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運命の巡り合わせ

よろしくお願いします

「そうだな、これであがりかな」

 皇子は手に碁石を持って一つ手を打った。

「ああ、それは無いよぉ」

 綺羅は叫んだが、皇子はマッタはなしと言った。

「五歳のいたいけな少女相手に手加減なしって酷くない?」

 綺羅は怒ったように言ったが皇子は聞く耳持たなかった。

「もう良いもん。紅葉」

 綺羅はそう言うと部屋付きの女房を呼んだ。

「どうなさいました?」

 紅葉はすぐに出てきて綺羅に聞いた。

「玻璃、今度は紅葉も仲間に入れるわ。紅葉、手伝ってよね。今度こそ勝つもん」

 綺羅はとうとう女房を味方につけてやろうというのだった。

「それはずるくないか?」

「手加減しない玻璃が悪いんだもん」

 皇子の言うことに拗ねたように言う綺羅は本当に負けず嫌いがそのまま顔に出ていた。

「じゃあ、一回だけね」

 そう言って始めたものの、やはり二人掛かりでも皇子にはかなわないのだった。

「……悔しい」

 縁側に出て悔しそうに頬を膨らませた綺羅は庭の木を眺めた。どの木も大きく、夏の今はちょうど良い木陰を作ってくれていた。

「そう拗ねなくても良いのに…」

「玻璃は黙ってて」

 皇子が綺羅の後ろに立って呆れたように言うと、綺羅は更に拗ねて怒った口調で皇子の言葉を遮った。

「姫様。冷やし水をどうぞ。玻璃様も」

 紅葉は苦笑して綺羅に水の入った茶碗を渡した。玻璃にも同じように渡す。

「…おいしい」

 仕方なく受け取って一口啜るとのどが渇いていたのか、一気に飲み干してしまった。

「あれだけ暴れれば、のども渇きます。少し休んだら、庭で散歩なさってはどうですか?」

 紅葉に言われ、綺羅は渋々頷いた。

「…解ったわ」

 綺羅はまだ機嫌悪くしていた。



 昼下がりの庭は風が吹くと木々や草花の匂いがした。

「気持ちのいい庭だね」

 木陰に立って皇子は言った。

「玻璃、良い所教えてあげるわ」

 そう言うと綺羅は庭の奥の方に皇子を案内した。

 そこは木々が多く立ち並び、その中にひときわ太くどっしりとした大木があった。

「翁」

 綺羅は木にそう語りかけた。

「この木はね、この家がここに立つ前から居るんだって。だから、翁って呼んでるの。寂しい時とか泣きたい時にここに来るのよ。私は人前では泣いてはいけないから…」

 綺羅はそう言うと翁と呼ぶ木に手を掛けた。

「翁、お友達を連れてきたの」

 綺羅は嬉しそうに語りかけた。

「…何か聞こえるの?」

 皇子は不思議そうに聞いた。陰陽師でもそんなことをしているのは見たことはない。

「うん。翁が良いって。こっち来て」

 綺羅はそう言うと木に登り始めた。

「綺羅?」

「大丈夫。翁が助けてくれるから、すぐに登れるよ」

 綺羅は手慣れた感じでするすると登って行く。

 とことん、姫らしくない綺羅をみてひとつ溜息をつくと皇子も登り始めた。

「なんだ、慣れてるのね」

 太い枝に座って皇子を迎えた綺羅はすぐに追いついたことに感心した。

「これくらいは時々してたから」

 綺羅の隣に腰をおろして、眼前に広がる景色に息をのんだ。

「この家は結構高台にあるから、都が一望できるのよ。行ったことはないけれど、人がたくさんいるのだろうなって思ったわ。ここから見てるとね、自分の小ささを凄くわかってしまうの。こんなに小さな私の小さな悲しみなんてこの世界では雨の一滴にもならないのだなって」

 家の敷地から一歩も出たことがないのは貴族の姫ならば当たり前だが、このように考える幼い姫が居るのだろうか。狭い世界から外の広い世界を思うなど…

「おかしいと思われるかもしれないけれど、私はたくさんの記憶を持っているの。今の私になる前までの記憶すべてをね。お爺様にこの珠を渡されて朧げだった記憶が少しずつ蘇ってきたわ」

 綺羅は懐から大切そうに手のひらに収まるくらいの瑠璃の珠を皇子に見せた。

「この珠はね対になる珠があるのよ。玻璃の珠。あなたと同じ名前ね」

 綺羅はくすりと笑って皇子を見た。

「…瑠璃、なのか?」

 皇子は綺羅の肩を強く掴んだ。

「う、うん。二つ名は瑠璃」

 綺羅はわけがわからずただ頷いていた。

「やっと見つけた」

 皇子は今の状況も忘れて綺羅に抱きついた。

「きゃあぁぁっ、危ないわよ!」

 さすがの綺羅も驚きを隠せなかった。いくら太い枝の上といっても狭い。

「ごっ、ごめん」

 皇子は綺羅の悲鳴に我を取り戻し、綺羅から離れた。

「俺も綺羅と同じものを持っているよ。俺は玻璃」

 皇子も懐から珠を取り出して言った。

「う、うそ……じゃ、ないよね?」

「こんな時に嘘を言ってどうするんだよ、瑠璃。ずっと探してたんだ。でも、なかなか手掛かりがつかめなくて、焦ってた。自由に動けるのは後一カ月くらいだったから…」

 もうこの世では見つからないと思っていた。自分の半身ともいえる珠の持ち主を捜しだせなければ、自分はこの世界を……

「他にもいるのか解らない。ただ、瑠璃、君だけは見つけたかった」

 前世の記憶がよみがえる。

 あたりに散乱する血の塊、()せ返るような瘴気と血の臭い。幾度となく勝敗を分けた世界を巻き込んだ戦いは自分達の敗北で幕を閉じようとしていた。魔が蔓延(はびこ)り光さえも途絶えようとしていたその時に奇跡の様な事が起こった。

 玻璃の珠と瑠璃の珠が同時に光り、魔を世界から追い払った。その代償に前世の身体は砂のように砕け散った。

「今回は自由な身体ではなく、政治に無関心ではいられない立場になってしまった。きっと君も同じだ。必ず嫁がなければならない。それが貴族の姫に課せられた義務だから」

 玻璃の言葉に素直にうなずいた。それは良く分かっていた。確かにこの家の主たちは自分に優しく自由にしてくれている。だが、嫁がなければならないと決まった時、はたして、自由をくれるかと思うと、そうはいかないと思う。

「それで、ものは相談なんだけど、私の妻にならないか?」

 玻璃の言いように一瞬身体が固まった。何と言った?

「そんなに固まらなくても良いだろ?言っておくけど、貴族の中でも私は選べる立場だからね。君を無理矢理嫁がせることも可能だから」

 意地悪い笑みを彼女に向けた。

「あの、何を言っているの?…あなたが私のお爺様よりも位が上なのは何となく解っていたけれど、お爺様よりも官位が上となると左右の大臣かもしくは…」

 思い当って口を閉ざした。噂で聞いた事がある。今の帝は年が若すぎてまだ帝の位を継げないと…ただ、もうすぐ元服の儀を行うらしいとも聞いた。

「君は年齢にそぐわない程の聡明さを持っているね。もちろん前世の記憶がある事がそうさせているのだろうけれど、その聡明さがこのままでは仇となってしまうかもしれない」

 玻璃は綺羅の手を取って言った。

「…どういう…?」

「綺羅姫、この世界はもうすぐ大変なことになる。次元の狭間を超えてこの世界を手に入れようとする者がここに来るだろう。この世界を守るかどうかは私達の意思だけれど私は君がいるこの世界を守りたいと思う。そのために力を貸してくれないか?」

 懇願するようなその表情が切羽詰まったような、後がない背水の陣を引いているようで、綺羅は見ていられなかった。

「…玻璃が私を必要としてくれているなら、付いて行くよ。きっと行かなかったら私が後悔する気がするもの」

 玻璃の手をそっと包むように握り返した。

 これで、やっとこの世界を守る意味ができた……

 玻璃は救われたような表情で綺羅を見つめたのだった。

ありがとうございました。

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