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夢の中で生きていた僕は、ある日目を覚まさなくなった  作者: 月白
第一章

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第六話

沈黙は、思っていたよりも長く続いた。


森の音は戻っている。

風も吹いている。

それなのにーーその場だけ、切り取られたみたいに静かだった。


「......答えない、か」


そう言ったのはカイルだった。

責めるでもなく、試すでもない、ただ事実を確認するような声。


セレナは、ゆっくりと杖を下ろす。


「知ってることが”ある”のと、”話せる”のは、別よ」


視線は俺に向いていない。

森の奥、歪みがあったはずの場所を、まだ見ている。


「それは、俺に関係あることか?」


俺の問いに、セレナは一瞬だけ動きを止めた。


「......ええ」


短い答え。

それだけで、胸の奥が嫌な音を立てた。


「でも今は、言えない」

「言えない、じゃなくて言わないんだろ?」


カイルが静かに食い下がる。


「言えば、湊は戻れなくなる」


その言葉には、はっきりとした感情が混じっていた。


「......どこに?」


思わず聞き返す。


セレナは、ようやく俺を見る。


「”向こう”にも”こっち”にも」


そう答えたセレナの瞳は、悲しげに揺れていた。

ーーその瞳を、前にもどこかで見た気がする。


「ごめんなさい。私が言えることは、ここまでなの」


そう前置きしてから、彼女は続けた。


「......もう夜も遅いし、先に戻るわね」


それだけ言うと、セレナはひとりで森を後にした。


ーー後は、あなたが見つけるのよ。


なぜか、そんな風に聞こえた気がした。


カイルは、ため息のように息を吐く。


「とりあえず、湊も今日は戻って休め。

俺はギルドに寄ってから帰るとする。じゃ、またな」


「ああ......またな」


――――――


部屋に戻った俺は、上着を掛け、ベッドに横になった。


深く息を吐く。


「......今日はとりあえず寝よう」


これ以上考えたところで、頭が余計に混乱するだけだ。

そう思い、そっと目を閉じる。


「......」


眠りに落ちそうになったその時。

部屋の隅で、何かの気配を感じた。


俺は目を開き、暗がりをじっと見つめる。


――いた。


朝、森で見かけた、あの影。


ただし、朝の歪みの時とは違う。

恐怖はない。

代わりに胸の奥が、じんわりと温かくなる。


懐かしい。

理由は分からないのに、そう感じた。


「......お前は、誰なんだ?」


気づけば、そんな言葉が口をついて出ていた。


――――――思い出して。


「......っ!」


その声が聞こえた瞬間、影は霧のように消えた。

同時に、まぶたが重くなり、意識が沈んでいく。



――――小鳥の鳴き声。

そして、小さな子どもの声。


「......ミナト」


「ん......」


目を開くと、見慣れない部屋にいた。

ただ、なぜだかーー知っている気がする。


「ミナト!ご飯できたわよ!早く起きなさい!」


母親らしき声が、俺の名前を呼ぶ。


眠い目を擦りながら、言われるがままにベッドを降りる。


......あれ?


俺、こんなに小さかったか?


ふと足下を見ると、そこには子どものような小さな足があった。


「もう!ミナトったら、いつまで待たせるつもり!」


勢いよく扉が開き、女の子が部屋に飛び込んでくる。

銀色のウェーブがかった髪が顔にかかっていて、表情はよく見えない。

けれどーー怒っているのは、はっきり分かった。


「あ、ごめん!今行く!」


俺は、駆け足で彼女に近づく。




――――そこで、目が覚めた。


「......夢?それとも、記憶?」


どちらとも分からない映像が、脳裏に焼き付いて離れない。


ぼんやり考えながら、ふと気づく。


「......え?」


俺は思わず飛び起きた。


そこはーーまだ、ルナリアだった。


いつもなら、戻っているはずなのに。


「......戻れなかったのか?」


それとも、さっきの”夢”の影響なのか?


疑問が、頭を埋め尽くす。


とりあえず身支度を整え、仕事部屋へ向かった。


扉を開けると、すでにセレナが地図を広げて待っていた。


「おはよう」


そう言ってから、一拍置く。


「......昨夜は、向こうに行けた?」


「おはよう。......それが、行けなかった」


「......そう」


そう言って、セレナは地図に視線を落とす。

その表情は、髪に隠れてよく見えなかった。


「......セレナの髪の色って、生まれつきなのか?」


俺は、ふいにそう尋ねていた。


「生まれつきだけど......急にどうしたの?」

驚いたように、セレナは髪を押さえる。


「いや、今日見た夢に出てきた女の子も、同じ色をしてたから」


その瞬間、セレナははっきりと目を見開いた。


「......何か、思い出したの?」


セレナの問いに、俺はすぐ答えられなかった。


思い出した、というには曖昧すぎる。

でも、夢と言い切るには、妙に生々しい。


「......分からない」


そう答えた瞬間、

セレナの指が、ほんのわずかに震えた。


その時だった。


ーーゴォン、ゴォン。

低く、重い鐘の音が、城内に響き渡る。


「これって......」


「ええ」


セレナは即座に答えた。


「歪みの影響で、魔物が発生した合図よ。急ぎましょう」


歪みは、放っておけば広がる。

広がった歪みは、生き物を歪ませ、魔物へと変える。


それはーー人間も例外じゃない。


稀に、歪みは人そのものを飲み込み、

跡形もなく消してしまうことがある。


「......行こう」


俺がそう言うと、セレナは短く頷いた。


二人で部屋を飛び出し、回廊を駆ける。


鐘の音が、まだ鳴っている。


胸の奥に、嫌な予感が広がっていく。



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