八百万の眠り
秋に、日が短くなるにつれて、八百万の神々の多くも、
次第に、あくびをし始めます。
ある神が、あくびをすると、他の神に、あくびがうつっていきます。
その数の多さに、あくびの神も大忙しです。
もちろん、冬に輝く神もいるけれど、
春や夏の、
無数の生命の輝きの中で、生き生きと輝く神々の多さは
比べものになりません。
でも、神々にもお休みが必要です。
生命ある種が大地の下で眠り、力を蓄えるように
冬を迎えると神々の多くは、冬眠をするのです。
秋のうちから少しずつ準備を進めて、冬の始めには支度が整います。
枕や布団を何にするかとか、途中で起きた際のご飯の用意とか、
寝付くまでの遊び道具とか。
葉っぱや綿毛を寝床にする神もいれば、
湯気や、きれいなすべすべの石、水滴や、冬眠する大小の生物達を
布団にする神もいます。
寝床の場所も様々で、木の皮の裏、土の奥深くカンラン岩の中、
山の頂の穴の中、いきもの達の巣の中や毛皮の間、
いきもの達の体の中(神が入った所は健康に、元気になります)、
もちろん人が作った神社や神棚の中にも。
風の寒さに皆、ブルッ、ブルルッと身体を震わせます。
鼻水を啜り、寝床の中に潜り込みます。
空の上、山の中、土の下、海の中、万の場所で言い交わします
「おやすみ」 「おやすみ」 「おやすみ」
雪が、ひらひら ひらひら 風に揺れながら降ってきます。
神々を起こさないように、雪の神は声を出さずに笑顔と会釈を交わします。
世界の静かな光を浴びて、雪はきらきら輝きます
雪の夜が安心させる静けさであるのは、
本当は無音ではなく、耳をすませば八百万の神々の小さな小さな寝息や
小さな小さな生命の鼓動が、至る所から聞こえて来るからです
あの何かが動いた音は、神々の寝返りの音かもしれません
長い長い神々の冬眠と共に、夏の騒乱が嘘のように、自然もゆっくり流れます
川の水を凍らせて、春まで時間を止めてしまうこともあります
神々も夢を見ます
何千年前の赤ん坊の頃の夢だったり
何百年前のお祭りの夢だったり
つい最近の美味しいお供え物の夢だったりします
夢の神も汗水垂らして指揮者のように多くの夢の交響楽を奏でます
八百万の神々の冬眠の物寂しさに
世界が耐えられなくなった頃
風の匂いが春を思い出させます
神々は、大きな伸びをして
何度か、あくびもして
ゆっくりと目を覚まします
「おはよう」 「おはよう」 「おはよう」
神々の身体は生命できらきらと、自然の中で輝きます
生命に輝く八百万の神々が動き出して、
さあ、春の始まりです




