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夢の中で生きていた僕は、ある日目を覚まさなくなった  作者: 月白
第三章

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第十五話

「......え?」


眼鏡越しの翔の瞳が、一瞬だけ揺れた気がした。


いや、違う。

揺れたのは俺の方か。


「どうした?」


翔が首をかしげる。


「......いや、なんでもない」


記憶がすべて戻ったから、気づけたのか?


確かに、カイルと出会ったのは、俺が記憶を失ったあとだ。


翔は、幼少期からの友達。

似ていたから、無意識のうちにカイルと仲良くなったのかもしれない。


翔になら話してもいいかもしれない。


そう思いながら、保健室を出た。


――――――――――


廊下はいつも通りだった。


放課後のざわめき。

部活へ向かう足音と笑い声。

窓の外には、赤く染まり始めた空が広がっている。


「なあ、翔」


「ん?......やっぱり話したいことでもあるのか?」


「......ここ1年くらい、俺ってどんなだった?」


俺は確かに、ここにいた。

だが、翔は見たことがない。


「いつも通りだったけど?」


「だよな。悪い、変なこと聞いて」


翔は首をかしげたまま、俺を見つめる。


下駄箱へ向かいながら、考える。


翔たちと過ごしていたこの1年間の”俺”は、誰なんだ?


「おい、大丈夫か?」


そう言いながら、翔は下駄箱から靴を取り出す。




――――1年生の下駄箱から。


「ああ......悪い。考え事して――っ!」


視界が揺れる。


俺は、まだ16歳なのか?


じゃあ、この1年は何だ?


もしかして。


俺のこの1年はーー

3年前にいなくなった”湊の影”の中で見ていた景色なんじゃないのか。


感情がなかったのも。

翔を知らなかったのも。

3年前に親がいなくなったと思い込んでいたのも。


あれはーー影が見ていた夢。


全ての影は繋がっている。


歪みに吞み込まれたあの瞬間、

俺は湊の影と、繋がったんだ。


「悪い!先行くわ!」


「おい、待てよー!」


翔の声を背に、俺は走り出した。


――――――――――


家に着き、玄関のドアを開ける。


香りが漂ってくる。


......カレーだ。


1年前にも食べた記憶がある。

ルナリアにはない味だったが、妙に懐かしく、やけに美味しかった。


リビングの戸を開ける。


「ただいま」


「おかえなさい!走って帰ってきたの?」


湊の母親だ。


「うん、ちょっと運動。それより、夕飯はカレー?」


「正解!もうすぐ出来るからね」


俺は”いつも通り”を演じる。


記憶が戻った今、

母が二人いるみたいで、奇妙な感覚だった。


母と他愛ない会話を交わしながら、夕飯を食べる。


父は出張でしばらく戻らないらしい。


......正直、助かった。


久しぶりすぎて、記憶が追いつかない。


入浴を済ませ、自室へ向かう。


ベッドに横になり、天井を見つめる。


俺は1年だった。


だが、影になった湊はーー

3年も、何もない世界で過ごしている。


そう思うだけで、胸が締め付けられた。


歪みを静めることができたら、

彼は元の身体に戻れるのだろうか。


彼だけじゃない。


他の影はどうなる?


救われるのか。

それともーー消えるのか。


考え続けるうちに、意識がゆっくりと沈んでいった。


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