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夢の中で生きていた僕は、ある日目を覚まさなくなった  作者: 月白
第一章

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第一話



目を覚ますと、何かを失っている気がしていた。


それが夢の記憶だと気づいたのは、ずいぶん後のことだ。



「おはよう」

挨拶が飛び交う教室で、誰とも会話を交わさないまま席に着く。


「月島、今日の日直お前だぞ」

「あ、はい。起立——」


急に先生に声をかけられ、いやいやながら朝礼をした。


俺の名前は月島湊。

高校二年生。

何も考えず、何にも興味もなく、ただ生きているだけだ。


「ただいま」


返事はない。

親が家を出ていってから、もう三年が経った。

別に気にしてもいない。


欲しいものもないし、

週に三日のコンビニアルバイトで生活はまかなえている。


夜ご飯を食べて、風呂に入る。

あとはもう、寝るだけだ。


今日も、特に何もない一日だった。


おやすみなさい。


ゆっくりと目を閉じる。


——小鳥の鳴き声がした。


「ん……」


目を開くと、もう朝だった。


思い出した。


ここはルナリア王国。

俺が生きている世界だ。


ベッドから起き上がり、辺りを見渡す。

石造りの部屋に、朝の光が静かに差し込んでいた。

窓の外から聞こえてくるのは、人の話し声と金属が触れ合う音。


ここでは、それが朝の音だった。


俺は剣を取る代わりに、上着を羽織る。

今日も、やるべきことがある。


廊下に出て、左の突き当たり。

右手の扉を開けた。


「おはよう、湊」


「ああ、おはよう。セレナ」


彼女はセレナ。

俺と同じ十七歳で、ルナリア王国の住人。

そして、俺の仕事仲間の一人だ。


俺たちは——ボーダーキーパー。

世界に生じる「歪み」を巡回し、その存在を静める役目を担っている。


この仕事は、歪みを視ることができる者にしか与えられない。

俺がこの世界に来たばかりの頃、偶然にも歪みを目撃し、

それをセレナに見られたことで、この役目を任されることになった。


見ず知らずの俺によく任せたものだ、と今でも思う。


十六歳の頃から、俺は眠るとこの異世界に来るようになった。

最初は、ただの夢だと思っていた。

だが、来るたびにこちらでの生活を覚えていることに気づいた。

文字は最初から読めたし、触れた感覚も確かにそこにあった。


そして何より——

現実世界では何も感じなかった感情が、

この世界には、確かに存在していた。


「今日の巡回、北門の外だって」


セレナが机の上に地図を広げる。

赤い印が、城壁の外側に小さくついていた。


「また"薄い”のか?」


「ええ。朝方、風が変だったみたいよ」


風、という言い方で誤魔化しているが、

それが何を意味するか、俺たちは分かっている。


俺は地図を見下ろしながら、無意識に胸元を押さえた。


「......分かった。準備する」


剣はいらない。

俺たちがやるのは、戦うことじゃない。


歪みを視て、

ただ"そこに在る”ものを静めるだけだ。


それだけのはずだった。


この時の俺はまだ知らなかった。

今日の巡回が、

俺にとって最後の「帰れる仕事」になることを。

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