9-MORNING GLOW
「どうした?」
ミナを下ろして尋ねると、俯いたまま口を開く。
「伯爵、わたくしは伯爵を愛しています。心の底から」
「私もだ。ここから逃げ切れたら、永遠に二人で生きよう」
「はい。わたくしは、伯爵と運命を共に致します」
そう言ってミナが抱き着いてきた瞬間、胸に激痛が走った。
「ぐっ・・・ぁ・・・ミナ、なぜ・・・お前が・・・・・」
回した腕で、ミナは私とミナを、ジュリアスが手にしていた銀の剣で刺し貫いていた。
「伯爵、わたくしは・・・あなたを愛しています」
剣の刺さった箇所からパキンと石化が始まる。
「ミナ、私も愛している。なのに、何故・・・」
「伯爵、あなたを愛しています・・・・・でも、わたくしは――――――――――――」
――――――――――――――――人間です」
「伯爵、わたくしと一緒に、わたくしが人間である内に、死んでください」
朝日が昇る。
暁光と共に石化の進行は一気に加速し、ミナは砂塵となっていく。
「ミナ、消えるな・・・ミナ、ミナ!」
私一人を残して、ミナの「砂」は風に舞って消えた。呆然とミナの消えて行った空を見つめていると、ドカドカと背後から足音が聞こえた。
「マーレイ嬢をどこへやったんだ? 伯爵」
銃を構えながら、白髪でブラウンの瞳をした白人の初老の男が近づいてくる。
「お前が、ヘルシング教授か。私をここまで追い込むとは、大したものだ」
嘲笑するように笑って、胸に刺さった剣を抜く。
「彼女をどこへやったと聞いている」
「さあな」
返事と共に持っていた剣を教授に向かって投げつけるが、剣は躱されて虚空を切って壁に突き刺さり、それと同時にバン! と一つ音が響いて、腹に銀弾を撃ち込まれた。
「彼女まで殺したのか!」
「そう、かもしれないな」
ミナに刺された傷は、辛うじて心臓を逸れているものの、重症だ。銀の剣に斬られた傷も、銀弾による弾創も、修復してくれない。何よりも、今は時期が迫っている。弱体化している今の私では、このままでは、私はこんな、たった5人の男達に倒されてしまう。
「くっくっくっ・・・ヘルシング教授。お前は、お前たちは本当に大したものだな。倒すという一念のみを持って戦う人間とは、かように素晴らしい物か。この私が逃げを選ぶなど初めてだ。全く持って屈辱だ。だが、嬉しい」
朝日と共に、無数の蝙蝠に姿を変えて、空に飛び立っていく。
「できる事なら1世紀前に会いたかったものだな。実に、楽しかった。君たちは、実にすばらしい。では、諸君、さようなら」