第八話
「セレナ......姉さん?」
その言葉が、零れた瞬間、
セレナの表情が、はっきりと変わった。
「......ミナト!!」
その声を聞いて、確信する。
ーーああ、やっぱり。
セレナは、俺の”姉さん”なんだ。
「俺......ごめん。まだ、全然覚えて無くて......」
そう言うと、セレナは小さく首を振った。
「いいの。少しでも思い出してくれたなら......それでいい」
そして、少し迷うように視線を伏せてから、続けた。
「ミナト。向こうに行けなくなったって、言ってたわよね?」
「......うん」
「......これを言ったら、また忘れちゃうかもしれないけど」
そう前置きして、
セレナは、静かに語り始めた。
――――――17年前
町のはずれにある、小さな民家で産声が上がった。
「エリシア!産まれたのか!」
「ええ、あなた。男の子ですって」
私が四歳のある日、
弟が、産まれた。
「ママー!わぁ、私と一緒!!」
そう言って、私は弟の髪を指さした。
「そうね。綺麗な銀髪」
弟を抱きながら、
母は父を見つめる。
「レオニス、名前は決まった?」
「もちろんだ」
父は、誇らしげに言った。
「名前は......ミナトだ」
「ミナト?珍しい名前ね」
「だろう?夢でよく行く”日本”って異国で呼ばれてる人がいてな。
響きが、どうしても気に入ったんだ」
「ミナト......私は好きよ」
「あぅー」
弟は、嬉しそうな声を上げた。
「この子も、気に入ったみたいね」
こうして私たち家族に、
”ミナト”という新しい家族が増えた。
――――――5年後
私は九歳。
ミナトは、五歳。
その日、私たちは父と一緒に、森へ山菜を採りに行った。
「ママ、行ってくるね!ミナト、行くよー!」
私は先に家の外へ飛び出す。
「あ、待ってよー」
追いかけて飛び出すミナトを、母は制止した。
「いい?ミナト。お姉ちゃんの言う事、ちゃんと聞くのよ」
「はーい!じゃあ行ってきまーす」
「レオニス。あの子たちを、よろしくね」
「ああ。行ってくるよ」
家の前で交わされる会話を聞きながら、
私は待ちきれず、足踏みしていた。
――――――――――
森では、父の”夢の話”を聞きながら、山菜を採った。
「パパの夢の中、いつも冒険だね」
「ほんとに、すごーい!」
目を輝かせて、
私とミナトは父を見つめる。
「そうだろう?”向こう”には空飛ぶ船があったりな、
見たこともない国が、たくさんあるんだ」
父の話に夢中になっているうちに、
気づけば夕日が森を染めていた。
「もう日が落ちる。
母さんが夕飯を用意して待ってるぞ。急いで戻ろう」
そう言った、その時だった。
背後の茂みが、ざわりと揺れた。
現れたのはーー魔物。
「セレナ!ミナト!俺の後ろに!」
私は慌ててミナトの手を引き、父の背後に隠れる。
次の瞬間、
父は、あっという間に魔物を倒していた。
「パパ、すごい!かっこいい!」
ミナトは目を輝かせて叫ぶ。
私も、そんな弟を見て笑った。
「ははは、そうだろう。さあ、急いで――」
本当に、一瞬の出来事だった。
「......パパ?」
父の身体が、
黒い何かに吞み込まれるようにして、消えていった。




