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夢の中で生きていた僕は、ある日目を覚まさなくなった  作者: 月白
第一章

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第七話

鐘の音が、頭の奥まで響いてくる。


回廊を駆け抜けるたび、靴音が石床に跳ね返った。

松明の炎が揺れ、壁に映る影が歪む。


ーーまだ朝だというのに、こんなに暗い。

それだけ歪みが広がっているということか?


「場所は?」


息を切らしながら、俺はセレナに問いかける。


「西区画。居住区に近いわ」


その一言で、背中に冷たいものが走った。

歪みが人の生活圏に近づくほど、被害は大きくなる。


曲がり角を抜けた瞬間、空気が変わった。


重い。

湿っているのに、空気はひどく乾いている。

呼吸をするたび、肺の奥がざらつく。


「......待て、来てる」


俺がそう言うと、セレナは即座に足を止めた。


「どこ?」


「......前方。噴水広場の奥だ」


本来なら、朝から人々で賑わっているはずの場所。

だが今は、静かすぎた。


噴水は止まり、水音ひとつしない。

日は照っているのに、広場の中央全体に黒い靄が渦を巻いている。


「こんな所にまで......」


セレナが小さく呟く。


靄は、ただ漂っているだけじゃなかった。


「......あれは!」


間違いない。

靄の中に、昨日見た影がいる。

まるで何かを探すように、ゆっくりと形を変えながら。


「こっちに来る......!」


影は俺を探していたかのように、一直線に迫ってきた。


「ーーっ!」


避ける暇もなかった。


「うわあっ!」


俺は靄に覆われ、

影が”中に入ってくる”感覚を、はっきりと感じた。


「ミナト!!」


遠のく意識の中で、俺を呼ぶセレナの声が響く。


その声はーー

前にも、どこかで聞いたことがあった。


「......」


――――――ここは......?


目を覚ますと、見慣れない天井が視界に入った。

横を見ると、カーテンが風に揺れている。

鼻をつく、薬品の匂い。


ベッドから起き上がり、カーテンを開けた。


「あ!先生。湊が目を覚ましたみたいです。

......お前、急に倒れたんだぞ。大丈夫か?」


「うん、大丈夫。ここは......保健室?」


自然と、そう口にしていた。

ーーそんな場所、知っているはずがないのに。


「そうだよ。俺が担任と一緒に運んできたんだ」


「ごめん。ありがとう、翔」


翔ーーかける?

知らない名前だ。


......いや。


俺が、言ってるんじゃない。


見た目は、確かに俺なのに。


......っ!


動けない。

俺の意思で、動いているわけじゃない。


じゃあ、いったいーー


ルナリアでのこと。

影が身体に入ったこと。

全部、覚えている”俺”がいる。


この身体は、影が操っているのか?


......それなら、ここは影の”夢”の中なのか?


「月島くん、良かった。何ともーー」


会話が、徐々に遠ざかっていく。


その時。


――――――帰りたい。


どこからか、声が聞こえた。


――――――ああ、もう時間......。やっと見つけたのに。


「お前は誰なんだ?なあ、答えてくれよ!」


心の中で叫んだはずの言葉が、声になっていた。


「......湊。ねえ、湊!しっかりして!」


俺は、ハッと目を開く。


そこには、必死な表情のセレナが、俺を揺さぶっていた。


「......セレナ?」


その声に、彼女は安堵の息をつく。


「......良かった。急いで、ここを離れるわよ」


そう言って、俺の腕を引く。

もつれる足を無理やり動かし、振り返った。


さっきまで俺がいた場所に、

魔物化した犬が、低く唸りながらうろついていた。


「ここまで来れば大丈夫ね」


「......ありがとう、助かった」


状況を理解し、礼を言う。


「湊が意識を失った時、歪みは消えたわ。

でも、魔物化した生き物までは消えなかった」


まだ何も言っていないのに、セレナは説明してくれた。


「どのくらい経った?」


「10分くらい」


「こっちにもいたぞー!」


冒険者たちが駆け抜けていく。


その中の一人が立ち止まった。


「湊!セレナ!ここにいたのか」


魔物討伐に来たのだろう。

カイルだった。


「魔物の様子は?」


「西区で飼われていた生き物は住人と一緒に避難できた。

......だが、野犬や野鳥は、ほとんど...な」


胸が締め付けられる。


「......もう少し早く気づいていれば」


「仕方ねえよ。今回の歪み、発生して間もなかったらしいからな」


「それなのに、ここまで......?」


広がり方が、異常だ。


「......カイルさん!俺たちじゃ手に負えない、早く!」


別の冒険者が駆け寄ってくる。


「悪い、話は後だ!」


そう言って、カイルは走り去った。


「湊......早く。早く思い出して」


セレナが、真剣な眼差しで俺を見る。


「思い出してって言われても......!」


――――――ミナト......思い出してよ。


泣きながら誰かが俺に訴えかけている光景が目に浮かんだ。


これって、俺の記憶?


その瞬間、頭が刺すように痛んだ。


昨夜の影が、記憶の底で暴れ出す。


「......っ、く......」


「湊?」


頭を押さえた瞬間、別の光景が浮かんだ。


――――――――――

煙突のある古びた木造の家の前。


「いい?ミナト。お姉ちゃんの言う事、ちゃんと聞くのよ」


「はーい!じゃあ行ってきまーす」

――――――――――


「......姉さんと、森へ行った記憶だ」


俺は、そう呟いていた。


「思い...出したの?」


セレナが、期待と不安の混じった目で覗き込む。


俺は、ゆっくりと顔を上げた。


「セレナ......姉さん?」


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