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夢の中で生きていた僕は、ある日目を覚まさなくなった  作者: 月白
第三章

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第十二話



「――っとまあ、これまでの事は大まかに言ってこのくらいね」


ふと、ミナトを見ると、髪色の一部が銀色に戻っていることに気づく。


「ミナト、髪が......」


「少しだけど、記憶を取り戻したから、とか?」


明日になったら、また忘れてしまっているかもしれない。

そう思うと胸の奥が締めつけられ、私は視線を落とした。


「忘れない......絶対に、忘れない」


ミナトはそう言って、まっすぐ私を見た。

その目に迷いはなかった。


「......ありがとう」


そう答えた、その時だった。


カイルが他の冒険者たちと一緒に戻ってくる。


「魔物!とりあえず、全部討伐し終わったぞ」


辺りはすでに夕焼けに染まっていた。


「大変だったわね。みんな疲れてると思うから――」


そう言いかけた私の言葉を、カイルが遮る。


「じゃあ今日は、一旦困難を乗り越えたってことで、宴でも開きますかー!」


「乗ったー!」

「もちろんカイルの奢りだよな?」


周囲の冒険者達が一斉に騒ぎ出す。


「えええ、俺かよ......。しゃーねーな!

セレナ、湊も行くぞ!」


「”湊”、どうする?」


「ああ、行こう」


私はカイルに倣い、ミナトのことを湊と呼ぶ。

まだ、すべてを取り戻したわけじゃないから。

俺とセレナは、カイルたちとの宴に参加した。

十六歳から成人とはいえ、日本の感覚が残っているのか、酒を飲む気にはなれなかった。


「エールもう一杯!」


隣を見ると、セレナが楽しそうにエールを飲みながらこちらを見てくる。


「姉さん、あんまり飲み過ぎないように」


「姉さん!?」


カイルが驚いた顔で俺たちを見た。


「お前ら、ずっとただの仕事仲間だと思ってたけど、違うのか?」


「こんなに似てるのに、ただの仕事仲間なわけないでしょ。

年齢だって、私の方が上なんだから」


「そんな様子、全然見せなかったのに......」


度肝を抜かれたような顔をしたカイルだったが、すぐに穏やかな表情に戻る。


「セレナ、少し変わったよな」

そう言って笑い、続けた。

「前より......話しやすくなった」


「うるさいわね。その口はエールで塞いどきなさい」


照れたようにそっぽを向く姉の横顔を見て、俺は少しだけ胸が温かくなった。


宴は夜中まで続いた。


――――――

朝、部屋の扉がノックされる。


「湊!記憶はどう?消えてない?」


不安そうな瞳でセレナがこちらを見る。


「ちゃんと覚えてるよ、姉さん。」


「良かった......」


あれから一週間が過ぎた。

毎朝、姉さんは部屋に記憶の確認に来る。

向こうの世界には、あれから一度も行けていない。

影と出会ってからだ。


また後で調べよう。今は――


「姉さん、母さんに会いたい」


記憶を少し思い出した今なら、何か分かる気がした。


「手紙では伝えてたけど、直接会うのは久しぶりね。

巡回も兼ねて行きましょう。エルノア村へ」


――――――


エルノア村。

ルナリア王国の町のはずれにある、小さな集落。


父が消えた歪み騒動以来、歪みは発生していないという。

住人も少なく、時間だけがゆっくりと流れているような場所だった。


「久しぶりに来たけど、やっぱり落ち着くなあ」


そう言って、セレナは深呼吸をする。


「なんだか懐かしい感じがするよ」


のどかな風景の向こうに、小さな山が見えた。


「あそこで、父さんが?」


俺はその山を指さす。


「......ルミナ山。そうよ。

後で登ってみる?」


「うん。何か思い出すかもしれない」


一軒の民家の前で、セレナが足を止めた。


「着いた」


煙突のある、古びた木造の家。


胸の奥に、確かな既視感が走る。


その時、扉が開いた。

現れたのは三十代後半ほどの女性。

風に揺れる金色の髪が、日に照らされ銀色に光って見える。


彼女は俺たちを見るなり、手にしていた洗濯物を落とした。


「セレナ......ミナト?」


「......母さん」


その瞬間、刺すような頭痛とともに光景が流れ込む。


――――――


家の裏で薪割りをしている母に声をかける。


「母さん!これからは僕が薪を割るよ!」


「あら、ありがとう。頼もしいわね」


「ふーん。前まではあんなにママ、ママーって甘えてたのに」


セレナが茶化す。


「僕はもう十歳なんだ!

立派になって、父さんの代わりになるんだ!」


――――――


たったそれだけの記憶。

それでも、確かに”母”を思い出せた。


「無事で......良かった」


母はそれだけ言うと、強く、強く俺を抱きしめた。


少し照れくさかったが、

その腕の温もりが、失われた記憶の隙間を

静かに埋めていくような気がした。


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