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夢の中で生きていた僕は、ある日目を覚まさなくなった  作者: 月白
第四章

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第二十四話

その樹を見上げながら、俺は胸の奥のざわめきを感じていた。


ーー触れなければならない。


理由は分からない。

だが、そう確信していた。


手を伸ばしかけた、そのとき。


どこからともなく、歌声が聞こえた。


幼い声。


重なり合う、やわらかな旋律。


――――――――――


みとこころ はなれたら

かげはよるに うまれでる


――――――――――


俺の動きが止まる。


ゆっくりと振り向くと、巨木の根元に子どもたちが集まっていた。


輪になり、手をつなぎ、歌っている。


――――――――――


かげがゆがみを よびよせて

せかいはひそり きしみだす


――――――――――


セレナが目を細めた。


「その歌......」


――――――――――


とりはそらから おちてくる

むしはつちから はいあがる


――――――――――


俺は子どもたちへ歩み寄る。


「それ、どこで覚えたんだ?」


歌が止まった。


子どもたちは顔を見合わせる。


一人の少年が答える。


「ディストラから来た、おばあちゃん」


「おばあちゃん?」


「うん。夜によく歌ってくれるの」


少女が続けた。


「みんな覚えちゃった」


胸が強く鳴る。


「そのおばあちゃんは今どこに?」


「あっちの家だよ」


指さされた先には、小さな家があった。


「......行ってみる」


俺は歩き出した。


セレナとカイルも続く。


――――――――――


家の前に立つ。


中から、かすかな咳の音。


俺は扉を叩いた。


「すみません」


しばらくして、ゆっくりと扉が開く。


白い髪の老女。


背は曲がっているが、その瞳は澄んでいた。


「......どちら様?」


挨拶をし、俺は続けた。


「ディストラから避難してきたと聞きました」


老女の表情が、わずかに揺れる。


「ああ......そうさ。もう帰れるかどうかも分からんがね」


俺は一歩踏み出した。


「さっき、子どもたちが歌っていた歌......あれを教えたのはあなたですか?」


老女は小さく笑った。


「ああ、あの歌かい」


懐かしむような声だった。


「ディストラじゃ、昔からあるわらべ歌さ」


セレナが身を乗り出す。


「最後まで歌えますか?」


少し驚きながらも、老女は頷いた。


「もちろんさ。子どもたちにずっと歌ってきたからね」


そして、静かに口ずさむ。


――――――――――


みとこころ はなれたら

かげはよるに うまれでる

かげがゆがみを よびよせて

せかいはひそり きしみだす


とりはそらから おちてくる

むしはつちから はいあがる

かげにさわれば まになるよ

はんぶんびとは さらわれる


あっちとこっちの あわいにて

だれかがひとり ねむるころ

きしみはしずかに とけてゆき

ゆめがほどけりゃ またゆれる


――――――――――


歌が終わる。


老女は遠くを見るように言った。


「子どもの頃ね、夜更かしすると親がこの歌を歌って脅かしてきたもんさ」


「......少し不気味ですもんね」


セレナが苦笑する。


「ありがとうございました」


俺たちは頭を下げ、家を後にした。



巨木のもとへ戻ると、レイシェルとアルディオンが待っていた。


事情を説明すると、アルディオンが頷く。


「確かに、そんなわらべ歌じゃったな」


レイシェルが静かに言う。


「あっちとこっち......それは、この世界ともう一つの世界を指しているのでしょう」


「それを知り得たのは、世界が分かたれた当初を生きた民......

そしてアルケア様と、アルカイア様のみ」


確かに。


この歌はーー

当時を知る者でなければ残せない。


俺は巨木へ歩み寄った。


迷いはなかった。


そっと幹に手を触れる。


次の瞬間。


眩い光が溢れた。


視界が白に染まりーー


俺の前に、ひとりの美しいエルフが現れた。

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