噛む
君の腕を噛むと、やや左上の歯が内側にずれている僕の歯形が
そこに残った。
何故、噛むのか僕にもよくわからない。
ただ腕や、肩や、首筋を噛む。
孤独なんて言葉があるが今ひとつ理解できない。
大勢でいるよりも、一人でいる事が好きなんだ。
でも、君が見ていてくれてないと、なんだか気持ちがモヤモヤとする。
いつも側にいなくてもいいけれど、見ていてくれてないと
僕はきっと消えてしまう。
これが孤独だというのなら、きっとそういう事だろう。
「痛いよ。」
君は嫌がるでもなく、どちらかというと噛まれているのが
嬉しそうに、腕を差し出したまま言う。
そんな君の首を、僕はちょっと絞めたくなって首筋に両手をあてがう。
少しずつ、少しずつ力を入れていっても、君は何を言うでもなく
優しい微笑みを浮かべていた。
「殺しちゃうかも。」
「いいよ。」
そんな事、出来やしないけど。
僕が君じゃないように、君も僕じゃない。
君の事が好きだけど、そしてきっと君も僕が好きなんだろうけど、決して解り合えやしない。
だって二人は他人だから。
この皮膚を一枚破って、グチャグチャに混ざり合えば、ちょっとは安心出来るかもなんて、
そんな事考えてた。
噛みちぎって、食べてしまえば不安が治まるかもなんて
そんな事考えてた。
汗ばむ君を、砕いてしまおうと思いっきり抱きしめても、混ざり合えない。
幾度肌を重ねても、僕は僕以外を理解できやしない。
いや、自分自身を理解出来ているのかも甚だ怪しいものなんだけど。
君がいなけりゃこんな不安も無かっただろうけど、君がいたから幸せを感じていたんだ。
自分の事しか考えて無くて、君にずいぶん酷い事もしたけど
好きだよ。
そんな事思われても困るとか
気持ち悪いとか却下
させてください。