第二話 ひなたに咲く 青柳ひなた
私は生まれた時から、ものごころがついたときから、双子である宙人と、幼なじみで親友である空とずっと一緒にいた。
宙人は空が好き。私も空が好き。
空は私たちを好き嫌いなくいつも一緒にいてくれて、優しい笑顔で笑いかけてくれる。
私たち双子は、空の悲しい顔を見るのが本当に嫌で。
幸せな笑顔でいてほしいと、ずっと願ってきた。
泣き虫な空を知っているのは、私たち、双子だけで。
普段はどんなときも腹をたてることのない空も、私たちにはよく怒る。
しっかり者の宙人、優しい空、やんちゃな私。それが私たちの代名詞で。
私はいつも空を守っていた。
そう。今だって。
私も空と同じ学校に通って一緒に学生生活を送っているのだ。
「聞いてよ空!私ラクロス部の助っ人頼まれたのよ!?」
「いいじゃん。頑張って!」
運動が得意な私は、運動系の部活に助っ人を頼まれることが多い。
三歳下の弟と一緒で、私は部活に入るならバイトかゲームがしたい。
「助っ人どうしよう、私、ラクロスは初めてだしなぁ・・・」
「ラクロスって難しいそうだよね。なんか、走りながらスティック回してるし。」
「それは、ボールが取られないようにするためよ。」
「知ってんじゃない、ラクロス。」
「まぁね。ルールくらいは。」
それから、私が部活に入らないのにはもうひとつの理由がある。
それは、空と一緒いるためだ。
空と同じ部活に入ればいいと思う人だっているかもしれない。
しかし、空は演劇部なのだ。私の性分にはあわなすぎる。
「ひなたも部活に入りなよ!」
「やだ。続かないから。」
「料理部は?ひなた、料理得意だもん!」
「やだ。だっていつも同じものばっかりしか作ってなかったんだもの。つまんない。」
飽きやすい。
宙人には、頭もよくて要領もいいのに残念だね。
とか言われるが、自分は頭がいいとは思ってないし、めんどくさいものは嫌いだ。
しかし、そんな私も空の言葉を聞くとそれでよかったのだと感じる。
「でも、私が休みの日は、必ずひなたも休みだから、一緒にいる時間は多いよね。」
「ほめてんの?それ?」
「うん、嬉しい。」
「・・・・馬鹿。」
こうやって、素直に気持ちを言ってくれる空がいるから、私は一人ではないと安心できる。
小さな頃から一緒にいるっていうのも空と一緒にいる理由になる。
そして、私は空に絶対についていくときめた。
私は空のことを人間として凄く尊敬できると、私は幼いながらにずっと感じてきたからだ。
***
あれは、小学校の低学年の時だった。
私はそのとき既にやんちゃで。宙人と空と三人でいつも一緒にいた。
そのとき、私と宙人はうりふたつで。
私は髪は後ろが少し短めの、ボーイッシュなショートカットで。宙人は、普通に髪が短いのが伸びた、という小学生に有りがちな少し長めの髪だった。
大体の人は、私と宙人を間違えた。
小学校の低学年なんて、男女の体形は殆ど変わらない。
二人で並んでれば、背が高いほうが宙人、低いほうが私、なんて区別がつくけれど、単体で動いているときはどっちがどっちだかわかんないし、二人共いつも空と共にいるから、空と一緒いるほうが私、なんて区別もされないのだ。
「空ちゃん、あれ宙人君じゃない?」
「ううん、あれはひなただよ。」
「本当に?」
「うん。」
「呼んでみてよ。」
「いいよ。ひなたー!!」
空は、私と宙人を間違えるなんて一度もしなかった。
先生ですら区別のつかないときがあるのに、空には私と宙人を一目見てわかるのだ。
「なあに?空。」
「ううん、ひなたを見つけたから、呼んだだけ。ひなたも一緒に行こうよ。」
空はいつも平等に、優しく私たちをみてくれていた。
宙人のほうが賢くて、頼りになる、と大人がどんなに言ったって、私と宙人を比べるなんて絶対にしなかった。
「空はひなたのこと好きだよ。ひなたはだれよりも優しいし、空のことよくわかってくれてるもん。」
そんなふうに、いつも屈託のない言葉で、私を安心させてくれる。
だから、空をずっとまもっていたい。そう思った。
だから、私があるとき体調を崩して学校にいけなかった間、空がいじめられていると知ったとき、私はそいつらをぶっ飛ばしてやるってきめたんだ。
それは中学生のとき。
私は、内臓が悪くなり、三ヶ月の入院をすることになった。
空がお見舞いにくることは珍しかった。
私がお見舞いが嫌いなことを知っているからだ。
大丈夫?とか、早く元気になってね!とか、そんな言葉ははっきりいってめんどくさい。
本当はそんなこと、これっぽっちも思っていないくせに、なんて私はひねくれていた。
それを知っていた空が、私の病室に顔を出した。
「ひなた。」
「空じゃない。いらっしゃい。」
「うん。あ、ひなた、雑誌持ってきたよ。」
「ほんとに?ありがとう。」
空が来ることは、なんでか嫌じゃなかった。
空は絶対に、上辺だけの言葉は言わないし、私が変に心配されるのが嫌だと知っているからだ。
空は、私のベッドの横に椅子を置き、座る。
その時、私は気づいた。空の腕には包帯がまかれていた。
「腕、どうしたの?」
「ちょっと、ぶつけちゃって。痣になっちゃって。湿布はってるんだ。」
そう言った空は、苦笑いする。
私は直感で、その怪我の理由は嘘じゃないかと思った。
空がそんなヘマをするわけがない。
ちょっとぶつける、なんて場所もないはずだ。
運動部じゃないから転ばないし、何かにぶつかるなんてあるわけがない。
「へぇ。どこでぶつけたの?」
「舞台の大道具つくってたら・・・」
「そう・・・。」
嘘だな、って思ったけれど、何も言わなかった。
もし空になにかあれば、宙人が教えてくれるだろうし、空は、本当に自分でどうにかできなくなるまでは、弱音を吐く子ではないからだ。
私達は、たわいもない話をして、その日は別れた。
それからその日のしばらくしたあと、宙人が息をきらして病室へと入ってきたのだった。
「・・・ひなたっ・・・!」
「あ、宙人。もう少し早く来てれば空がいたのに。」
「やっぱり!」
宙人は眉間にシワをよせて私に言う。
「今日、早退していったから、どこに行ったのかと思って!
家には帰ってきてないっていうし、学校にはいないし、図書館にもいなくて、ずっと探してたんだ。」
宙人は、はぁ、はぁ、と呼吸を整えてから、私のベッドの横の椅子に座る。
「ねぇ、空が今日何か言ってなかった?」
「ううん、今日、学校で何かあったの?」
「それが、わからないんだ。」
「え?」
「でも、いつも警戒するような目で、空のクラスの人達は俺をみてる。」
「・・・たぶん宙人には隠したいのよ。空に何かあったら、絶対に私たちが助けることを知っているから。」
私は空の怪我が嘘だと確信した。
あれは空が自分でぶつけたものじゃない。
空が学校を早退するなんて有り得ない。
「宙人、調べてみてよ。あんた得意でしょ?そうゆうの。」
「まあね。」
「それに、空のこと大好きだもんね。」
「そうゆうことは、言わなくていい。」
「わざと。」
「酷いね。」
「空だって宙人のこと好きよ?」
「好きの意味が違うよ。俺のことは幼なじみだから好きなんだよ。」
宙人は、そう言って淋しそうに微笑んだ。
確かに、空は宙人のことは好きかも知れない。
でも、空は恋愛感情じゃないかもしれない。
・・・・双子だし、ずっと一緒にいた身としては、切なくなった。
「任せるね、宙人。」
「うん。」
「私達のこと、空はよくわかっているもの。」
宙人は、「じゃあ、またね」と言って病室をでて行った。
私は、なぜだか泣きたくなった。
空が私に会いに来たこと。
本当は早退してきたこと。
腕の包帯のこと。
本当のことが知ることができない悔しさと、空のことを守ることができないもどかしさ。
私が入院をしていなかったら、真っ先に私が助けるのに。
「早く、治したい・・・・早く空のところに行きたいよ・・・・!!」
涙が出た。
しばらく流したことのなかったものが、私の頬を伝う。
早く、早く助けたい。
太陽のしたに輝く花のような、空の笑顔が見たい。
それから二日後。
宙人が病室に駆け込んできた。
「ひなた!」
「宙人、どうしたの?」
「明日、病院を抜け出そう。」
宙人があわてて病室に来たと思えば、その一言。
「き、急にどうしたのよ。」
「空が、空が大変なんだ!!」
宙人はあのあと、滅多に話かけないクラスの女の子たちに話かけたらしい。
宙人は、双子の私が言うのも嫌だが、世間でいうイケメンだ。しかし、空以外に全く興味を示さない。
女子とはあまり話さないために、クールなんだけど物言いは優しい、というへんなレッテルを張られた。
宙人も私も、空のためなら何だってできたような気がする。
だから、病院ぬけだす手立てもあっさりと決めて、私は隙をみて制服を着込み、学校へと向かった。
空は宙人のいうように、大変だった。
いたるところで聞く空の噂は、嫌なものばかり。
悪口、嫉妬、そんなくだらないもので、皆にないものを持っている空を嫉んでいるように見えた。
私は空に手を出した男子に跳び蹴りをくらわす。
最低!人を何だと思ってるのよ!そんな言葉が、頭を過ぎる。
そして、空は私をみて驚いている。
私はそんな空を見て、にこりと微笑む。空元気な空をみたくはない。
大好きな空の笑顔を守りたい。
だから、私はそいつらに言ってやった。
「暇なのねぇ。空は遊び道具じゃないわよ。」
そんなことしてる暇があったら、今から受験勉強でもしてればいいのよ。
学校は勉強するところなのよ。
そして、それから私は病院に強制送還され、宙人は自宅謹慎となった。
でも、私たちは何一つ後悔しなかった。
空の人間性に惹かれ、私は、ずっと一緒にいたいと願っていたから。
***
「今日は、演劇部あるの?」
「・・・うん。」
「どうしたのよ。いつもならもっと元気じゃない。」
「・・・・うん。」
「どうしたの?」
空はがっくりと肩を落とし、瞼も半分とじている。
そして、はぁ、と一息つくと言った。
「海が来ないの。だから、演劇部はぴりぴりしてる。部活が部活にならなくて、困ってる。」
「・・・うん。」
「部員はいるよ。でも、海は主演だもん。オーディションできめたんだよ。他の部員は主演をやりたい。
・・・でも海が来ないから、他の部員たちがなんであの子を主演にしたのかって、ずっと先生に訴えてる。」
空は、本当に仲間思いで、優しくて。
そんな空を私はずっと見守ってきた。
「大丈夫よ。海は来るよ。」
「・・・・うん。」
そうやって、私は励ますことしかできない。
だから、私は海のところへと向かったのだ。
海は、空と仲がいい。
二年生になり、同じクラスになってから、見てるこっちがびっくりするくらい、空と仲良くなった。
私はそんな空の紹介で、海と仲良くなった。
今日、空には内緒で海のところへと行く。海に話がしたいと思って。
空がいつも優しいこと。
ずっとずっと待っていること
。だれよりも海が好きなこと。
ピンポーン、とインターホンがならすと、すぐに海は出てきた。
前に一度海の家にあそびにきたことがあって、迷うことはなかった。
「ひなたちゃん、いらっしゃい。」
「・・・おじゃまします。」
そういったきり、お互いにしゃべらない。流れる沈黙を破ったのは海だった。
「ひなたちゃんは、なんで来たの?」
不思議そうに私に聞く。
「海に会いたかったから。」
私は、率直にそう言った。
「そうねぇ。昔の空に似てるわね。海って。」
「え・・・?」
「一時期ねぇ、学校を嫌がったわ。学校を早退して、病院で寝てる私のところにきたのよ。」
私は、海がいれてくれた紅茶をすする。
「私はね、双子の兄と一緒に空を虐めた奴らに跳び蹴りくらわしたわ。」
そう、空は海を守りたい。
海が見ていないところで、海の悪口を聞くのがいやなのだ。
だから、海の悪口をいう演劇部に顔を出すのが嫌だった。
「それで」
「たぶん、空も一緒なのよ。海のことを守りたいの。」
「・・・・うん。」
特に話すことなんてない。ただ海に会っておきたくて。
それを伝えたかっただけ。
「辛気臭いのはやめて、ゲームでもする?」
私がそう言うと、海の顔はぱっと明るくなった。
「よーしっ!何する?」
「サッカーのゲーム。新しく買ったの。」
「おっけー!やるぞー!」
海に伝わればいい。
伝わって欲しい。
空の大切な人が、空のそばから消えないように。
「じゃあ、また学校でね。」
「うん。ありがとう、ひなたちゃん。」
海はふんわりと笑った。
綺麗な笑顔だった。
顔立ちは整っているし、目もぱっちりで、空が海のことが好きな理由がわかる。
こんななも素敵な海の笑顔をみたら、空が守りたいのも理解ができた。
家に着き、真っ先に部屋のベッドに寝転ぶ。
携帯を開き、メールをチェックする。
そして携帯をしまい、枕に頭を埋める。
「ひなた、おかえり。遅かったね、今日。」
宙人が部屋へと入ってきた。
宙人はいつも落ち着いている。
私とは違い、うるさくはない。
そんな宙人と、大喧嘩することなんてあまりない。
いつも宙人は、私の悩みを聞いては答え、私は大体泣き崩れる。
「ひなた。」
「宙人・・・。」
「今日のデザート、ひなたの好きな葡萄だって。よかったね。」
「・・・・うん。」
「嬉しくないのかい?」
「・・・・ううん。」
「なにか悲しいことがあったの?」
「・・・・ううん。」
「違うの?」
「・・・・ううん。」
「ひなた、俺にも分けて。ひなたの苦しいこと、悲しいこと、ずっと一緒にわけてきたでしょ?
双子なんだよ、俺達。」
宙人は私の頭を撫でた。
どちらがお兄さんか、どちらがお姉さんなのかなんて、私たちには関係なかった。
どちらが悩めば、どちらかがお兄さんでありお姉さんである。
私は寝転んだ体を起こしてベッドに座る。
「人の気持ちって、どうすれば伝わるの?」
「人の気持ち・・・?難しい質問だね、今日は。」
宙人は、私の隣に座った。
「人の気持ち、か。」
「うん。」
「俺は、伝える人にもよると思うよ。」
「伝える人?」
「伝わるか伝わらないかなんて、人によって違う。そうでしょ?」
「・・・・うん。」
「例えば、ひなた。ひなたは言葉と行動で示してくれる。
ひなたはサバサバしてるから、納得できやすいことのほうが多いんだ。」
「・・・うん?」
「でも、空だったら?」
「空だったら?」
「空は優しい。空の気持ちがわかっていながら、皆空に甘えてしまう。
我が儘を言ったって、空なら許してくれると思って。
それが、伝わってないと思っちゃうんだよね。ひなたと空で例えると。」
二人の性格は正反対だからね。と付け加えて、宙人はそういった。
私はやはり見守っているのが一番いい気がした。
空がしていることはけしてまちがってなんかいない。
誰よりも思いやりがあるからこそ、空は海を待つことができるのだ。
「宙人」
「なんだい?」
「宙人はいつか、空に気持ちを伝えるの?」
「・・・・そうだね、いつかは、きっと。」
宙人は私を見て、にこりと微笑む。
そうして私達は、いつだって悲しみも苦しみも分けていくのだ。
「空に会いたいな。」
「そうだよね。宙人、中学卒業してからしばらく会ってないもんね。」
「二人が家を出るのが早過ぎるんだよ。」
「どうせ私はおばかな私立高校しか入れないわよ。宙人とは違って!」
私達は笑いあう。
もう少し、空も海も見守っていてあげよう。
「そうだ、ご飯食べよ。宙人、今日のデザートは葡萄なんでしょ。」
「うん。」
「宙人はご飯食べたの?」
「ううん、まだ。ひなたが帰ってくるの待ってた。」
「え!?ごめん、宙人!」
「いいよ。早く行こう。今日はオムライスだよ。」
「うん。」
私はそういった宙人に手を引かれ、ともにリビングへと向かう。
そしてそのあとは、私も宙人も笑顔だった。
第二話 終わり




