あるいは車輪の下に
ゴトゴト……と揺れる車体。
微妙に薄暗い、薄く黄色がかった蛍光灯。
カビ臭い緑のシート。
『駆け込み乗車はご遠慮ください』とセリフの書かれたデフォルメされた猫のポスター。
シートに横並びで座る僕と、彼女。
「どうして!?」
延々と続く異常事態に僕はついにキレた。
「ここどこ!?今どの辺!?ほかの乗客はどこへ!?」
頭を抱えてガシガシと掻きむしる。
アカネさんの「土曜日は買い物に付き合って」の言葉に大いに期待を胸に膨らませた結果がこれだ。
土曜日の朝に地下鉄駅の出口前で集合し「待ちました?」「私も今来たところよ」なんて一時的に甘い夢を見せつけられた。
ウキウキと「では行きましょうか」なんて言って地下鉄に乗り……あれ?いつからこうなったんだっけ?
車両に乗った時はまだ人がいたはず。そのあと、二人分座席が空いたので、ドキドキしながら隣り合わせに座り、
「うわ、めっちゃいい匂い」とか、隣に座るアカネさんの体温にどぎまぎしていたら……くう!完全にアカネさんに惑わされている!
自分の浮足立った思考が憎い!!!
「……たくみ、電車の中ではお静かに。地下鉄でもそうよ」
アカネさんは右手の爪を熱心に見ながら気だるげに発言した。
「どうしてアカネさんはこの状況でそんなに落ち着いてるんですか!?明らかにおかしい状態じゃないですか!?」
僕とは対照的な態度のアカネさんはチラと暗い窓に目線をやった。
「……そういえば、地下鉄ってこんなに大きな窓が必要なのかしら?別に景色が見えるわけじゃないし、もっと小さい窓にしてもいいんじゃないかしら?」
「えっ?」
確かにそれは……窓が小さければ車両の剛性があがり……
いや、乗る側からすれば……乗っている間ならそうかもだけど、駅に着いたらホームにどのくらい人がいるかとか、ホーム側からなら車両内の人が見えるとか、地上の車両と設計を共通化することでコストも下がり、視界が確保できるので防犯や、エトセトラ、エトセトラ。
「フフフ、ちょっとは落ち着いた?」
アカネさんはいたずらっぽく笑った。
「ま、まあ多少は」
「異常事態が認識できるということは、私たちは通常なの。そうは思わない?」
「そういうものなんですか?」




