表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/16

1-8 根

 そろりそろりと動く黒い群衆。それをジッとにらむ俺ら。緊迫した空気が張りつめる。

 それでは一夜で屋敷にたどり着けないぞ。俺がその手伝いをしてやる。

 大口を開けている俺の口、そこに気力を集中させる。えもいわれぬ音が咥内に響いたと思うと、口からぶっといビームが発射された。

 <水風船>は特に光に弱い。懐中電灯に照らされるだけで溶け出す。まして、こんな巨大ジェット花火みたいなもんを浴びたら、たまったもんじゃない。

 光を避けようと必死に逃げ惑う奴ら。それを容赦なく石の羽ではたく俺ら。翼に触れた奴は弾けて飛び散る。散った奴らのしぶきが、シアの白い顔を斑にする。俺の翼に、奴らの中身がヘドロのようにべったりへばりつく。

 キリがねぇ。

 俺はしたうちする。

 わかってる。翼や足を使っても、この数では全てを叩き潰すことは不可能だ。翼をかいくぐって屋敷の方へ行く奴らが目の端に映る。が、目の前に飛び込んで来る影の相手をするのでいっぱいだ。もう一振りかませて、後方を振り返る。俺らをすり抜けた奴らが、庭木の茂みの中に飛び込んで行くのを見て、俺はほくそ笑む。

 おおかた潰してやったから、後は任せるぜ。玉ねぎ野郎たち。






               *  *  *







 茂みの地下で待機。その辛抱がようやく報われる時が来た。同じ思いを、方々に潜む仲間も抱いていることだろう。

 何かが始まった。そしてたくさんの獲物の気配を感じる。こんな時ほど興奮が高まることはない。思わず舌なめずり。

(喰い過ぎに注意しろ)

 野嵜が忠告したのを思い出す。


(来るなら人海戦で来る、おそらく<水風船>を大量に遣すだろう)

(<水風船>?! 食べごたえがないじゃないか)

(あいつら中身はカスばっかりだぜ)

 我々がざわめく。

(いや、今回はちょっと違う)

 静寂が戻る。

(当たりが混ざっているのだ。しかも、とびきり上玉が)

 今度はどよめく我々に、野嵜は釘を刺すのを忘れなかった。

(たくさん押し寄せて来るが、そのなかでもうまそうなヤツだけ喰らえ。

 喰い過ぎに注意しろ)


 ガサガサと茂みをかき分ける音がした。その音はあちらでもこちらでもし、どんどん増える。そしてどんどん近づいて来る。

 我々は耳をそばだてる。

 ガサッ遂に手近な植木が音をたてた。しかし、こいつは食欲をそそらない。薄すぎる。薄いにも程がある。

 <水風船>の中身は、そこら辺に漂う幽かな邪気だ。それを液体に溶かし込み、オブラートのような膜で覆う。こうしてこの世に存在する第一条件・身体を手に入れたがいいが、もともと意志も持ず無気力に限りなく近い気、それが形を持っただけにすぎないので、何をするでもない。そこに造り主が、自分の念をちょっと溶かし込むだけで、操り人形が出来上がる。例えば「野嵜を殺せ」という邪念を入れれば、そいつは執拗に野嵜を追い続ける。野嵜を殺すまで、または己の身が滅するまで。

 今回は一度によほど大量の<水風船>を生み出したのだろう。本当に薄すぎる。本当に薄いにも程がある。

 ベチョリ、ベチョリ、、

 足音が頭上を通過する。頭といっても、我々は一頭身。頭から手足が生えているようなものだ。我々の特技は、食べること。何でも食べる。肉体を持たぬものでも、見えぬものでも。そして味わうことができる。念の強さが強いほど、旨く感じる。特に、濃い邪念ほど旨いものはない。

 お。噂をすれば、いい具合の奴が近づく気配・・・。生垣を騒がせながら、獲物が接近中。

 その音の方へまっしぐらに飛び付いた。






               *  *  *







(品がないねぇ)

 上空から見下ろしながら、思わず呟いてしまう。

 生垣の迷路に入り込んだ人影に、なりふりかまわずにむしゃぶりついているのは、スイカぐらいの玉ネギ。ぱっくり割れた口には、鮫のような歯がミッシリ並んでいる。食らいついた獲物は決して離さない。その玉ネギたちが、<水風船>を次から次に食い散らかしていく。

 あの調子なら、私たち飛行部隊は出る幕ないかも。せっかくの鋭いくちばしが無用の長物になりそう。あたりを見回すと、私と同じように手持ちぶさたに空にとどまっている飛行体。

 皆が見下ろしているのは、迷路のように入り組む生垣に形作られた、庭いっぱいの魔方陣だった。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ