3-SUNSET
帝国軍を撃退し、丘の上で上る朝日を見つめていた。
すると、後方から馬蹄の音が響いた。
振り返った私の目には、薄笑いを浮かべた弟の姿が映った。
「兄上、あなたに神は降りては来ませんよ」
馬上から弟に斬り付けられ、意識を失った。
目を覚ますと、父が暗殺された修道院の前に、枷をつけて引き立てられていた。引き摺られる様に、断頭台へ上る。
断頭台には私の先に処刑されたであろう人間の血が、ぬらぬらと妖しく美しい輝きを放っていた。
「兄上、最後に何かおっしゃりたいことは?」
剣を構えた弟がニヤニヤ笑っている。
神よ、お前はいないのか。
私は、目的も果たせず、もう死んでしまうのか。
私は一体何のために戦ったのだ。
どれほど祈りをささげたか、どれほど信仰し戦ったか、神は見てはくれなかったのか。
遺志を継ぎ、国の為に尽力したいと思っていた。せっかく友の支援で王位を奪還することができたのに。
このザマは一体なんだ。
憎い
ラドゥが、帝国が、神が、あらゆるものが
憎い
もう神など信じない。神など存在しないのだ。神など死ねばいい。
三千世界万物全て、死に絶えればいい。
「皆・・・死ねばよい」
胸の内に渦巻く憎悪をぶちまける様に、そう言葉を発すると、断頭台の周りの血がざわめく。ズルズルと血が集まってきて、ラドゥに切り付けられた傷口にその血は吸い寄せられるように侵入していった。
「では、まずは兄上に死んでもらいましょう。あの世では神に会い見えるといいですね。さようなら、兄上。アーメン」
愉快そうに笑って、ラドゥは剣を振り降ろした。
顔を見せ始めた朝日に焼けた空。暁光に血のように赤く染め上げられた修道院の広場で、私は死んだ。