8-METEORITE
そして、ジュリアスの墓参りに出かけた日、墓の前でミナは心の中で呟いた。
【ジュリアス、私、伯爵と運命を共にしていいかしら・・・ジュリアス、赦してくれる?】
その言葉を聞いた瞬間、ジュリアスの墓石を蹴飛ばしてやりたい衝動に駆られた。あぁ、可笑しい。お前の女は私が大事にしてやる。お前はそこで指をくわえてみていろ。
ジュリアスの墓石に向かってほくそ笑んで、ミナの手を取り、墓地を後にした。
夜も更けた墓地からの帰り、ミナが私の屋敷に行きたいと言い出した。絶好の機会。今日、ミナが妻になる。
ソファに腰かけたミナはゆっくりとした口調で口を開いた。
「伯爵、わたくし、あの日からおかしいんです。昼間起きることができず、夜に目覚めご飯も喉を通りません。その代り、別のモノが欲しくて仕方がありません。怖くて知人に聞いてみたら、それはまるで吸血鬼だと言われましたわ。すべてはあの日から」
「伯爵、あなたは吸血鬼なのですか? わたくしも吸血鬼になったのですか?」
思いもよらない問いかけに、しばし絶句した。なぜだ? 何故今までミナのこの思考が聞こえてこなかった?
知人? その知人が何かしたのか? それとも、ミナがその意志で思考を遮断していた?
わからない。――――――だが、かえって好都合。
「そうだ。私は不老不死の吸血鬼。そしてミナ、君も」
泣くかと思ったが、ミナは苦しそうに顔を歪めただけだった。
「ミナ、私も君も老いることも死ぬ事もない。若く美しいまま、二人で永遠の時を生きよう。私はミナを愛している。これからもずっと傍にいる。ミナだけを愛し続ける。一緒に生きよう」
そう言うとミナは苦しそうな顔を振り切って、私に笑顔を向けた。
「伯爵、嬉しいですわ。わたくしもあなたを愛しています。永遠にあなたのお傍におりますわ」
ミナは微笑んで立ち上がると、私の前まで来てゆっくりと腕を開く。私も立ち上がり、ミナを抱きしめると、その瞬間窓ガラスが割れ、背中に激痛が走った。
「ぐっ・・・」
背中を抑えてその場に座り込むと、玄関からドカドカと足音が聞こえた。私は痛みをこらえ、ミナを連れて上階へ逃げる。
なんだ、これは。どういうことだ。ヴァンパイアハンターか? なぜ、私のことが知れた?
寝室に逃げ込むと、下から話し声が聞こえた。
「逃げられたか!?」
「いえ、多分上階です」
「ヘルシング教授、血の跡が上まで続いています」
その声がした後、階段を上る音が聞こえる。ヘルシング教授・・・どこかで聞いた名前。確か、ジュリアスがミナに渡した手紙の宛先。
エイブラハム・ヴァン・ヘルシング教授! そうか、なるほど。ヘルシング教授に求めた“助け”とは病気の事ではなかったのか。ジュリアスめ、やってくれたな。
足音は寝室の前まで近づいてくる。
「くそっ」
私はミナを抱えて、窓から飛んで逃げた。が、背中の傷が回復しない。痛みに耐えかね、地上に降り立ち、背中の傷口を抉る。そこから出てきたのは銀弾。
どうやら、ヘルシング教授と言うのはその道のプロらしいな。わざわざ、こんな弾を用意するとは。背中に埋まった銃弾を全て取り除き立ち上がると、後方にはもう追手が近づいていた。
人間の男が、たった5人。
銀弾を体に受けて、ミナを庇いながら必死に走って逃げた。
ウェストミンスター大聖堂の前に差し掛かったあたりで、急に足に激痛が走り体勢を崩して転倒した。見ると、右足を切り裂かれ、血が流れている。
痛みをこらえて立ち上がろうとすると、剣の切っ先が目の前に現れた。
「伯爵、俺はあなたを許しません。あなたを、殺します」
目の前には剣を突きつけたジュリアスが立っていた。
「は・・・ジュリアス、貴様死んでなかったのか・・・」
「いえ、死にましたよ。あなたのせいで死んで、あなたのせいで吸血鬼として蘇りました」
「フン、気付いていたのか」
「ええ。あなたがミナを見る目は、狼が羊を見るような眼をしていましたから」
「私とミナの人生を奪った代償は、その命で償っていただきます」
「貴様ごときに私が殺せるものか」
バスカヴィルを召喚し、ジュリアスに差し向けると、あっという間に飲み込まれる。が、ジュリアスはその剣でバスカヴィルを切り裂き、腹から出てきた。
「さっすが伯爵。本物の化け物ですね」
「フン、その剣は銀か? つまらない真似を」
吸血鬼の能力を発揮して、猛烈な斬撃を繰り出してくるジュリアス。これだけの短期間で、よくも能力を使いこなすものだ。さすがに私の血族なだけはある。
惜しい。殺すのには惜しい男だ。だが、殺さねばならない。
バスカヴィル3匹に同時攻撃をさせ、ホロコーストも差し向けると、バスカヴィルに剣を弾き飛ばされて、燃え盛る炎の中で悶えだした。
ジュリアスの窮地に他の4人が飛び出してくる。私はとっさにミナを抱え、大聖堂の屋根に飛び乗った。
ここならしばらくは追っては来れまい。しかし、致命的なミスを犯したことに気が付いた。もう少しで、日が昇る。
私は平気だが、このままではミナが消滅してしまう。どこかに、身を隠さなければ。そう思って屋根裏部屋から中に入ろうとすると、教授たちが階段を上がってくる音が聞こえた。
仕方なく、別の建物に移動しようとミナを抱えると、急に「待って!」と声がかかった。