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6-EVENING




 しばらく経って、私の屋敷にジュリアスとミナを招いた。



「伯爵! お招きいただきありがとうございます! こっちがこの前話した婚約者のミナ・マーレイです」

「お初にお目に掛かります。ミナ・マーレイと申します」



 ジュリアスに促されて挨拶をしたミナは優しく微笑んだ。笑顔もエリザベートによく似ていて、一層彼女が欲しくなる。



「初めまして、アルカード・ドラクレスティと申します。先日はジュリアスにお世話になりまして、お礼を兼ねて招待させていただきました。それではご案内いたします。お手をどうぞ」

「まぁ、ありがとうございます」


 差し出した手に、彼女の白く細い手が添えられる。細くやわらかな小さな手。いっそ、このまま連れ去ってしまいたい。



 しばらく食事をしながら歓談をした。


「ミナのお父様はクリストファー・マーレイ男爵という方なんですが、植物学者でいらっしゃって、彼女も薔薇の品種改良を研究してるんですよ」

「それは素晴らしいですね。あなたの作った薔薇はさぞ美しいでしょう。よろしかったら今度、拝見させていただけますか?」

「本当ですか? 嬉しいです。是非、今度うちにもおいで下さい。伯爵と知己になれるなら父も喜びますわ」


 難なく彼女から「招待」を得ることができた。これでいつでも彼女の屋敷に侵入できる。




 しばらくして、バーに移りジュリアスに酒を飲ませた。ジュリアスは下戸だったようで、あっさり酔っぱらう。

 そんなジュリアスをミナは水を飲ませたり、背中をさすったり一生懸命介抱していた。



「ジュリアスは私が寝室に連れて行きますので、しばしお待ちください」


 かいがいしくジュリアスの世話をするミナなど見たくもない。邪魔者にはとっとと消えてもらうことにした。


 ジュリアスをベッドに寝かせると、うーん、と唸りながらベッドに潜り込む。このままジュリアスを殺して、彼女を奪おうかとも考えたが、今のままでは彼女は手に入らない。

 少し考えて、ジュリアスを吸血した。アルコールが混ざっていて、少し不味い。が、これで、しばらくジュリアスは目を覚まさない。おそらく体調不良くらいにはなっている。



「おやすみ、ジュリアス」


 そう呟いて寝室を後にした。



 バーに戻ると、ミナが一人でグラスを傾けていた。


「お待たせいたしました。ジュリアスはよく眠っていらっしゃいますよ」

「そうですか。ご迷惑おかけして申し訳ありません」

「とんでもございません。私がお酒を進めたのが悪かったんですから」

「うふふ。ジュリアスってば本当に下戸なんですのよ。強いお酒なんて匂いを嗅いだだけで酔う程ですわ」

「ははは。それは難儀ですね。でも少し見てみたい気もします」

「まぁ、伯爵ったら。そういえば、伯爵はご結婚は?」

「今は独身ですよ。妻には先立たれましたので」

「そうでしたの・・・」


 さっきまでの笑顔とは一転、彼女の表情は曇り、悲しそうに俯いた。私の為に悲しんでいるミナを見て、猛烈に愛しく思った。



「寂しくはございませんか?」


 心配そうに見上げる彼女が愛おしい。


「ええ、今はジュリアスと言う友人も出来ましたし。大丈夫ですよ」

「そうですか・・・」


 少しほっとした顔をしたミナはすぐにまた私に顔を向けてくる。



「伯爵、わたくしもおりますわよ」

「え?」

「わたくしも友として、伯爵のおそばにおりますわ」

「ありがとうございます。ミナ、あなたは優しいですね」

「いいえ。当然の事ですわ」


 ああ、ダメだ。先に私の心の方がさらわれてしまう。なんと心の美しい娘だ。この心の美しさこそがエリザベートの生まれ変わりの証だ。


 友などでは嫌だ。妻にしたい。どうしようもなく欲しい。愛しい。この娘から、愛されたい。



 あぁ、やはり、ならば、ジュリアスは殺してしまおう。





 翌日、ジュリアスを自宅へと送っていった。


「伯爵、すみません。なんだか体調がすぐれなくて・・・ご迷惑おかけします」

「ただの二日酔いでしょう。じきに良くなりますよ」




 この日から徐々に、ジュリアスの体調は悪化していくことになる。



 その日から、夜中に侵入してジュリアスを吸血し、昼間はミナと共に見舞いに訪れる。そんな日々が繰り返された。


 いつまでたっても体調の回復しないジュリアスにミナは心の底から心配して、あらゆる手を尽くして医者を呼び寄せる。


 このまま続けていれば、いずれはジュリアスは死ぬだろう。だが、それまでずっと、こんなミナの姿を見続けなければならない。



「ジュリアス・・・彼がいなくなってしまったら、わたくしは・・・」

「大丈夫。きっと良くなりますよ」


 はらはらと涙をこぼすミナを優しく抱きしめる。ジュリアスの為に涙を流す彼女を見るのが辛い。



 嫉妬が渦巻く。



 ジュリアスを襲った帰り、夜道で娼婦に声をかけられた。イライラしていて、憂さ晴らしのつもりで話に乗った。


 ミナの事を思い浮かべながら娼婦を抱くと、少しだけ満たされたような気分になったが、行為が終わると途端に虚無感に苛まれた。

 あぁ、空しい。


 余計に腹が立って、その場で娼婦を殺した。



 それからは、その繰り返し。ジュリアスを襲って、ミナの代わりに娼婦を抱いて、殺して、ジュリアスの見舞いに行く。


 そんな日々の中で、ある日、出会った娼婦に一筋の光明を見た。殺そうとした時、その娼婦が流した血から異臭が立ち込めた。その娼婦は、ペストに冒されていた。

 あぁ、この手があったか。そういえば、ヤノーシュはペストで死んだのだったな。懐かしい。やはり、怨敵はペストで死ぬのが似合いだ。



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