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7-REFLECTION




 早速私は娼婦から血を取ってネズミに飲ませ、ジュリアスの屋敷に大量に放った。いいアイデアを思いつかせてくれた礼に、その娼婦は殺さずにおいた。



 数日後、まんまとジュリアスはペストに感染した。体力が衰えていたせいか病気の進行は著しく、あっという間に生死の境に足を踏み入れた。



「ミナ、ごめんよ。俺はもう助からない・・・」


 息も絶え絶えに謝るジュリアスの手を取って、ミナはイヤイヤと涙をこぼす。苦しそうに息をしながら、ジュリアスは枕の下から手紙を取り出した。


「ミナ、これを届けてくれないか。教授に、必ず、渡してくれ」

「ええ、ええ、わかったわ」

「俺は、悪魔に取り殺されるんだ。誰に言っても無理だけど、彼なら・・・」

「必ず届けるわ。だから、あなたも頑張って・・・」

「ミナ、君は悪魔に魅入られないで・・・教授の言う事をよく聞くんだ。彼なら君を助けてくれる。エイブラハム・ヴァン・ヘルシング教授なら」






 ジュリアスの墓の前で、大粒の涙を流し慟哭するミナの肩に優しく腕を回すと、ミナは私の胸に顔を預けて泣き出した。


 やっとこの日がやってきた。

 邪魔者は消えた。後は、ミナの心の隙に取り入るだけ。墓前だというのに、私は笑いをこらえるのに必死だった。


 葬儀の後、ミナを私の屋敷に呼んだ。

 枯れ果てたのか、ミナの目にもう涙は見えない。



「ミナ」



 優しく声をかけると、悲しそうに顔を歪ませて私に縋り付いてくる。



「伯爵、わたくしはこれからどうしたらいいのでしょう・・・ジュリアスのいない生活なんて考えられません・・・・・」

「ミナ、気をしっかり持って。大丈夫。私が傍にいますから」

「伯爵・・・」

「あなたは言った。自分が傍にいると言ってくれた。だから、私もずっとあなたの傍にいますよ。私はどこにもいきません。ずっと、傍にいます」

「伯爵・・・ありがとう、ございます」


 ぎゅっとミナを抱きしめると、ミナも私の背中に腕を回してきた。



 ミナを、抱いてしまいたい。



 だが、ジュリアスはまだ死んだばかりだ。まだ早い。



 あぁ、でも、もう我慢の限界だ。


 ミナの目を魔眼で見つめる。


「ミナ、私のものになれ」

「・・・はい」



 ミナを寝室に連れて行き、ベッドに横たえる。愛しい、愛しいミナ。ずっと手放したくない。この腕の中にいてほしい。

 ふと、思いついた。そうだ。永遠に私のものにする方法がある。


 ミナの首筋に顔をうずめて、ミナを吸血した。私の予想が正しければ、あぁ、ほら始まった。


 ミナは苦しそうに息をし始める。しばらく呻きながら身もだえをすると、すぐに収まった。ミナの口を開いてみると、吸血鬼の牙が生えていた。それを確かめて、私は自分の指を噛み切り、その血をミナに飲ませた。



 これで、私のモノだ。やっと、手に入った。私の、私だけの【死なない妻】。私は歓喜に震えて、その情を抑えることなく、ミナを抱いた。




「ん・・・伯爵・・・え?」


 行為を終えて、ミナの髪を撫でながら抱きしめていると、ミナが正気を取り戻した。


「伯爵・・・・・え? まさか・・・そんな・・・」



 状況を把握したミナは途端に狼狽えだして、泣きだした。



「わたくし、なんてことを・・・ジュリアスを、裏切るなんて・・・・・」


 自分の行動が信じられない様子のミナは、激しく動揺して悲嘆に暮れている。涙を流すミナを抱きしめると、ミナは震える声で呟いた。


「伯爵、どうして・・・・・」

「すまない。悲しむミナを見ていられなかった。少しの間だけでも、悲しみが薄れるなら、私はいくらでもミナの傍にいる。私はどこにもいかない。ずっとミナの傍にいる。ジュリアスの代わりでもいい。私を頼ってくれ。君を、愛してる」

「ごめんなさい・・・伯爵。あなたを利用するようなことをして、本当にごめんなさい」

「ミナ、泣くな。私が望んだことだ。きっとジュリアスもわかってくれる」

「ごめんなさい。わたくし、酷い女だわ・・・ごめんなさい」

「ミナは悪くない。悪いのは私だ。ジュリアスが死んで、泣いているミナを見ていられなくて・・・私は、ミナの支えになりたい。一時でもミナの悲しみが消えるのなら、私はそれでいい」

「伯爵・・・・・」



 ミナの思考が流れてくる。



【ジュリアスが死んだばかりなのに、なんということをしてしまったんだろう。伯爵の優しさに付け込んで、酷い事をしてしまった。ジュリアスも裏切って、きっと伯爵も傷つけたわ。でも、伯爵がこれほどまでにわたくしを思ってくれているなんて。彼となら、ジュリアスも許してくれるかもしれない。でも、わたくしはまだジュリアスを愛してる。私はどうしたら・・・】




 ミナの声を聴いて、抱きしめる腕により力を込める。


「ミナ、私はジュリアスを忘れて欲しいなんて思っていない。ただ、君を愛してる。それだけだ。私の事など考えなくていい。ただ、ミナに泣いてほしくない。幸せでいて欲しい。それだけだ」


 私の言葉を聞いたミナは、再びはらはらと涙をこぼし始めた。とりあえず、今日の所はこのくらいでいい。考える余裕を持たせてやった方が、こっちに都合のいい結論が出る。



「ミナ、君を困らせるようなことをしてすまなかった。今日はもう家に戻って休むといい。屋敷まで送らせてくれ」



 その日はミナを屋敷まで送って別れを告げた。やっと手に入った。完全に私の手に落ちるまで、後は時間の問題だ。




 それから、私は時折ミナの屋敷に足を運んだ。ただ、ミナと話をする、それだけの為に。極力、ミナへの愛情表現を避けて、ミナに触れないように、羊のふりをして。

 日に日に、ミナの迷いは大きくなっていく。




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