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空色縞瑪瑙Ⅱ  作者: 高崎菜優多
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第四話 海と空  広瀬海







第四話 海と空 広瀬 海






人を信じること

人を想うこと

人を愛すること


それは、人間にとって自然なことであることなのに、

私には自然じゃなくて。


私にはできない。

だからつらすぎて仕方がなくて。


私は、唯一の友達にすらそれをすることができなかった―――――。






学校をやめて、数ヶ月がたった。

学校にいけなくなったから、テストで補った単位もすべてがなくなってしまった、私は高校三年生の春に転校した。

学校の中から広瀬海という存在が消えて、私を嫌っていた演劇部の部長は今頃せいせいしているだろう。


進路はとりあえず決まった。あとは、高校を卒業するだけだ。


「・・・・・。」

「・・・・・。」

「・・・広瀬は、それでいいわけ?」


同じバイト先にいる、霜月冬樹にそう問われた。

たまたま都会でのバイト先で出会った同い年の高校生で、たまたま私のやめる前の高校で一番仲良しだった角館空を知ってる。

偶然って、すごい。


「角館って聞いたときは驚いた。あいつ、元気か?」

「最後に会ったときは元気だった。」

「最後に会ったのは?」

「さあ・・・?いつかな?」


私は、なんて酷い人間なのだろう。

どうして自分が世話を焼いて貰った人のことすらちゃんと覚えていないのだろう。


「角館は、他の奴とは違うぞ。ちゃんと繋がりを大切にしたほうがいい。・・・・俺は、別れてから知った。」

「別れてから?」

「俺、角館と中学ん時、付き合ってたんだぜ。」


霜月は、空を思い出しているようで、うっとりとしていた。

私は驚きの事実に目をぱちりとする。


「空がふった?」

「まさか。俺からだよ。けど、後悔してる。」


霜月はフッとため息をつく。

そして、空に対してだれもが抱く感情をさらりと口にした。


「あいつほど心が綺麗な人って、いんのかな?」


そう。

空の心は何時だって綺麗で。

人を大切にできて、優しくできて、強くて。

私は、空の優しさに甘えてしまった。

空が優しいから、許してくれると思った。


だから、私が裏切っても笑って許してくれるって勝手に解釈して。


私は、空の傍にいるのをやめた。




「広瀬は、角館によくして貰ったんだろ?」

「・・・うん。」

「お前は角館になんかしてやれた?」

「・・・ううん。」

「だよな。俺も。」


そんな会話をして気づく。

空がどれほど人を想い、手を差し延べてくれたから。

あの子に理由なんてきっとない。

目の前に苦しむ人がいたら、だれかれ構わずに助けるんだ。


「そんなお前にこれ、やるよ。」


霜月が、私に一冊の本をくれた。


「なに?これ?」

「詩集。角館が書いたんだって。知らねぇの?今、世間で話題沸騰中。」

「・・・え?」

「俺達がグダクダしてる間に、あいつは前に進みだしてるよ。」


私は、空が憎かった時があった。

それは、空はなんだっていつも私の一歩先にいることだ。

演劇部の演技も、歌も。全て。

私も詩や小説を書くのが好きだった。

私だってもっと多くの人に読んでもらいたいものだってたくさんある。

そのなかで、空はすでに私をまた越していったのだ。


「霜月」

「ん?」

「私はもう後戻りはできない。私はあの子にとって裏切られた人なんだから。」


再びなくなる、私のやる気と根性。

あぁ、またバイトなくなるな。


「もう、責められるのは慣れてる。別にいつ私が消えようが何しようが関係ない。」


私は私の都合がよければそれでいい。

そう思わないと、私はやっていけないんだ。


「責められるとか責められないとかは知らん。けどお前、そろそろ自分をもっと大事にしろよ。

そうゆうことを角館は言いたいんだよ、きっと。」


空の友達のひなたは、私が学校をやめると決めると否や、家に押しかけてきた。


「で、どうすんの?」


あの時、ひなたは私そう聞いた。


「進路は決まってるんだ。だからあとは高校を卒業するだけ。」

「別に、転校する必要なかったんじゃないの?」



ひなたは私にそう言った。

私は転校せずに高校を卒業するなんて、絶対に無理だと思っていた。

学校にはいかないし、連絡もしない。

勉強も追いつかない。

そんな私が卒業するにはテストで点を取るしかない。

テストで点をとっても追いつかないぐらい、私は出席の単位を落としてしまった。

私をずっと見守って、ずっと面倒を見てきたのが空だった。

だからこそ、ひなたはは私に言いたいことが山ほどあったのだ。


「進路って?」

「声優の専門学校に合格したの。高校卒業できてなくても、中卒から入れる学校なんだ。

だから、もう学校やめようと思って。」


プチン。そんな効果音ひなたからが聞こえた気がした。

そう言った瞬間に、ひなたの顔つきが変わったのがわかった。


「海さ、あんた甘え過ぎじゃない?」


やりたいようにやらせてくれる親に。

仕方ないって転校手続きしてくれる学校の先生に。

海のしてること、なんだって温かい目で、どんなに傷ついたって許してくれる空に。


空は海のことをずっと信じてた。学校に来てくれるって。

また一緒に色んなことができるって。

それをあんたはなんにもわかんないわけ?

なんにも伝わってないわけ?


「専門学校に行ったからってその仕事に就けるかなんてわからないのに、進路が決まってるから学校やめる?甘ったれたこと言わないでよ!!」


ひなたが私に言いたいことは、重々承知だった。


「いい?別に海のために言ってるんじゃないの。海が空の友達だから言ってるの!

今海が言ったこと、空がいつもみたいに許して笑ってくれると思う?」


私は返す言葉が見つからない。

一番お世話になったからこそ、私は空にあわす顔がないというのに。


突き刺ささる。

刺のように鋭い何かのようなものが、自分の心臓あたりに。


雨が降ったあの日。

私は現実を見ようとしなかった。


「明日、一緒に学校に行こうね。迎えに行くから。」


そうあの子がそう言った日、「あぁ、学校行かなくちゃ。」って思った。

制服も用意して、教科書も鞄に入れて。


次の日の準備は万全だったはずなのに


「来ないで。」


私はあの子を拒んだ。

特に意味なんてない。

無理だった。

何もしたくなくなった。

家にもいたくなかった。


死にたい。

消えたい。

死にたい。

消えたい。


そんなことばっかり言って、人に迷惑がかかってることぐらい自分でも知ってる。

私なんてこの世にいたって仕方ない。


そう思って部屋からでるのもやめた。



―――しかし、この行動が、どんどん自分の未来を壊していることに、私はなんら気づいてはいなかった。




「海!」

「なに、お母さん。」

「空ちゃん、急性胃炎になったんだって!大変だわ!」

「・・・・で?」

「・・・で、って、あんた友達でしょ!?いつも遊びにきてくれるじゃないの。」

「・・・・もう、いい。」


私があの子を拒んだ日から、あの子からのメールはばっつり切れた。

どうせ私は裏切り者だと思われてる。

だから別にどうでもいい。

誰がどうなろうと。


・・・・そうだよ。


わかってる。

自分が現実から逃げてることくらい。

本当は、すごく大切なあの子なのに。


「え!?角館が胃炎になった?」

「うん。らしい。お母さんが言ってた。ひなたちゃんからきいたんじゃない?」

「ひなたって、青柳ひなた?」

「うん。」

「あいつら、まだ一緒にいんのかよ。」


霜月は呆れている。

しかし、霜月は空の話をするたびうれしそうなのだ。


「好きなの?空ちゃんのこと。」

「まあ、な。」

「フッたのに?」

「いなくなってからわかることだってあんだよ。」


霜月は照れ臭そうに笑う。


「ヨリ戻せば。まだフリーかもよ。」

「どうだかな。」


私には、そんな明るい未来がない。

そんなふうにダラダラと時を過ごし、時間は過ぎていく。


何が違う?空と私は。

私は空よりも優れているはずだった。

同じ部活に入り、私のほうが中学校でも経験していて、私のほうが先輩で。


「海はすごいよね!なんでも出来ちゃうもん。」


そう言った空はすごく努力家で。でも私だって同じくらい努力してきたはずなのに。

いつの間にか、ぬかされてる気がした。


それから月日は経ち、私は通信の高校を無事に卒業。

そして、ずっと憧れていた声優の専門学校へと進んだ。

そんな中で、空は音楽大学の声楽科へとすすんだらしい。

もともとミュージカルや歌は、空は大好きだ。きっと、そっちのほうの進路にするのだろう。

空が声優のほうにくるわけ、ない。

もう誰かが私をぬかすとかないんだ。

知ってる人が、私のうらやましい人が、私の前に現れることもないんだ――――。


――――そう思っていたのに。


「空、ちゃん・・・・?」

「海・・・・。」


とある映画のナレーターのオーディションに、空がいた。

・・・それは、大学一年生の冬。

私は専門学校の一年生。


「なんで、空ちゃんがいるの・・・・?」

「大学にプロダクションの人が来て、受けてみないか、って。海も、夢に向かって頑張っているんだね」


空は、そう言って、自分のオーディションのプレートを服につけ、座った。

まただ。空が私の横にいて、いずれはぬかしていくかもしれない。


「どこのプロダクション?」

「えっと・・・プロダクションダンデライオン」


プロダクションダンデライオン、と言えば、声優やナレーターが多く所属している大手のプロダクションだ。


「スカウト?」

「そうだとおもう。でも、まだ契約してないんだ。」

「どうゆうこと?」

「このオーディションで決めるって。もしいい結果なら、正式に採用するっていわれたんだ。」


空はそう言ってにこりとした。

空は、いつもの裏表のない顔をする。


ひなたの言葉が脳裏に蘇る。


”専門学校に行ったからってその仕事に就けるかなんてわからないのに、進路が決まってるから学校やめる?

甘ったれたこと言わないでよ!!”


本当に、そうなってしまった。

人間に、いつチャンスが訪れるかなんて、わからない。

私は、このオーディションで私の生きる道をちゃんと空へと示さなければ、本当にただのダメ人間になってしまう。

あの時、後戻りができないと思いながら、空は私なんてみてないと思って油断した。

・・・この子とは、離れられない運命なのだろうか?


「・・・空ちゃんは、いつも私の前にいるんだね。」


私は、皮肉をたっぷりに言った。いらついていた。

私はどんなに頑張っても、なんにも認めては貰えないのに、空は自然なままで受け入れられていく。

だから、私は空が嫌い。

好きだけど、嫌い。嫌いになりたいのに、なんでこんなに空は私の近くにいるの?


私は空に背を向けた。

負けそうで、悔しくて、泣きそうになる。

もう、どうしたらいいのかわからない部分が多すぎて、私の歪んだ表情を見られたくなかった。

それでも、空の声ははっきりと聞こえた。


「私は、夢を叶えるよ」


強い意志を感じられるその言葉が心へとグサリと刺さった。

空は間違ったことなんて言ってないのに、空の言葉が、まるで悪人のように聞こえた。


私は、オーディションへと戻る。

オーディションには、二人とも落ちた。

しかし、ナレーターといえどもこれは有名な監督の映画。

演技も歌唱もオーディションがある。

流石、音大生といったところか。空は歌がすごく上手だった。


オーディションの後、空は複数の人に声をかけられていた。

プロダクションダンデライオンのプロデューサーもいた。

そしてどうなったか、私は知らない。

知らないし、知りたくもなかった。

きっと、プロダクションにスカウトされたに決まってる。

大手のレコード会社のから声をかけられたに決まってる。

いてもたってもいられなくて、私は会場を後にして、一人で喫茶店へと入った。


そして、そこにはたまたま霜月がいたのだった。


「あれ?広瀬じゃん。」

「・・・霜月!?なんで?」

「ここのコーヒー上手いからさ。今日オーディションの日だろ?」


霜月は私にそう言った。


「・・・空ちゃんに・・・会った・・・。」

「・・・・そうか。」

「なんで・・・かな。」

「どうした?」

「もう、あの子のことなんてどうでもいいはずなのに・・・・・っ!!」


カッコイイ悪者に、なってみせたかった。

自分の夢を叶えて、空なんて蹴散らせてやることばっかり考えていたのに。

もう空なんて関係ないって思ってるはずなのに。


「・・・悔しい・・・」


本当は、嬉しかったんだ。

あの雨の日からずっとしゃべってなかったから。

ずっと連絡もしていなかったから。

空が眩しくて、手にとどかなくなって、更に憧れと嫉妬を抱いて。


だから、今日会えたのが本当は嬉しくて。

普通に話してくれたことも嬉しくて。

空がいつも先に進んでるって言ったけれど、本当はそのオーディションだって対等で。


私達はまだ同じ道を歩いていたのに。

それと反対な行動をして、私は逃げ出した。


「広瀬も、角館のこと、好きなんだろ。」

「・・・・うん・・・。」

「角館も、お前が嫌いなわけじゃない。会ったときも普通だったんだろ。」

「・・・・・うん。」

「お前も普通にしてればいいさ。時間が解決してくれる、きっと。」


素直になれなくて、こんなにももどかしいのははじめてだ。

もう二度と、こんな気持ちにはなりたくない。






***






私と空は、夢の話をするのが嫌いじゃなかった。


「海は、将来どんな仕事につきたいの?」


あの子とは、よくそんな話をした。

未来には楽しいことがある。

だから、楽しい話をしようと私に持ち掛けてくれるし、将来の夢を話すのは私も嫌いじゃなかった。


「私は声優になりたいんだ。」


あの子は私の夢を聞いてくれた。

学校にあまり足を運んでいなかった私は色んな人からこの夢を否定された。

しかし、あの子だけは一度たりとも私の夢を馬鹿にしなかったのだ。

そして私はききかえす。


「空ちゃんは?」


すると、あの子はうーん、と考えて、にこりと笑った。


「私、将来なにになりたいのかわからないんだ。なりたいものがありすぎて。」


考えたわりにそんな答えを言われてしまったので、私は少しおもしろかった。


「なりたいものが知りたい。」


そう言うと、あの子は指をおりおり私に話し出す。


「ソプラノ歌手になりたいから音大いきたいな。

あと、舞台とか声優とかも興味あるし、小説も好きだから小説家かな。」


他にも学校の先生やカウンセラー、ホームヘルパーなど、あの子に似合う仕事がいっぱいあった。


「いいな、海は。私はどうしよう。」


最後にそんな話をしてから、もう長い月日がたつ。

そんなときに聞いた、あの子の進路の話は、私にとって衝撃的だった。


「空、音大受かったんだって。」

「空ね、出版社から本を出さないかって連絡きたらしいよ!」

「プロダクションからスカウトきたみたい。演奏会のMCがよかったからって。」


夢に迷っていたあの子に、大きな転機が訪れた。

そしてあの子は私よりも先に、私の夢に近づいてしまったのだ。

それもそのはずだった。

あの子はチャレンジャー。

それも、羨ましいくらい。

社交的で、明るくて、優しくて。


「へぇ・・・・そう・・・。」


私はその時興味のないフリをしてそう言った。






そして


静かに涙を流した








第四話 終わり

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