1-14 羽
ばばばばっ
黒い部屋に噴き出す、白い噴水。
落ちためみみから羽根が噴き出しているのだ。小さな体なのに、どこにそんな量の羽毛があるのだろうか。部屋いっぱいに羽根が舞う。
羽根吹雪。
汚れた絨毯、割れた窓の破片、溶けた机、異形の生き物、全てを白く覆う。白い噴水の勢いが徐々に衰えて、やがて止まった。
「後はお前だけだ」
人面が嘲笑う。
「勘違いするな、なめるとこいつは怒るぞ」
野嵜も嘲笑う。
宙に舞う最後の羽根が、床に積もる羽根の上に着いた。
その瞬間、総ての羽根がネズミに変わり、出口に向かって突進した。
「?!」
突然の事態に、人面が怯んだ。その隙を突いて、野嵜が印を結ぶ。
「д!!」
放電が起こったように、空が鳴る。
ゾディの身体から、人面の首がふっ飛んだ。
たくさん分裂しためみみたちが廊下に向かう。
しかしそこに廊下はなく、闇が広がっている。かまわずめみみたちは闇の中へ走りこむ。
「火よ来!」
一匹のめみみが闇に向かって呼ぶ。遥か向こうに小さな火が見えた、と思うとすごい速度でこちらに向かってくる。それは『火の子』の一匹だった。
「『火の子』のオリジナルはあなたね」
走りながらめみみが炎に問う。
「そうさ、あっしがфΨ●でっさ」
「不用意に自分の真名を名乗らないの」
キッとめみみが睨む。
「真名を知られた相手には絶対服従しなければならないこと、知らないの? そうやって真名を明かすから、他人に利用されるのよ」
「いえ、あっしらは野嵜以外に明かしておりませんで。そう簡単に自分の命を差し出すようなことはしませんて。少なくとも、あっしはお嬢さんを見込んで名乗ったんで」
「どこを見込んだの? なぜ見込んだの」
炎はキョロリと目を回して、めみみを見た。
「あっしらは待ってたんですよ、お嬢さん。野嵜自身が強く推す、野嵜の真の理解者であるかたを」
「それって、私のこと?」
「あいさ」
炎は速度を緩めず、後ろ向きに走り始めた。
「この屋敷は、野嵜がお嬢さんを待つ秘密の場所。野嵜は、どうしてもお嬢さんと話したかった。伝えたいことがあった。そのための場所をこさえたんでっさ。しかし、侵入者があった場合、ただちに破棄すべき場所。明日にはここはなくなっていたんでっさ」
炎は、またキョロリと目を回して、めみみを見た。これが、相手の反応に興味がある時のしぐさらしい。
話を聞いためみみは、複雑な表情をしていた。
「そう、ギリギリ間に合ってよかった」
彼方に一筋の光が見える。
「出口でっさ」
炎の雛が、ネズミの集団の先頭に出る。
走る速度が上がる。
光は見る間に近づく。近づくにつれて、それが炎の雛が鏡に映ったものであることがわかる。
「<うつし世>に戻りますってか」
めみみの一匹が呟く。
「思いっきりぶち当たってくださって大丈夫でっさ」
ひょいっと炎が飛んで、鏡の炎と合体した。
ガラスがはじける音が庭に甲高く響く。それと共に、屋敷の玄関の窓から、ネズミが滝のように流れ落ちる。その数は軽く4桁を越している。
「大きさ、ギリギリでしたね。もうあそこの通路は使えなくなりました」
先頭の炎がほっとした口調でめみみに云う。
「屋敷が・・・」
ちらりと後ろを見ためみみがもらす。
屋敷が真っ赤な炎に包まれている。
「あい、あっしのコピーの最後の仕事。屋敷を炎で浄化することでっさ」
振り返らずに炎が応える。
「野嵜が燃やしたいものを燃やす、それは、あっしらにしかできない仕事で」
「燃やしたいものって・・・」
「これは、私にしか云われていませんが、」
炎はキョロリと目を回して、めみみを見た。
「一番は野嵜の身体、でっさ」
ズルリと火ょうがゾディの下から這い出てきた。
「下がっていなさい」
ず・・・と野嵜がゾディに歩み寄る。
「何を・・・!」
「д!」
再び野嵜が喝を入れる。今度は火ょうが、部屋の隅まで弾き飛ばされた。
「下がっていなさい」
「ゾディをどうする気ですか」
野嵜は答えない。答えず、動かないゾディに向かって、印を構える。先ほどと違う印である。
「ダメです・・・ダメです!」
火ょうの身体に、にじみ出るように炎が広がる。同じくして、部屋の隅からも炎がにじみ出してくる。こちらはすぐに燃え広がり部屋を炎で包み込んだが、火ょうの炎はじわじわと燻りながら燃え広がる。
「あなたは自身がなさっていることを、わかっているのですか? 許されると思っているのですか」
「いいかげん、敬語を使うのをやめたらどうだ、∽Å♯▼」
ピクッと、火ょうが強張る。
「それに、私の行為を、誰が許し、許さないのか? 私が何をしようとも、私の勝手だ」
轟々と部屋の炎は火の粉を散らしながら、荒れ狂う。その中で、ゾディ、野嵜、そして火ょうは静止したままだった。
「私が・・・私が許しませんとも、野嵜の片腕として」
フッと野嵜が鼻で笑う。そして印を構え直して、足元のゾディに向く。ゾディの腹は、まだ辛うじて上下している。それを冷ややかに見下ろす野嵜が口を開いたとたん、天井が崩れ、火ょうの目の前――野嵜とゾディの上に降った。その火の粉は、炎の使い手である火ょうをも焦がした。はっと事の重大さに気づく。
「ゾディっっ!!野嵜ぃっっ!!!」
渾身の力を振り縛って、火ょうが炎の塊の中に飛び込んだ。
こんにちは。瑛彪・玄彪です。
ようやくルビ機能の使い方を会得して、今日、全部分の読みにくそうな漢字にに仮名を振りました。
一回振り仮名をつけた漢字は、以下付けないことにしたのでご注意を。
参考にしてください。
はぁあ〜、やっとここまで来れた! ここまで読んでくださった皆さん、ありがとうございます。いよいよ次が一章ラストになります。
どうぞ。