1-7 石
門になだれ込み、勢いあまった第二陣が、先陣を踏み潰した石の体にぶち当たる。
腐り果てたトマトのように、そいつらは簡単に潰れる。
それもそのはず。
薄い皮一枚でできてる連中と、堅い意志・硬い石の体、心身ともにゴツイ俺らが勝負になるかってんだ。
見ろ、残りの奴らは己と相手の力量の差に愕然として、一歩も踏み込めずにいるじゃないか!
これでこそ、門の番人、獅子のシアだ!
吠えた俺の声が邸宅中にビリビリと響きわたる。
(シア、調子に乗るんじゃないよ!)
相棒のシンが黒だかりを睨んだまま、小言を云う。
(来るなら人海戦で来る、おそらく<水風船>を大量に遣すだろう。・・・野嵜が云ってたじゃないか。あいつらには感情がないんだよ)
(わかってるって)
どんな手を使ってでも野嵜を仕留めるのが奴らの狙い、ただひとつ。
今奴らは、俺たちをクリアするために電卓になっているんだ。それを迎え撃つ俺らの狙いは・・・
(来るよ!!)
ぞわり、と黒い塊が動き出す。
たぶんこの動きだと、二手に分かれる作戦に出るのだろう。
屋敷までの一直線コースを塞いでいる俺らを、なるべく避けるために。
そうはさせないぜ。
俺は吠えた。シンも吠える。
二つの遠吠えは共鳴して気体液体固体を振動させる。
さっき、『ミミハ』がやってのけたのと似たようなやつだ。
『ミミハ』は<気>を振動させる。野嵜の結界(今回は塀と門だな)は<気>で張られているからイチコロだ。
逆に<気>でないものを揺さぶることはできない。
俺らは揺さぶることができる。
吠え声の振動に耐え切れなくて、皮が裂けてる奴が続出。
どろどろと中身が地面に垂れ流れる。
ホントに皮の薄いやつらだぜ。
裂けずにズカズカ人ん家入って来るのは、まさしく面の皮が厚いヤツ。
そういう奴らもこれ以上の侵入はお断りだね。
威嚇をこめて吠え続ける。
吠え声に反応するのは相手だけではない。
俺たちもそうだ。
石の背中がピキピキいい始めた。
壊れるわけではない。変形するのだ。
バキッと背中を突き破って出てきたのは、一本の大きな角、
それがバキバキ音を立てて天に伸びる。
伸びながら展開する。
展開して板状になる。
最後のひと吼え、広がった石版でひと振り羽ばたく。
こうして俺の背に生えたのは、一枚のでっかい翼。
シンにも一枚、俺たち二匹で一対の翼。
そう、野嵜邸の門番は、世にも奇妙な怪鳥なのさ。