と、浮かぶ雲以外に何も見えない。
横たわる地面はふわふわとしていて、居心地のよいソファーのようだ。
あたし、どうしちゃったんだっけ?
必死で思い出そうとするのだが、何の記憶もない。
真白は立ち上がり、ふかふかする地面を当てもなく歩く。
「誰かー? 誰か居ませんかー?」
声にして叫ぶと、自分の声が木霊する。
一体ここはどこなのだろう?
建物も人影も何もない。
地面と星と雲があるのみ。
しばらく歩いていると喉が渇いた。
どこかに水を飲める場所はないかしら?
そう思った瞬間、目の前に綺麗な噴水が出現した。
「なに、これ……」
驚きながらも、清らかに水をたたえる噴水に手を伸ばす。
両手ですくっては飲み、を5回繰り返すと、ようやく喉の渇きが癒えた。
「はぁ……」
ため息を付くと、目の前の噴水が瞬時に消える。
「え、ちょっと、なに?」
真白は唖然として、噴水の合った場所を凝視した。
確かにさっきまで、ここにあったのに。
喉の渇きが癒えると、今度は自分一人であることに不安を覚える。
誰も居ないなんて変だ。
それに……
さっきから気になっていたことを口にする。
「夜なのに、月がないなんて……」
星々はきらびやかに瞬いているというのに、雲の影にも月らしいものはない。
「どういうこと?」
混乱する真白の前方に、道標の様なものが見えた。
「あそこへ行ってみよう」
彼女は跳びはねるように急いで道標へと急ぐ。
目にしたそれには、真白には読めない何かが書かれてあった。
二股にわかれた方向を指している。
何が何やらわからぬまま、彼女は右の道を進んだ。
と、いきなり地面が消え、空中へと落下する。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!」
落下しながら真白は、意識を失くした。
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「酷い現場だな」
年配のいかつい顔をした刑事が何かを見て呟く。
そこはとある地下道の中だった。
無残にも喉を掻き切られた女性の遺体が横たわっている。
周りは血の海で赤く染まっていた。
「なんでもストーカーがいたらしくて。被害届が出てましたので、犯人を捜索中です」
若い刑事がそう言うと、年配の男は横たわる真白に手を合わせた。
「まだ若いのに……」
ボソリと呟く声が地下道に響く。
「ちゃんと成仏できるように、絶対犯人を捕まえるからな」
年配の男はそう言って、真白にそっとブルーシートを被せた。