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4-TWILIGHT



 私は死んだ瞬間に自らの憎悪と絶望で魔を引き寄せ、吸血鬼の真祖となった。覚醒した際、憎悪と共に能力を暴走させた。



 正直、あまり記憶がない。真っ先に食ったのが弟だったことは覚えている。その場にいた私を裏切った貴族や帝国軍の兵士全員が、私の腹に収まった。






 とりあえず私は、山脈の中に隠された廃城に居を構えた。


 最初に能力を暴走させたせいで、自分がどういう者になったのか理解するのはそう難くはなかった。ただ、それに慣れるまでが大変だった。


 領民もやはり、敬虔なクリスチャンが多かった。死んだはずの私を見たら領民はどう思うだろうか。帰ってきてくれたと喜ぶか――――――――否、化け物と迫害されるだろう。

 幼少の頃の魔女裁判が脳裏に甦る。


 実際、私はまごうことなき化け物なのだから。迫害されても詮無きこと。

 神を信じている者ならば。



 人目に触れないように近隣から人を攫ってきては、血を貪った。あれほど、愛しく思っていた自国の民を私は殺しているのだ。私が生きるために、私に課せられた神の呪い。不死性も、血を欲する体も、呪い。


 私は嘆き悲しみながら、貪欲に血をあおった。




 その内、国内で噂が立ち始める。


「人が闇にまぎれてひっそりと消えてなくなる」

「元気だった人が急に体調を崩して死んでしまう」

「化け物がいる」

「悪魔がいる」


 恐怖は恐怖を呼び、領民たちは震えあがった。


 このままでは私の存在が知れてしまう。何か策を講じなければ。

 その頃、国の端で戦火があがった。



 そうだ。帝国の奴らを喰ってやろう。奴らは数だけは無駄に多い。公国の安寧も得られて、帝国を退くこともできる。私の飢えも満たされる。

 一石三鳥。


 その事に気づいてから、私は帝国の宿営地を襲うようになった。



 飢えを満たせるだけでなく、帝国に打撃を。夜な夜な死んでいく兵士に帝国軍は狼狽した。




 私は地獄の入り口。ここに入った者は、狼の前のウサギ。私に与えられた餌。畏れ、怯え、命乞いをしろ。処女の様に泣き喚き、抵抗しろ。


 恐怖と苦悶に歪んだ顔は、最高の調味料。




 帝国から送られてくる大量の餌により、私は相当の力をつけた。


 ある夜、帝国軍が夜襲を仕掛けようとしているのを見て、胸が高鳴った。もはや、私はただ血を吸うだけでは物足りなくなっていた。



 そうだ、戦え。私を戦いに導け。

 殺せ、殺させろ。

 私に血を、死を、殺戮を。帝国に大打撃を。




 帝国軍の前に立ちはだかり、一夜にして夜襲の大隊を全滅させた。



 素晴らしい、実に楽しい。この手に死を。この胸に戦火を。




 何千、何万の命を吸って、私は昼も活動できるようになった。太陽も、聖水も、十字架も、もはや私には敵ではない。


 しかし、その頃公国の国王に就いていた男は、あろうことか帝国に臣従してしまった。戦いが、終わってしまった。



 殺したい。殺し足りない。この力を、持てる力を存分に使いたい。



 私は殺戮と血を求めた。オスマンか、神聖ローマ帝国か迷ったが、悩んだ末神聖ローマ帝国へ向かった。向かう途中で、ハプスブルクを追い出し、オーストリアすらも掌握したマティアスがウィーンに侵攻していることを知った。当時、東欧においてハンガリーは一大国家を築き上げ、かつてない繁栄を遂げていた。マティアスの擁する軍は“黒軍”と呼ばれ、その規模と強大さには誰もが驚かされた。

 ステファンも幾度となくオスマン帝国と闘いを繰り広げ、モルダヴィアも正教会の国であったにも拘らず、イスラム教徒であるオスマン帝国からヨーロッパを守護する聖人として、ローマ教皇より「キリストの戦士」と讃えられる程になっていた。

 私もオスマンからヨーロッパを守護した英雄と呼ばれはしたが、二人には及ばないな、と友二人の敢闘を讃えた。

 オスマンを差し置いてローマ帝国を選んだのは、未踏の地だったということと、その戦争の規模。



 戦争だ。ここにはまだ戦争がある。

 私は嬉々として戦場に身を投じた。



 神聖ローマ帝国に身を置くようになってから、私は満たされた生活を送っていた。



 帝国内での権力は分裂し、権威と領地を巡る戦火は絶えず、農民や諸侯は反乱を起こし、さらにはオスマン帝国まで侵攻してくる。

 マティアスによるウィーン占拠から始まって、程なくルターと言う男が現れ、宗教革命が勃発し、カトリックとプロテスタントに分かれて各地で戦端が開かれた。


 宗教戦争は見ているだけでも実に楽しかった。同じ神を崇めているというのに、解釈の仕方が違ったと言うだけで戦っていた。

 異端審問、異教弾圧。実に愉快だった。快感を覚えるほどに。



 全く可笑しい。神聖でもローマでも帝国ですらないこの国。実に滑稽だ。



 私は戦争に紛れて行う殺戮を存分に楽しむことができた。


 時には騎士団を襲撃した。神に仕え、神の力を自負する騎士団を殺すのはとても爽快だった。神の力など、神の剣など、私の足元にも及ばない。嘲笑が、止まらない。



 私は、フランス革命が起きて、神聖ローマ帝国が解体され、戦争が終結するまでの約380年間、帝国領内を放浪して生活した。しかし、帝国が解体し近代国家へと変転していく中、私は退屈した。




 長い時間をかけて取り込んだ数百万の命によって、圧倒的な力と不死性を手に入れたが、そのいずれも持て余した。



 あまりにも暇で、自らを化け物であると曝け出し、貴族の城や教会を襲った。教会を襲撃したのは我ながら正解だった。


 エクソシストや騎士団が次々に送り込まれてきた。



 また、神と戦える。


 しかし、神の力とは、なんと脆く儚い物か。私に傷一つつける事もあたわず、塵は塵に還っていく。こいつらは神の力などではない。ただ、権威をかさに着ただけのただの貴族の戯れだ。所詮騎士団など、それだけの存在だ。こいつらに比べたら、侵略してきた兵士の方が余程面白い。



 折角新しい遊びを得ることができたのに、あまりにもあっけなさ過ぎてすぐに飽きてしまった。仕方なく、私は他の遊びを探すことにした。




 時代は産業革命の真っただ中。私は当時の最先進国であったイギリスへ向かった。



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