1-6 目
物凄い地響きとひどい揺れが、野嵜邸全土を震わせた。
部屋のシャンデリアが揺れる。
「ホントに始まっちゃったわね」
めみみが肩をすくめる。
「あちらさんも昨日の今日でよくやるわ」
野嵜が踊るシャンデリアを振り仰いで口ずさむ。
「фΨ、」
すると、シャンデリアの蝋燭の炎ひとつひとつに小さな目が開いて、キョロリと野嵜を見た。
「ひよこ・・・」
野嵜が呼ぶと、炎は皆こぼれるように野嵜の机の上に飛び降りて来て、お祭でよく見かけるスーパーボールのように賑やかに跳ね回った。
「фΨ。」
もう一度野嵜が呼ぶと、炎たちはびしっと整列した。それぞれに雛のような脚が生えている。
「お前たちを解放する日が来た。最後の仕事を頼む」
机の上の炎たちは驚愕している様子だ。次には嫌々と駄々をこねるように揺れ始めた。それを野嵜はさも関心のないかのように続ける。
「そんなに誰かに仕えるのが好きなら、新しい雇い主を見つければいい・・・фΨ!」
炎たちは、一喝されてまた整列する。
「いね」
彼らに向けられた最後の言葉を聞いて炎たちは机を飛び降り、てくてくと絨毯の上を歩いて部屋を出、それぞれ四方八方に散って廊下や階段の闇に消えた。
「いい子をお持ちね」
めみみが翼を開き、すうっと窓辺に飛んで来た。黒檀の窓枠に着地し、ガシガシと爪を立てて真っ暗になった外を覗き込む。しかしそれを野嵜が引き剥がす。
「そんなに窓に近づくと危険だ」
「でも見たいの。私は『めみみ』ですもの。見ること聞くことが仕事なの」
つぶらな瞳が野嵜を見返す。
「しょうがない、」
野嵜は息をつく。彼の内心困った時のしぐさだ。
「ではこれでどうだ」
めみみを膝の上に置き、その長くて細い尾の先を、ギュッと握る。
「あ、見える…」
植え込みの中から門を見るビジョン、遥か上空から門を見下ろすビジョン、木陰からめみみたちのいる屋敷を振り仰ぐビジョン・・・めみみの目の前に、様々な視点から見た外の様子が、いっぺんにチラつく。
「これ、あなたが使っている子たちの目でしょ」
野嵜は頷く。
「今、この敷地内に控えているのは全て、私とつながっている。
さっきの炎たちにしても、だ」
「あら、『契約』してるの?」
めみみの問いに、野嵜が頷く。
「あなたらしくないわね。
あなたの主流は『傀儡』でしょ?
魂あるモノを従わせる『契約』は、使者が100%自分の云うことを聞くわけじゃないから
戦闘には不向きだって、云ってなかった?」
「変わったんだよ」
「ふうん。
でも変わらないものもあるわ。・・・あなた、やっと昔の口調に戻ったわね」
めみみは野嵜を仰ぎ見る。
もはや外の視点に奪われて部屋の中が見えなくなっているが、気配で野嵜が微笑むのがわかった。
「君も、中身はそのままだ」
その言葉を聞いてめみみは満足げな顔で、前に向き直る。
「ねぇ、さっき『解放する』って云ってたけれど、それって『契約解除』のこと?」
「・・・それがどうかしたのかい?」
「どうして解除しちゃうのかなって思って」
野嵜は少し悲しそうな顔をしたが、明るい声で答えた。
「今日さえ乗り越えれば、必要ないからさ。
ほら、外を見てご覧」
云われて、めみみは野嵜の使いたちの視線を追う。
彼らが注視しているのは、いきなり降ってきた巨体に門前で怯む黒い集団、塀の上のはみみ、傍らに潜む相棒、そして灯りのついた窓である。
「それにしても視点がバラバラで見にくいわ。どれかひとつに絞れる?」
「できるよ。どれがいい?」
めみみは即答、
「一番迫力があるやつ」
野嵜は「好きだなあ〜」と苦笑い。
「じゃあ、門のところにいる、シアたちだな」
「あの2対の石像のこと? あれも使者だったの」
「そう。さあ、目を閉じて・・・」
野嵜の言葉のままに、めみみは従う。
やがて頭の中に、最前線で奮闘する猛者の視野と思考が流れ込んできた。
++ あとがき ++
こんにちは、瑛彪・玄彪です。
数多ある小説の中から「SPhinX」を見つけ、
さらに読んでくださって、誠にありがとう
ございますm(_&_)m
読者がいらっしゃると、
やはり制作意欲が向上しますっ↑↑
これからもよろしくお願いします。
今回はあとがきを付けてみました。
次回以降も余裕がある時には、
あとがきが付きます。
もっと時間がある時には、
以前の作品にも付けていきます。
(いつになるやら^^)